閑話134・『グロリア・キス2』

彼氏として彼女をリード出来るような男になりたい、それなのに何時もグロリアに押し倒されるわ脱がされるわエロい事されるわで最近の俺ってどうなの?


考えたら頭が痛くなって来た、ちらり、グロリアの方を見ると何だか分厚い本を読みながらベッドの上で寝転がっている、表紙の装飾からして高そうな本、お、俺の相手もしないでっ。


何時もならこの時間帯はせっせと励んでいる時間だ、それなのに自分の都合に合わせてこうやって俺を一人ぼっちにする、何だか気に食ないぜ、その態度っ、外では梟が鳴いている、俺も泣きたいよ!


「――――――――――――――」


ページを捲る音だけが静かな部屋に響き渡る、先程から自分の呼吸音が気になって仕方が無い、それ程までの静寂、少しは俺に構ってくれたら良いのに薄情だぜ、この冷酷シスターっ、ジーーっ、睨んでいるのに気付いていないし。


それとも気付いているのに無視している?ちらっ、急に俺の方に視線を向けるグロリア、感情の読み取れない瞳、青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が無造作に俺を見詰めている、ぶ、不躾な態度っ!!


「はい」


何故か上半身を起こして自分の太ももをポンポンと叩く、視線は本に向けたまま何でも無いように呟く、膝枕してやるから早くおいで………言葉は無くても意味は伝わる、な、何だと、俺がまるでそれを望んでいるかのような対応。


しかしこのまま無視されるよりかは幾らかはマシか?そそくさとグロリアのベッドに移動する、甘い匂い、グロリアの匂いに脳味噌がおバカになる、導かれるままに太ももに頭を重ねる、ぷにぷに、むにむに、上手な擬音が浮かばない。


両足の間にお尻を落とした女の子特有の座り方、俺には恥ずかしくて出来無いソレをグロリアがするとどうしてこうも絵になるのだろうか?優しく頭を撫でられながら子供扱いされている事に気付く、でもこのままやるって雰囲気では無い。


全てが性欲に直結しているわけでは無い、グロリアの太ももの感触を味わえるだけで十分だし何だか故郷の母親を思い出して後ろめたい気持ちになる、俺の髪は癖ッ毛だから手櫛でも厄介だろうに、グロリアのサラサラの髪を見詰める。


銀色のソレは夜空の星の煌めきのように美しい、憧れる、こんなにサラサラだったら髪を整えるのも楽かな?手で触れると指の隙間に流れる、ずっと触っていたい素敵で無敵な感触に自分のボサボサ頭が嫌になる、すげぇ嫌だぜ。


「俺もグロリアと同じような髪になりたい」


「?同じでは無いですか、キョウさんは金色も混ざっていますが半分は銀色ですし」


「髪の色じゃなくて髪質、お、俺の髪なんかおかしいもん、もじゃもじゃしてる、すげーもじゃもじゃしてるもん」


「モジャモジャ可愛いじゃないですか」


「もじゃもじゃは可愛くないよ、グロリアのサラサラの方が可愛いもん、絶対そうだもん、俺わかるもん」


「キョウさんのモジャモジャは特別なんです」


「そんな事無いもん、グロリアは何もわかってない、女の子の事が何もわかってないしー、ふーん」


「あら、拗ねますか」


やっと本を置いてくれた、構ってくれたのは嬉しいけどそれを表情に出さないように気を付ける、甘えたがりだと気付かれる事が怖い、別に良いもん、グロリアが相手してくれなかったら一部のみんなと遊ぶし、キョウだっているし!


グロリアって自分の事を美少女だと良く口にするけどそれがどのようなレベルのものなのか気付いていないよな、俺の方が可愛いとか言うし、それって絶対に嘘じゃん?自分の事も俺の事も客観的に見れていないって事だもんな。


何でも俯瞰で見るグロリアにしては珍しいな、耳を触られると体が跳ねる、悪戯をあまりするのは禁止、睨んでも柔らかく微笑むだけで何も言ってくれない、視線の先には読み掛けの本、お、俺の勝ち、本なんかよりも俺の方がグロリアに大事にされているもん。


「グロリアだけだよ、この癖ッ毛を可愛いって言う人」


「それは初耳ですね、私しか気付いていないキョウさんの魅力がまた増えました」


「そうだよ、グロリアだけが勘違いしてるんだよ、耳は止めてよ、くすぐったい」


「キョウさんの御髪は良い匂いがしますね」


「そ、そんなわけないじゃん」


「お日様の匂いです、私をあの暗い地下室から連れ出してくれる外の匂い」


「グロリア?」


懐かしむように呟いたグロリアに違和感を感じて視線を上げると恐ろしく整った顔が目の前に、俺は瞼を閉じてんーと唸るがグロリアは奪うように俺の唇を苛める。


暗い地下室?少しだけ、少しだけグロリアの過去が見えた気がした、しかしそれ以上何も問い掛ける事は出来無い、唇を奪われているから、キスをされているから、恐る恐る瞼を開けるとグロリアの真っ直ぐな瞳が俺の瞳に重なる。


だ、だから、瞼を閉じろって!暫しの後、ベッドが軋み本が床に落ちるのを俺は呆けたように見詰めていた。

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