閑話135・『キョウ・キス2』
相談してみた、と言っても俺が相談出来る相手なんてキョウぐらいしかいないけどなっ!彼女であるグロリアにはなるべく心配させたくないので悩みは打ち明けない。
湖畔の街は今日も静かで今日も美しい、涼しげな青い湖面、その周りを囲むような小さな建物が幾つも並んでいる……風光明媚な街、自然と人工が仲良く調和している。
俺の悩みを打ち明けるとキョウはぼーっとした顔で『そぉ』とだけ呟く、そこに覇気は無くやる気も無い…………頬を膨らませて両手を忙しなく動かして抗議する、ええい、ちゃんと聞けや。
煉瓦造りの屋根の上で日向ぼっこをしているキョウはまるで猫のようだ、眠いのか口元をモゴモゴさせて丸まっている、キョウは俺が寝る時に丸まるんだねと言っていたがお前もじゃんか。
何処までも広がる蒼い空と入道雲、なのに涼しい、冷涼な夏の光景、日向ぼっこするには快適な気候だが俺まで一緒に丸まるわけには行かんのだっ、ちょっと話を聞いておくれよ。
「キスしてる時の俺の顔って不細工じゃね?グロリアは何も言ってくれないんだけど」
「キョウも一緒に丸まろうよォ、んふふふ、一緒にのんびりしよう」
「聞いて無い!?俺が勇気を出して告白してるのに何だよっ!目は半開きになってないかな?鼻の穴膨らんで無いかな?」
「はいはい、可愛い可愛い」
「すげぇ投げやりなんだけどっ!!そんな台詞じゃ納得出来ないぜっ!」
「そもそもどうしてそんな事が気になるのォ?今まで何とも無かったよねェ、ふぁ」
「キスされている時に目を開けたらグロリアのキス顔が超絶美少女過ぎて不安になった!あいつおかしいっ!」
「鼻の穴に指突っ込んであげなよ、笑っちゃうほどに不細工になるから」
「しようとしたら躱されたっっ、下の穴は良いのに上の穴は駄目とか意味わからん!!」
「お、落ち着きなよォ」
ふぁー、上半身を起こして伸びをするキョウ、やっと俺の相談を聞いてくれる気になったらしい………屋根の上から見下ろす街は恐ろしく整備されているのに誰もいない、俺とキョウとキクタの街、一度だけ灰色狐を連れて来たっけ。
この街は様々な色を使って建物を塗装している、カラフルな色彩と古びた木組みが実に合っている、一度キョウと何処までこの精神世界が続いているのか試した事がある、しかし結果は予想外のモノだった、永遠に砂漠が続いているのだ。
街を囲むように岩塩鉱山が存在しているがその向こうは砂漠なのだ、どんな地理だよと突っ込んで見たものの俺とキョウの精神で構成された世界なので責任は俺達にある、実は割と虚無的なのか俺達?考え過ぎると少し怖くなるぜ。
「だったら両目を狙うしか無いねェ、一度目のソレで鼻の穴を狙ってるって刷り込みをされているはずだから」
「え、キスの話だったよな?何時からグロリアを倒す話になったんだっけ?」
「そうだね、倒すんじゃダメだよ、確実に息の根を止めて殺さないと」
「き、きす」
「切り殺すの略かなァ?」
「き、キス」
「切り殺すの略だよねェ?」
何処からだ?何処からキョウの逆鱗に触れた?もしかしてグロリアとキスしたって所かっっ、自分の鈍感ぶりに呆れてしまう、や、やばい、口を滑らせてしまった、それはもう見事に滑らせてしまった。
ずずずずっ、一気に距離を詰めるキョウ、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白なのに本人からは禍々しいオーラが垂れ流し状態でシスターって何だっけと疑問に思う。
瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、その美しい瞳がしっかりと俺を捕捉している、な、何だよ?
「キスしたんだ」
「うぅ」
「別に良いけどねェ」
「いたたたたたたたっ」
頬っぺたを無造作に引っ張られる、涙目になって謝るが細い指先がぎゅうと頬を抓る、ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている。
見惚れた瞬間にキスをされる、キスされた現実よりも頬っぺたが痛くて涙目になる、すぐにそれに気付いたキョウが瞳を舐める、ぺろぺろ、視界は歪む、ぐすん。
「痛かったし」
「キスしている私の姿はどぉ?」
「か、可愛いけど」
「キョウと私の顔はァ?」
「お、同じ」
「そーゆー事♪」
どーゆー事だぜ?!
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