第178話・『人殺しはお前がやれ』

キョウを泣かせたそいつを殺す、決めたのは良いけどそいつの居場所がわからないとな。


俺を尾行してたって事は俺に興味か用事があるって事だ、だったら向こうから干渉して来るのを待てば良い、腹を撫でながら低い声で笑う。


今日もグロリアは缶詰状態、なので晩飯の食材を買うついでに街を観光しよう、一晩中あっちの世界でキョウと勤しんでいたので何だか眠い、寝たのに眠いって矛盾だな。


カタカタカタ、ファルシオンは太陽の光を受けてご機嫌そうだ、日光浴が好きな剣だなんてお前ぐらいだぞ?今はまだ卵の状態らしく孵化まで時間を必要とするらしい。


そういえば冒険者ギルドに立ち寄った時にこの案内板に魔法を付加した武器の専門店があるって書いてたな、寄ってみるか?目標が出来ると断然やる気が出る、ふふん。


「キョウは俺の気持ち良い所を良く知っているな」


『そりゃね、私と同じだし、魔法武器専門店に行くの?』


「そーだ、冷やかしだ」


『んふふ、それならそこを右に曲がった方が近いよォ』


「りょーかい、キョウが優秀で助かるよ、ホントに」


『ほ、褒めてもキスぐらいしか出ないよォ!』


出るじゃん、やったぜ、それは後で頂くとして本当に人種の坩堝って感じで歩いてて飽きないな、亜人も多いがエルフはまだ見ていない、あいつ等は森の奥に引き籠るのがお仕事だから仕方無い、あーあ、腹減った。


エルフライダーとして体が空腹を訴えているのだが流石に人前で捕食行為をするわけにはいかないしな、仕方ないので人間としての腹でも膨らませるか、昼時なので屋台は盛況で何処も座れそうに無い、んー、歩きながら食えるモノを物色するか。


「キョウは何か食べたいモノあるか、味覚を共有するから」


『キョウが食べたいモノで良いよォ』


「いや、キョウが食べたいものを教えてくれ、好きな女の子の我儘を聞かない男は駄目男なんだぜ」


『んー、それなら辛いモノが良いかなァ、んふふ、辛いの大好き』


「辛いモノか、店先に干し唐辛子を並べてる店は大体そうだろ、見てみようぜ」


一つ一つ店先を覗いて確認するがその度に頭を下げられて恐縮される、俺やグロリアのように屋台で食事をするシスターっていないらしい、変わり者?グロリアはホテルの堅苦しい食事よりジャンクな味を好む傾向がある。


土産に何か買っても良いな、キョウが泣き止んでくれたお陰で心が軽い、何だかスキップしちゃう、クスクスクス、キョウの笑い声が聞こえる、俺にしか聞こえない俺だけの女の子の声、しかし辛いモノかぁ、驚かせたいぜ。


「エマダツィ?聞いた事ねーな……おっちゃん、唐辛子吊ってるけどこれ辛いの?」


「―――――――――――」


やべぇ、何を言っているのかわからん、格好も異国風のモノだし意思の疎通は出来そうに無い、値段だけはしっかり表示されているのが唯一の救いだ、細切りにした唐辛子の上にチーズをメインにしたソースが……かなり辛そうだ。


唐辛子の辛さを濃厚なチーズで緩和しているのか?まんま唐辛子だしヤバさを感じる、調味料では無く食材として唐辛子を扱う文化はこの大陸には無いはず、割と高級品だもんな、た、食べてみようかな?値段通り支払うとおっちゃんはにっこり笑う。


良く見ればトマトやニンニクも入っている、匂いを嗅いで見る、ヤギのチーズだなこりゃ、ピーマンで代用したら間違いなく美味しいだろうにどうして唐辛子をそのまま使っているんだろ?そしてどうして俺はそれを買ってしまったんだろう?


キョウに喜んでほしいから。


「み、見るからに辛そうだ」


『美味しそう、食べて食べてェ』


「もぐ――――――――――」


唐辛子だ、そのまんま唐辛子である、そして辛みを包むように濃厚なチーズが舌先で蕩ける、ヒリヒリする、それでいて甘みもある、嫌いな味では無いはどうにも唐辛子が主張し過ぎている気がする、あくまで俺の見解だけどな。


少し眉を寄せて味覚を伝える、ピリピリする、舌が痛い、昨日のキョウの激しいキスのようだと心の中で苦笑する。


『ん、美味しいねェ、でもピーマンでも美味しいと思う、んふふ』


「や、やっぱりか、慣れればもっと美味しいんだろうけどな、もぐもぐ」


『あ、そこ左だよォ』


「了解…………シスターが買い食いするのがそんなに珍しいのかな?注目されてるぜ」


『キョウが美人だからだよ』


「うるせー」


視線を僅かに動かしながら周囲の様子を窺う、監視されている、しかも数人にだ、どいつもこいつもフードを被っていて顔を確認出来ない。


「モテモテなのも辛いぜ、ふふ」


『昨日の奴の仲間かな?どうするの?』


「ああ、グロリアに買って貰った服を汚したくないから、一部に殺させる」


何でも無い事のように呟いた。

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