第185話・『親友は壊れていない、諦めただけ』

懐かしい声が聞こえたような気がした、何処で聞いたのだろうか?全てを達観して諦めたような声、その癖にまだ生きようと必死にもがいている幼い声。


俺だけがそう感じたのだろうか?振り向くとそこに一人の幼女が立っている、俺の腰ぐらいしかない身長、なのに人を緊張させるような独特の覇気がある、ついつい背筋が伸びる。


「にゅふふ、お嬢ちゃん達、珍しい剣を持ってるナー」


そうだ、この声だ、聞こえたような気がしたのは幻聴?そいつは目の前に立っている、何故だか視線を外せない、夢中になってしまう、俺はどうしてしまったんだろう?こ、こいつに甘えたい。


今まであった事を全て打ち明けてこいつに甘えたい、そんなどうしようも無い衝動に混乱している、み、店の中を戦力疾走してたから叱りに来たのか?でもこいつ幼女だぞ?店員かお客の子供か?


「あー、お前がお嬢ちゃんだろ?お父さんと離れたか?」


「一体何時の話をしてるナー」


「店員さんに聞いて見るか、語尾がだらしない幼女がいるって」


「おいおい、店長は呵々蚊ナー、目の前にいるだろナー」


「幼女が店長ってふざけてんのか、お前に何が出来る」


「その剣が魔剣に成り掛けているのはわかるナー」


「ま、マジかよ、すげぇ」


「ナナナー」


見下していたら見上げないと駄目な奴だったな、自分に無いモノを持っている人間は素直に尊敬するぜ、すんませんと頭を下げると幼女はクスクスと口に手を当てて笑う、何だか無駄に品がある、口調は砕けているのに品性を感じる。


狼狽える俺を見て首を傾げる、、紫檀(したん)や紅木(こうき)のように赤みの強い紫黒の髪がサラサラと肩に流れる、何故だろう、その髪を撫でた事があるような気がする、指の隙間にサラサラと零れるようなそんな髪質、最高の手触り。


「お前、何処かで会った事ある?」


「さあナー、呵々蚊はこの街で産まれて外に出た事は無いナー」


「じ、じゃあ気のせいか………魔法を付与した武器を製造して販売してるんだろう?すげぇな」


「ナナナー、冒険者が遺跡やらで見付けた武器を買い取る場合もあるナー、そっちの方が高額になるのナー」


「え、そっちの方が高いのか?」


「古代の文明が生み出した聖剣や自然に変化した魔剣の方が効果も様々で強力なのナー、その腰に差したファルシオンは珍しいナー、一体どうやったナー」


眉の上で一文字に切り落とされた前髪、腰の辺りで同じように直線に切られた髪、それもまた口調とは別に整然としていて生真面目な雰囲気を見る者に与える、だけど人懐っこいし良く喋る、俺も何故か気を許してしまう。


相手の懐に入るのが上手いのか?会話のペースが独特で眠気を誘う、光沢のある髪が鮮やかに輝いてるのを見て無性に触りたくなる、こいつの髪を俺は触って良いはずだ、だってこの髪は俺のしんゆう、ん、なんだっけ?


「あ、ふ、ファルシオンは、えっと、か、勝手に」


「人の髪をジロジロ見て、髪フェチナー?」


「いや、髪よりおっぱいやお尻の方だ」


「呵々蚊はオムネはペッタンコだしお尻もすとーんとしてるナー」


「あはは、幼女め」


「お姉さんも同じナー」


「あ!?」


「キレるの早いナー」


いや、グロリアよりもあるぜ?そこで思い出す、グロリアは何処だろう?近くにいないようだ、んー、俺を放置して何処に行ったんだろうか?お嬢ちゃん達と言ったよな?グロリアがいた事は確認しているはずなのに何も言わない。


この幼女なんか怪しいぜ、それでグロリアは身を潜ませたのか?しかしどうしてこいつの髪を触りたくなる?紅染を基本としてその上に檳榔子(びんろうじ)で黒を染み込ませる事で完成される色、親しみは無い、当然好きな色でも無い。


だけどこいつの髪を見ていると段々と好きになるような錯覚を覚える。


「ふん、俺はまだまだ成長期なのでお前と違って無限の可能性があるのだ」


「幼女の方が無限の可能性があると思うナー」


「ねぇわ、幼女はいずれババァになるんだ、それだけだっ!」


「ナー」


明るく濃い青紫色の瞳に光が灯る、錯覚か?俺と話しているとこいつが少しずつ生き生きして行くような気がする、二藍と呼ばれる色合いをした瞳には知性と諦めが見える、有り余る知性でもどうしようも出来無い絶望、それに屈している。


こいつの事が手に取るようにわかる、周囲の店員がじっとこちらを見ているのがわかる、何だか畏怖するような奇妙な視線、こいつ本当に店長なんだなぁ、疑わしいと思っていた自分を恥じる、俺の一部も優秀な幼女だらけだしなぁ。


肌の色はやや褐色で健康的だ、自分の白過ぎる肌を見て軽く溜息を吐き出す。


「ナー、お姉さんは魔剣に興味があるのナー?」


「ん、まあ、そうだな……ファルシオンがどうなるか知りたい」


「じゃあ奥の工房で魔剣について教えてやるナー、お前達、ここは任せるナー」


「うわ、おい」


「さっさと行くナー」


手を掴まれると同時に視界が乱れる、哀愁、胸の内から溢れる感情と脳味噌が揺らされるような感覚。


『レイとキクタはうるさいナー、あの二人は喧嘩させといてさっさと逃げようナー、二人っきりの方が楽しいナー』


ザザッ。


ザザザザッ。


ザザザザザザザ。


なんだ、いまの、いまの、はいいろのせかい。

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