第176話・『自己自慰自己自慰自己自慰自慰自慰』

自分自身に押し倒される事実に目を瞬かせる、体捌きは見事なモノでそれが当たり前のようにベッドの上に投げ出される、抵抗はしない。


爛々と輝く色違いの二つの瞳、太陽と月が空に同時に存在しているかのような違和感とそれを上回る美しさ、キョウはエルフライダーの能力に溺れている、俺は良くあるが珍しい。


誰かに俺を奪われるって不安だったのかな?望むがままにさせる、何なら脱がせやすいようにと誘導してやる、修繕した事がわかるぐらいにボロボロのベッドは二人分の体重を支えるには心許ない。


ぎししししっ、まるでカエルのように間抜けなポーズをした俺、投げ出されたままの格好なので勘弁してくれ、両腕をキョウの手で押さえ付けられている、あまりの力に体が悲鳴を上げて苦痛に顔が歪む。


天井のシミが人の顔に見えて怖いぜ、そんな呑気な事を思えるのは相手がキョウだからだ、キョウだったらどんな事でも受け入れて上げる、だから悲しむのは終わりにしようぜ?俺が傷つけたんだろ?


エルフライダーの能力が暴走して何処の誰ともわからない奴に簡単に股を開いた俺が悪い、キョウは声を震わせながら昨日あった事を教えてくれた、話し終えるとそのまま湖畔の街に逃げ込んだので追って来たのだ。


何時もは俺が暴走させてキョウが止めてくれるのに立場が逆転しちまったな、服を脱がす楽しみは無しかよ、俺を求めているのか全てが即物的だ、んー、自分とまったく同じ顔のキョウと舌を絡めながらあぷぷと息を吐き出す、甘い。


「ん、キョウ、キョウ」


「ぷはぁ、はいはい、どしたどした」


「わ、私のだもん……産まれた時からキョウは私のだもん」


「そうだな、わかってるから泣くなよ、俺はキョウのモノだよ」


性的な行為を求めているのに焦点が違うような気がする、俺はキョウに泣き止んでほしい、俺が暴走してこいつを傷付けたんだから俺が全て悪いんだ、すんすんと首筋に鼻を寄せて匂いを嗅いでいるキョウに苦笑する、お前は野生動物かっ。


何時も冷静で大人な態度をしているキョウが俺なんかに夢中になっているのが素直に嬉しい、舌先では無く根元から抉るようなキョウのキスに身を任せながら股を擦る、どうにもいかん、キョウがこんなにも俺に溺れてくれるなんて嬉しすぎる。


グロリアは貪欲で食い尽くすように愛撫を重ねるがキョウのそれはまるで大切な宝物を愛でるかのように丁寧で繊細な動きだ、声を押し殺していると耳元で声を聞きたいと囁かれる、俺もお前も同じ声なのにどうしてそんなに求めてくれるの?


「……ハァ、綺麗、綺麗」


「ん、そんなに綺麗なもんじゃねぇだろ、キョウは俺の事になると何でも大袈裟だな、しかしこのベッド安定悪く無いか??やってる最中に壊れちゃったらどうしようか」


「知らない、それでも続ける、キョウが泣いても今日は許してあげない」


「へえ、そんな事を言っちゃうんだ」


「うん」


胸を舐められると何だかムズムズしてお腹の底がキュンってなる、この部屋は空気が籠っていて少しかび臭い、汗も出ちゃってる、しょっぱく無いのかな?一心不乱に俺の体を味わうキョウが可愛くてされるがままの状態。


さわさわと時折太ももの辺りをなぞる様に触れる指先が柔らかくて細くて意地悪な動きをする、あんあん、そうやって喘げたら良いんだけど零れるような声しか出ない、演技は苦手だ、正直に快楽を伝えると何だか不細工になっちゃう俺なのだ。


「俺の声、ん、変じゃない?」


「へ?」


「グロリアに聞いても答えてくれないんだ、変じゃない?」


「答えないのは独り占めしたいからだよ、私が言っても大丈夫なのかなァ?」


「うん、教えて」


「興奮する、えっちぃ」


「お、おう………そ、そうか、そうかそうか、それなら良いんだ、ふーん、へぇ、えっちぃんだ、俺の声」


反応し難い返答に動揺する、頬を舐められる、こうやって顔を寄せると鏡合わせのようで何だか不思議な気持ちになる、キョウの吐息は何だか自然体に思えるが自分のソレは酷く滑稽で間抜けなモノのように思える、これって俺だけだろうか?


しかしグロリアと比べると本当にバカ丁寧な指の動きだなぁ、気持ち良いけど俺を第一に優先しているのがわかって何だか心苦しい、しかし体は素直に快楽を受け入れる、グロリアとキョウに調教されまくって自分でも自分の体を制御出来ない。


弓なりになって何かを口にする自分が何処までも滑稽で何処までもブスで笑ってしまう、それなのにキョウは蕩けるような表情で俺を見詰めている、一瞬の所作すら見逃さないと瞳が訴えている、こんな不細工な俺を見なくて良いよ。


「っっあ、見るの、きんしぃ」


「んふふ、どぉして?今日は私を励ましてくれるって言ったじゃん、嘘つきなのォ?」


「ぶ、不細工だろ、なんか、思ってる感じと違う、グロリアの感じ方はもっと綺麗、お、俺のはさ」


「私はキョウしか見ていないから他なんて関係無いよォ?」


「く、口説くなよ………今更」


「何時だって口説くよォ、そうしないと安心出来ないからね」


瞼の裏がチカチカする、ナメクジの様に絡み合いながらキョウが気持ち良くなるように言葉を選びながら昂る。


どうしようもない俺達だった。

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