閑話136・『麒麟・キス』
最近は妙な客が多い、どうやら魔物の間で俺の事が噂になっているらしい、敵意を向けられるのは嬉しい、無視されるよりもずっとずっと楽しい。
グロリアはご自分の敵はご自分でどうぞとさっさと先に行ってしまった、私がいたら力を発揮できないでしょうと?流し目がそう言っていた、うん、そりゃそうだけどな。
人型の魔物はいない、下位の魔物の群れに知性は感じられない、こいつ等を指揮している親玉は近くにいねーか?溜息を吐き出す、ちなみにグロリアが通った場所だけは躯の山になっている。
「取り囲まれるのモテモテで嬉しい」
エルフライダーの能力に酔いながら笑う、そんな俺の横に静かに佇む一部は何も言わない、喋る許可を与えていないしな、息をするなと言えば平然とそうするであろう狂信的な一部、実用的で使い勝手が良く強力だ。
ローズクォーツ、美容の秘薬とも呼ばれている女性の美しさや一途な愛を彷彿とさせる鉱石、紅水晶とも呼ばれていて美しい色合いで人々を楽しませる、そんな桃色の薔薇と同じ色合いの瞳、それが敵意に染まっている。
神が創造した聖獣と魔王が製造した魔物、ふふふふふ、結果は見えているし麒麟はプンプン怒っている、書き換えられた脳味噌にはしっかりと俺に敵対するあらゆる存在を抹消するように刻み込んでいる、そしてそれがこいつの喜びとる。
「殺せ、沢山殺せ、もっと汚れて落ちぶれて聖獣から俺のペットに相応しい病気だらけの野良犬に成り下がれ」
「御意」
本来は地上の生物に干渉する事など無い天上の生き物、麒麟は跳ねるように地面を蹴飛ばし魔物の群れの中に飛び込む、無色器官でも傷つける事の出来無かった鋼の肉体、地上の魔物如きがどれだけ集まっても勝てる道理は無い。
小さな腕が振るわれる度に肉が裂け臓物が弾け骨が折れ血が舞って絶叫が周囲に響き渡る、聖なる獣が薄汚れた魔物の血液で汚れる様を見て興奮で太ももを擦る……んふふふ、麒麟って小さくてロリ臭くて糞真面目で可愛いなぁ、ちゃんと命令通り動くし。
麒麟には額にも二つの瞳が存在している、合計で四つの瞳がそれぞれ別の場所を捉えている、俺に近付く魔物に対しては先手先手で抹消する、主想いなのも麒麟の良い所だ、このロリ俺のォ、この可愛いロリ俺のォ、クスクスクス。
「地上の獣はこうも薄汚れているのか」
「あははは、お前だってそうじゃねぇか」
「はっ、ご主人様に飼われている卑しい聖獣が我です」
「聖獣が家畜として人に馴れるのか興味はあるな、楽しいなァ、お前を飼育するのは楽しい」
「光栄です」
「殺せ殺せ、そいつ等は俺を殺そうとするんだ、俺を殺そうとする相手だったらかつてのお前の主も殺すんだよな?」
「当然、しかしかつての主、ですか」
「肝無巽光(かんむそうこう)」
「ああ、そのような輩もいましたね、ご主人様の母上である事しか価値の無い」
何て事の無いように呟くが仕込みは上々って事かね?あれだけ主神に対して忠誠を誓っていたのに少し脳味噌を弄ればこれだ………人間も神様も魔物も何一つ変わらない、脳味噌クリクリしちゃうとすぐにおかしくなってしまうんだから♪
背後から麒麟を襲おうとした魔物の体に電光が走り黒焦げになる、そして風に吹かれて灰になる、この世界の全てを把握しているような麒麟の動きには素直に感心する、俺、こいつに良く勝てたな、脳味噌クリクリして良かったぜェ、あはぁ。
山吹色(やまぶきいろ)のソレは前髪を水平に一直線に切り落としている、肩まで伸ばした髪も同様に一直線に切り落としていて清潔で整然とした印象を見るモノに与える、ふふふふふふふふ、真面目って感じで可愛いなぁ、ほら、もっと殺せ、俺の為に殺せ。
「魔物を殺すのは楽しいか?」
「いいえ、特に何も感じませんね」
「そうかそうか、楽しめるようになったら一人前だな、やっぱりお前は神様だ、地上の生物は命を奪うのが一番大好きなんだぞ、一番楽しい遊びなんだ」
「そう、なのですか、我は」
「お前は俺の一部なんだからちゃんとアンアン喘ぎながら命を奪えるようにならないとな、股を擦りながらな、一緒に努力してそうなれるように頑張ろうなっ!」
「は、はい」
「お前が無能だからちゃんと躾けてやるんだぞ?」
上手に魔物を殺せているようで飼い主としては安心だ、麒麟の見た目は7~8歳ぐらい、俺の一部の中ではかなり幼い容姿だ、俺の腰ぐらいまでしか背丈も無いし妙にそそられる、生真面目さがその表情からわかるぐらいだ、余裕の無い幼女とでも言えば良いのか?神の造形物に相応しく全てが整っていて黄金律によって構成されている、美しい。
頭には頭巾(ときん)と呼ばれる多角形の小さな帽子のような特殊な物を付けている、そして右手には錫杖(しゃくじょう)と呼ばれる金属製の杖を携えている、やっぱりこいつは東を統べる神様の眷属なんだな、俺達の衣服とまったく違う。
「全員殺せたか?よし、頭踏んでやる」
「はっ」
足を置くには丁度良い、袈裟と、篠懸(すずかけ)と呼ばれる麻の法衣を身に纏った麒麟、腰の帯にぶら下げたほら貝を加工した楽器が何だか愛らしい……うーん、頭を踏み付けるのは飽きたな、跪こうとする麒麟の顎を掴んで唇を奪う。
舌も絡めない、唾液も交換しない、普通のキス、何だかしたくなった、何でだ?
「上手に殺せたからご褒美、もっと尽くせよ」
「は、はいぃ」
なのに舌を絡ませるよりも嬉しそうな顔をしやがって……聖獣だろうが何だろうが女はよくわからん。
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