第180話・『苔人間登場、主食は苔、共食い』

勇者の元仲間は見つから無いしキョウは泣くし首は折れるしまったく最高の日だ、魔力が爆発的に高まり切断された腕が巨大な肉塊へと変貌する。


異変を感じた百合の皆さんが魔法で応戦するがソレを吸収する形で肥大化する、何時も俺の成長を見守ってくれていたんだよな?今回は俺が見守るぜ?優しい気持ちになる、首の骨は折れたまま。


「な、何だコレは?!切断した腕が勝手に動いている?」


「魔法は使うなっっ、魔力を吸収して成長している、直接的に干渉しなければ大丈夫だ」


「封印術の対象を本体からこの腕の化け物に切り替えろっっ、こいつはもう虫の息だっ、それよりも得体の知れないこいつをどうにかしろ」


大混乱♪ぽきき、頭を掴んで首を修正する、激痛は俺に爽快感を与えてくれる、こっちの方を見て無いようだし暫くは見学しよう、ふふ、何時の間にか首の位置が戻ってたら驚くかな?ワクワクするよぉ。


床を這うようにして一面に苔が広がる、周囲の建物を蹂躙するように増殖するソレは異様の一言、筆苔、羽根羊苔(ハネヒツジゴケ)、細葉翁苔(ホソバオキナゴケ)、髢文字苔(カモジゴケ)、砂苔、這苔、杉苔、多種多様の苔が増殖する。


一瞬で世界が切り替わる様に百合の皆さんも驚いている、んふふふふふ、魔物を殺すのが得意だったらそこで具現化しかけてる魔物を殺して見せて、殺すの見たい見たい見たい見たい見たい、俺の一部を上手に殺して下さい。


肉塊が転がっている場所を中心として魔力が走る、魔法陣、封印出来るかなぁ?…みんなお鼻をピクピクさせてありったけの魔力で頑張っているけど使い切って大丈夫ぅ?んはぁ、俺もいるよ、俺もまだお前たちを殺す余力があるよ、ちゃんと出来るよ。


「な、何だ、この魔力は……感じた事の無い、何て濃度と質量だ」


「は、早く封印しろ、このままだと街に被害が出るっ、ちっ、俺達の結界の外側からここを包むように結界を展開してるぞ」


「我々を逆に逃げれないように封じている?これでは外の人間は異変を感じれないっ」


ありがとぉ、ありがとぉ、説明ありがとぉ、どっちみちお前たちは逃げれないゾ、お前たちの主が俺に気に入られてキョウを泣かせたんだから、あれれ、それって俺が悪いのかなァ?わかんなくなっちゃう、わかんないわかんない。


ずるるるる、床を這い蹲って移動するが誰も俺を見てくれない、片腕が無いので何だかバランスがおかしい、上手に這い蹲れない、上手に移動出来ない、切断された肩の傷口に床に散らばったガラスの破片が幾つの突き刺さる、ふふ、踏んで遊んだせいだ。


封印術の魔法陣を構成する魔力すら吸収してさらにさらに大きくなる俺の片腕ちゃん、お前たちは熱心に餌をやるなぁ、何だか感動しちゃう、生き物を育てるのが好きなんだねぇ、その生き物は魔王の娘だからお気をつけてねェ、どうなってもしらないよー。


肉塊が蠢きながら人型になる過程は酷く醜い、吐きそうになっている奴もいるが失礼だなァ、月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪が舞う、月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、見惚れる、それは人外の証、人外の美しさ。


月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白、そんな美しい髪をフレンチショートにしている、上品な印象を見る者に与える、前髪は斜めに流していて清潔感がある、無性に撫でたくなる衝動を抑える、ふふ、俺に片腕が無いんだぜ?


肌の色も同様に白いのだが頬の部分に奇妙な刻印がある、それが何を意味するのかこいつにしかわからない、瞳の色は薄い桜の花の色を連想させるソレだ、ほんのりと紅みを含んだ白色の瞳は見ていると心の底を覗かれているような不思議な気持ちになる。


全てが儚い色合いで構成された少女、穏やかな顔付きは幼女であるのに何故か包み込まれるようなイメージ、ニッコリと笑っている、ゴキッ、彼女が微笑んだと同時に百合の皆さんの一人の首が折れる、ああ、肉を突き破った骨の表面に苔が密集している、赤く染まった苔。


「な、なにが起こったっっ」


「こ、高位の魔物だっ、人型のっ、人型になれる程のっっ、封印は中止だっっ、殺せ!これが奴の本体かっっ」


ぜーんぶ間違い、こいつの本体は俺だし人型になれる魔物では無く最初から人型の魔物だぜ?んふふふ、前者のソレと違って後者のソレは恐るべき能力を備えた魔王の傑作だ、今は俺の一部であり俺のモノであり俺を傷付けられて怒っているそんな存在。


詰襟で横に深いスリットが入った独特の服装をしている、東方服のように思えるが少し違うようにも見える………旗袍、チャイナドレスとも呼ばれる東方の民族のものだ、お母様、お母様、お母様、ああ、でもこいつもある意味ではお母様か、たすけてよ。


「うで、うで、うでないよ」


「アタシのキョウ、アタシの……」


「こいつらにいじめられた、いたいよぉ、たすけて、たすけて、おかあさん」


「アタシの事をお母さんって……鶏やら犬やら散々言ってくれたのに」


「おかあさん、おかあさん、しゅき、しゅきしゅき」


「そうね、お母さんも貴方の事が好き、だからね」


ゴキッ、ゴキッ、ゴキッ、同じように首の骨が折れて同じように骨が自己を主張する、まるで体内に隠された鋭利な刃物、骨は刃物となって内側から肉を切り裂く、絶叫も無い、声帯をばっさりーーー、血がぴゅぴゅ、あはは、潮ふきー、赤い潮ふきー。


骨にはやはり赤い苔が密集している、体内に侵入したソレが人間を破壊している、白目になったソコに苔が生える、目には水分が多いからなぁ、倒れる事無く死んだ人間はそこに立っている、先程リーダーだなぁって感じた女の子の周りを囲んでいる。


「へ、あ、へ」


「苔人間だー、仲間が苔人間になって裏切ったよォ、んふふふふふふ、どぉするどぉする」


「そうね、取り合えず脳味噌に苔を生やしましょう」


「ふふ、素敵」


とてもとても素敵だよ、ソレ。

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