閑話138・『プライドが高すぎる癖に泣き虫な主人公』

自分では完璧に扱えていると思っていても実はそうでも無かったりする、ササの錬金術と俺の錬金術、知識も技も共有しているはずなのにどうしてこうも差が出るんだろう。


ササの才能も肉体も全て吸収したはずなのにどうにも納得出来ない、妖精の生命力を等価交換としてあらゆる奇跡を実現する、宿の裏にある小さな庭で何度も錬成するがササの生み出した蛍石のように七色のモノを生み出せない。


フローライトとも呼ばれる蛍石は内部の不純物によって様々な色に変化する、希土類元素を含むモノは蛍光して淡く輝く、しかし何度錬成しても七色のモノは出来無いし蛍光現象を起こすモノも出来無い、舌打ちして地面に寝転がる。


「嘲笑えば良いぜ」


「か、神様、錬金術如きでそのように」


「うわぁぁ、上手に出来無いっっ、ササめ、ササの癖に生意気だぞっ!」


錬金術師として全てを捨てて生きて来たササが錬金術を如きと罵るのは割と面白いなあ、今のこいつにとって神である俺を悩ませる下らない能力なのだろうが俺からしたら納得出来ないっ、心配そうに俺を見詰めるササを睨む。


寝転んでいるので見上げる形になるのは当然の事。


「俺を……見下しているのか?物理的に」


「も、申し訳ございません」


恐ろしい程の早業で土下座するササに鼻を鳴らす、ふんっ、しかしササの天性のセンスは素晴らしい、そりゃ錬金術に没頭するよな、同じ舞台に上がって初めてわかるササの凄さ……ブルブル震えながら土下座しているこいつは紛れも無い天才なのだ。


子兎のように震えている姿が滑稽なので頭を蹴飛ばしてやる、歓喜の声が聞こえる気がするが多分勘違いだろう、こいつの絶叫を聞きたければこんな足遊びでは無く眼球を抉り取らないとなっ!しかし今はこいつに指導されているので抉り出すわけにはいかん。


「どうしてササはこんなに上手に出来るんだ?不純物の配合パターンも同じだし希土類元素も含ませているし」


「ど、どうしてでしょう、神様の御業は完璧です、近くで見ていても惚れ惚れする程ですっ」


「そんなお世辞は別に良いんだぜ?つーかお前の技の方がすげぇのに無理に俺を持ち上げるな、気分悪いわ」


「うぅうぅう」


涙目になって狼狽えるササ、丸みを帯びた大きな瞳は様々な魔眼を溶かして一つにしたもので黒目の部分は円状に虹色の色彩になっている、カラフルな色彩と異様な興味心を含んだ瞳は見る人間によっては不気味に感じる、本体である俺からしたら自慢の部分だ。


かつては研究に明け暮れていたせいか肌の色は白色、研究で若さを保っているのでマシュマロのような肌だ、小さな鼻と色素の薄い唇は人形のようで本人はあまり好きでは無いらしい、整い過ぎた容姿は他者に嫌悪されるからな、堂々としていられるのはグロリアやキョウぐらいだ。


髪の色は若芽色(わかめいろ)で植物の新芽を連想させる初々しくも鮮やかな色をしている、それをお団子にしてシニヨンヘアーにしている、研究に邪魔にならない程度のお洒落、研究は大好きだが女性である事を否定するつもりは無い、かつてのササの信条だ。


服装は作業着を兼ねたショートオールに白衣、あちこちに血液が付着しているのはササが狂っていた時代の証、ショートオールなので膝小僧も出ていて可愛らしい、大きめのスリッパにブカブカの白衣を着ている姿はまんま子供だ、そして俺の賢い下僕だ。


「ササは俺をバカにしている、どうしてこんな事も出来無いんだ?って嘲笑ってる、絶対にそうだ」


「そ、そんな事はありませんっ!」


「事実として俺より優れてるじゃん、じゃあバカにしてるじゃん」


「ササは全てに置いて神様より劣っていますっ、れ、劣等種ですっ」


「そ、そこまで言わなくても良いぜ?」


「り、両目を抉って頂いて、さ、ささやかな楽しみを……それだけが、さ、ササの価値です、れ、錬金術なんて、ササにはいらないです」


「ササ」


「か、神様に嫌われるような、そ、そんな、そんな錬金術はササの錬金術では、ないです」


「はぁ」


人生の全てを捧げたソレを軽々しく捨てるなよ、それだけ俺が大事だって事は素直に嬉しいけど何だか悲しい気持ちにもなる、ササに嫉妬して口汚い言葉を吐き出した俺が悪い、しかし素直にそれを伝えられない。


自分でも面倒な性格だと思うが特にササの前だと素直になれない、こいつの信仰があまりに真っ直ぐで無垢なせいだ、鼻の頭をポリポリ掻きながら悩み、ど、どうしよう、ササから錬金術を取り上げるのは嫌だなぁ。


「うぅうう、うぅうう」


「か、神様?」


「だ、だったら、お、俺がササより上手に錬金術を扱えるように……も、もっと教えて」


「あ」


「お、おしえてぇ」


声が震えてしまう、プライドがズタズタになるがササが傷付くよりはマシか?悔しくて涙は出るわ、嫉妬で声は震えるわ、情けなさで鼻水は出るわ。


「み、御心のままにっ」


百パーセント笑顔で微笑んだササは俺と対照的だった。


そしてやっぱりササに追い付くのは暫く無理だなと実感した、て、天才めっ。

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