閑話139・『キョウちゃんは損な役割ばかり、グロリアは得な役割ばかり』
『えー、奢ってくれんの?やったー、お兄さん優しいな、キスしちゃる』
『うぇぇえ、お金足りないっ、え、お尻触らせてくれたらタダにしてくれんの?触っとけ触っとけー』
『ふふ、可愛い、童貞だろ?そんなもん大事にしといても意味ねぇぜ、俺で捨てるか?わはは、冗談だぜ』
あ、危うい、ここ数日で起こった出来事があまりにも危うくて絶望で膝が折れる、グロリアがいないとキョウのポンコツ具合がヤバい、性的な意味でもヤバい、仕事に没頭している場合じゃないよグロリアっ。
両手で頭を抱えて微動だにしない私を見下ろしながらキョウは呑気に日向ぼっこしている…………勝手に忍び込んだ民家の庭木を楽しみながら縁側で寝転がっているキョウ、だらしなく両足を開いて目も当てられない状況、お、女の子なのにっ。
湖畔の街は今日も静かだ……………下着を丸出しにして眠る自分の半身に呆れつつグロリアぁと心の中で毒づく、しかし何処までも無防備だよねキョウ、もし私が男だったら誘ってるのキャッホ~って感じで美味しく頂いてるよ?
「むにゃ、干し芋美味しい」
キョウは干し芋が大好きだ、実家で暮らしていた時は本当に苦労をした、甘い食べ物といえば干し芋ぐらいだったので好んで何度も口にした、サツマイモをすだれに広げて冬場の寒風を利用して天日で一週間ぐらい干す事で完成する干し芋。
収穫後に暫し寒気に晒す事で糖化する事を知った時はキョウも喜んでいたっけ、何でも挑戦してチャレンジするのがキョウの良い所だ、だらしない格好のまま干し芋をモグモグ食べているキョウ、完全に瞼は閉じているしっ!
「キョウ、太るよ」
「ここは精神世界なので太らない」
「うっ」
「永遠に干し芋を食べても太らない」
「ぱ、パンツ見えてるよっ」
「キョウが選んでくれた可愛い奴なので恥ずかしくない」
「うぅっ」
「うへへへへ」
口答えのレベルが上がっているっ、腹黒グロリアと一緒に生活する事で無駄に舌先が鍛えられている、さらに覚えたての頃にグロリアが毎晩求めてしまったせいで頭の中が常時お花畑状態だ、性に関してもモラルが低過ぎる癖にすぐに男の子に好意を覚える。
し、尻軽に成り掛けている、グロリアがいない時が特にヤバい、あまり認めたくないがグロリアと一緒にいる時はグロリアの事しか見ていない、左右の違う色合いの瞳に映し出されるのはグロリア一人だけだ、他の人間は全て有象無象として視界に入っていない。
それだけグロリアに夢中なのに仕事中の彼女に対しては妙に余所余所しくなる、両親が家族を食べさせる為に必死で働いていた時もそうだった、キョウは大事な人が真剣に何かに取り組む時に一歩下がってそれを見守るのだ、それはそれで良いのだが問題もある。
そんだけ空気を読めるのに人一倍寂しがり屋なのだ、めんどい子なのだ。
「干し芋うめぇ」
「キョウ………下着を隠しなさい」
「むにゃむにゃ」
「キョウっ!私の言う事が聞けないのっ!」
「ひぃあ!?」
仕方が無いので怒鳴る、その瞬間にそそくさと猛スピードで部屋の隅に隠れるキョウ、普段大声を上げる事が無いので喉が痛いよォ、けほっ、ガタガタガタ、面白い程に小刻みに震えながら周囲に目配せをするキョウ。
周囲に干し芋が散らばっている事に気付いて顔面蒼白状態、周囲を警戒しながらも干し芋を一つずつ手元に集める、挙動不審、小動物そのものの態度に呆れてしまう、情けないやら可愛らしいやら様々な感情が胸の中で渦巻く。
「キョウ、正座」
「ほ、干し芋」
「正座」
「は、はいぃ」
ちょこん、二度呟いてやっと言われた通り正座するキョウ、ここ最近のだらしない態度について指を立てて説教する、私だってこんな役はしたくない、だけどキョウを想えばこそだ、ぐ、グロリアはキョウに嫌われるような役割を絶対にしない。
卑怯な女だ、その役割を私が果たしている事を知っている、キョウはグロリアには何でも素直に喋る、口止めしている事は頑張って我慢するがそれ以外だと何でも喋るのだ、私がその役割を果たしている事を知って心の中で嘲笑っている、感謝する事は無い。
でも、でもぉ、キョウは可愛い女の子なんだからっ!
「さ、最近、キョウが俺に厳しいっ、グロリアはあんなにも優しいのに!服を買ってくれるし!」
「ぁぁああああああ、まんまとあいつの掌の上で踊らされてるよォ」
キョウを抱き締める…………説教されたり抱き締められたりで完全に混乱しているキョウ、それでも私より混乱していないけどねっ、グロリアがほくそ笑む姿が容易に想像出来る、あのアマァ。
「キョウ?あ、やっぱり俺が大好きなんだな」
「大好きってレベルじゃなくて愛してるよォォ、ううううう、叱ってごめん、干し芋食べる?」
「食べるぞ、もぐもぐ、キョウもグロリア見たいに何時も俺に優しかったら良いのに」
「ぁぁぁ、殺意が」
「ん?」
「わ、私にも干し芋を食べさせて!あーんってして!じゃないとグロリア殺すよっ!」
「干し芋の有無でっ!?」
ふふふふふふふ、そろそろ限界だねェ、あーん。
グロリアぁ。
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