第175話・『カラスに捨てる部位無し、実は良い鳥なのです』

カラスは進化の過程で飛行に重点を置いた為に欠点を持っている、それは目の構造上の欠陥で黄色を認識出来ないのだ。


黄色く塗った石をお手玉のようにしながら欠伸を噛み殺す……近くに森があって良かったぜ、流石に街中でシスターがカラスを捕まえるのは駄目だろう。


街中にいるカラスも夜中には寝床のある森へと帰る、この時間帯でも街に出ずに森で餌を探している個体も多くいる、それを狙おうって算段だ、黄色く塗った石も数を用意した。


「カラスの肉って美味しいんだよな」


見た目から想像出来ないがカラスの肉は美味しい、臭みも無くて食べやすい、これがカラスの肉かよって呆れるぐらいに無個性な味ではある、鳥肉って感じでは無く野生の獣のソレに近い。


どのような料理にも合うし実に淡泊だ、カラスの脳味噌は絶品で鶏のレバーのような濃厚な味わいをしている、しかもレバーより苦味が無くて食べやすい、頭が良いから脳味噌も食べ応えがあるぞ、ふふ、麒麟のように。


妖精の感知能力を広げながら森を歩く、もし数が捕れれば街中で売り捌くのも良いな、商業の街だしすぐに買い手が見つかるだろう、カラスは獲得した食べモノを物陰に隠して後で食べるという貯食行動をする、貯蓄場所を見付けて樹木の背後に隠れる。


「今日はグロリアに美味しい料理を作ってやるか、何だか仕事大変そうだし、俺には何も出来無いし」


カラスは大型鳥類の為に天敵が非常に少ない、猛禽類の中にはカラスを頻繁に捕食する種もいるがそれでも絶対的に少ない、故に数が増えて畑や農園を襲う事になるのだが俺の地域では普通に食用として狩られていたしなあ、食卓に上がる機会も多かった。


鯨の肉の食感に近いのだが食べる習慣の無い地域の人にそう説明しても嫌な顔をされるだけだ、祟木やササの知識を引き出す、カラスの肉には鯨肉等にも多く含まれるミオグロビンと呼ばれる色素を大量に含んでいるらしい、赤みが強いのはそれが理由だとか。


ミオグロビンは筋肉を構成する重要な要素で酸素分子を代謝に必要な時まで貯蔵する為の色素タンパク質だ、水中の中で生活する哺乳類は大量の酸素を貯蓄しなければならない為にこれらの生物の筋肉には特に多く含まれている、やっぱり鳥ってより獣だよな?


動物の筋肉が赤色なのはこのタンパク質が原因らしいしな!知識があれば見る世界も変わる、今までは何だか獣肉に似てるなーってだけだったのにな、一部の知識に感謝する、ああ、違う違う、これは最初から俺のモノだ、時折おかしくなるな、俺の脳味噌も!


「キョウ、起きたか?」


『んん、まだ眠い』


「何だか嫌な事があったか?お前が嫌な事は俺も嫌な事だぜ?キョウ?」


『んーん、へいきぃ』


「キョウ、大丈夫か?絶対に無理してる声だぞ、俺を心配させまいって声だ、わかるぞ、バカにすんなよ」


『キョウやさしい、私、グロリアじゃないよ?』


「どうした?………あのなあ、グロリアと同じくらいお前を大事に思ってるし愛しているぜ、バカにすんなよ、マジで」


『えへへ』


覚醒途中か?声に覇気は無く元気も無いし幼く聞こえる、だけど俺の最後の言葉に安心したのか温かいモノが流れ込んでくる、キョウは優秀だ、それこそグロリア見たいに何でも出来るし頭も良い、俺もついつい頼ってしまう。


だけど本質的には一人の女の子、俺だけの女の子、伝えるべき言葉は伝えるべき時に伝える、そうしないと勝手に無理をするからなぁ……グロリアを傷つける奴は殺す、キョウを傷付ける奴は惨たらしく殺す、それは俺の中では常識だ。


恥ずかしがって伝えないのは違う、キョウには俺だけしかいないのだ、俺には多くの一部やグロリアがいるのにキョウにはキョウしかいない、キョウはキョウしか必要としていない、負い目、俺はこの子を永遠に愛する義務がある、勿論、望みでもある。


「んー、しかしまだ来ないな、餌を隠しているのに………」


『そもそもどうしてカラスを?』


「グロリアに羽根ペンを作ってやるんだ」


『あー、カラスの羽根は具合が良いからねェ、字が綺麗な人は特に』


「キョウも綺麗だよな?お、俺は何かミミズみたいで、恥ずかしい」


『私に愛してるって言えるのにそこを恥ずかしがるなんて変なキョウ、ふふ』


「キョウに愛してるって伝えるのは恥ずかしい事じゃないもん、キョウも言ってよ」


『愛してる、誰よりも、グロリアよりも』


「あ、あんがと」


恥ずかしい、言うのは平気だが言われるのは恥ずかしい、黄色く塗った石をお手玉にしながら獲物が来るのを待つ、しかしこの落ち込みようはアレだ、俺のせいだ、キョウが落ち込む原因なんて俺に関する事しか無いしな、記憶が無くなっているのもそれが原因か?


キョウはそこを共有させてはくれない、怪しい、けど無理矢理覗くのは違うような気がする、少し様子を見るか?キョウも俺も昨日の何かが原因で少しおかしくなっている、それを突き止めるには時間が必要だ、この街に滞在するのだから原因も見付けられるはず。


『でもそんなに獲物を用意しちゃって、カラスの羽根やお肉を売るのォ?』


「ああ、売れるよな?」


『そぉだねぇ、少し手間だけどオリーブオイルで羽根を浸けてから楽器屋に売ろうね』


「な、なにそれ、折角の羽根をそんなにして大丈夫なのか?」


『だいじょーぶ、んふふ』


キョウの話だとカラスの羽根のオリーブ漬けは楽器屋で高く買い取ってくれるらしい、チェンバロと呼ばれる鍵盤楽器には必須の材料らしくほぼ言い値で買い取ってくれるとか、そりゃ、一般家庭に鍵盤楽器なんてあるわけも無いしなっ!


鍵盤を使用して弦をプレクトラムで弾いて発音させるらしいが想像出来ないぜ、グロリアが趣味でしてたとか言ってた記憶がある、あいつは美術家としても高名だしもしかして?何だか聞くのが怖い、多趣味なのは良い事だがそのレベルが笑えないぜ。


……そしてキョウの声に元気が無い事が辛い。


「良い子良い子」


『あ』


自分で自分の頭を撫でる、キョウを撫でている、他人から見たら間抜けな光景だろうが俺にとっては大事な行為だ。


『ありがとね、んふふ、昨日何があったか教えてあげるよ』


「そうか、キョウを悲しませた奴か、許さん」


『んふふ、キョウはその人に惹かれていたよ?』


「エルフライダーとしてか?でもそんなのもう関係無い、キョウを悲しませたんだからな、コロス」


『…………ばーか』


カラスは大量に捕まえた、次はキョウを悲しませた奴を捕まえる。


捕まえてやる。

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