第172話・『醜いものを君は綺麗だと素直に言う』
微睡壬を救えなかった痛みがキョウをおかしくさせているのはわかっている、明るく振舞おうとしているし『姉』のアドバイスもあってやる気を取り戻した。
しかしエルフライダーとしての側面がソレを阻害する、傷付けば傷付くほどに能力は邪悪になり他者を操る術も多彩になる、透明な触手が背中から具現化して餌を求めて蠢いている。
商業都市、多くの商人、その中には健全とは言えないような商人も存在する、奴隷商人、ならばこの街で子供が一人いなくなった所で大きな騒ぎになる事は無いだろう、何せこっちはシスターだ。
私が誘導するまでも無くキョウは興奮している、相手に尾行されるって行為が嬉しいらしい、自分に興味がある人間はみんな大好き、だから美味しい、私が殺そうかと問い掛けると駄目だと強く拒む、その心は食欲で満たされている。
天使のような顔をしてキョウったら大胆、人混みの少ない路地裏へと迷い込む振りをしながら相手を誘導している、キョウ曰く俺を殺そうとする奴は殺されても文句を言えない、しかしそれが単なる尾行なら?んふふ、食欲で頭が一杯。
『んふふ、キョウ、どぉする?聖人の振りも限界のようだけどォ』
「おれ、そうだ、まどろみだ」
ブツブツブツ、先程までの偽善者面は消えて無くなった、今は食欲に身を任せて虚ろな瞳でブツブツと戯言を垂れ流す、足取りも千鳥足のようだし淫靡な雰囲気に塗れている、涎を裾で拭いながらケラケラと笑う様は痴女のようだ。
んふふふ、キョウらしいね、グロリアもいないし都合が良い、それにこの気配、エルフのようなエルフで無いような独特の気配、しかし餌としては申し分ない、キョウの血肉と糞尿になれるのだ、ありがたくここで死ね、一部にする程では無いよねえ?
どくんどくん、微睡壬が鼓舞するように蠢く、そろそろ一部として活動させても良いかもね、キョウに最初から好意を持っていたし死者の状態からキョウの体内で一から復元した、今のキョウの能力でソレをしたらどうなるのか、どのような一部に成り果てた?
キョウは悲しむかもしれないけどすぐに嬉しいって思うようになるよ、あの時間は一瞬の奇跡、キョウは大好きな人や愛する人を捕食しないと生きていけない哀れな怪物だからね、でも大丈夫だよ、私だけがそんなキョウを受け入れてあげられる、同じ存在だからねェ。
「まどろみはここでそだっています」
『そうだね、キョウの子宮で大事に育てられてるからねェ、この前はゴーレムで助けてくれたし』
「うれしいねぇ」
『そぉだね』
さて、相手の出方を見ようかなァ?んふふ、気配も消せないって事はそれだけの相手って事、でもお腹に入れば肉は肉だし子供のお肉なら柔らかくてキョウも喜んでくれるよねェ?先程まで私に殺すなと常識人ぶっていたのにね、そこがまた愛おしいよね。
小さな気配は私達の死角を意識しながら素早く移動している、だけど妖精の感知能力からは逃げられ無いし無駄な足掻きだよねェ、キョウも良い感じに仕上がっている、性的な興奮を求めて頭がくるくるぱーになっているけど可愛いから大丈夫。
建物の隙間から僅かに漏れる太陽の光によって生み出される影が世界を黒く染めている、キョウの足取りは軽い、表通りの活気は既に無く陰湿な雰囲気と停滞した空気が世界に広がっている、こっちの方がキョウは落ち着くよね、わかるよォ。
「だぁれ?」
「―――――――――――」
「おれのことすきなの?ふふ、すきなのかな」
『返事が無いね、キョウの事が嫌いなのかな?」
「え、そ、そんなの、そんなのぉ、ひどぉい」
『そうだね、キョウの事を無視するなんて酷い奴だねェ、そうだ、グロリアもいないし隠れて食べちゃおうよ』
「うえぇ、でも、でも、ぐろりあがいないけど、ちゃんとぎょうぎよくたべれるかな」
『食べれるさ、キョウはお行儀が良いお嬢様だもの、んふふ、私が見てるからグロリアの事は忘れちゃおうね、ゴミ箱にポイしちゃおう』
「う、ん、キョウがみててくれるなら、おれ、ちゃんとする、えへへ」
『ほぉら、やっぱり良い子』
キョウが振り返ると同時に腕を振るう、魔王軍の元幹部の細胞を活性化させたソレは単純な魔力の波を生み出す、空気が振動してそれが広がってゆく、魔法とも言えない単純な力押しの技、ソレが隠れているであろう煉瓦の壁に見事に命中する。
粉砕、粉々に飛び散った破片を盾のようにして小さな影が飛び出してくる、エルフの気配が濃厚なモノとなるがどうも違和感がある、今までに感じた事の無い奇妙な気配、キョウは何も感じていない、私だけが強い嫌悪感を抱いている、どぉして?
でも我慢する、大切なキョウがお腹を空かせている。
「―――――――やっと一人になったわ」
静謐な声、それでいて大人びていて生意気で感情の無い声、矛盾、子供が大人の振りをしているのか大人が子供の振りをしているのか判断し難い、黒い布を纏っていてその小さな体をすっぽりと覆ってしまっている、うーん、怪しいよねェ。
大人子供を相手にするのは慣れているけどここまで怪しいのは久しぶりだ、キョウはすっかり食欲に脳味噌が支配されて狂っているし正体を探る前にお腹に入れちゃおうか?しかしこの子からあのドヤオーラが出ていたとはね、もしかしてわざと?
自分が尾行している事を知らせてここに誘導させる事が目的だった?先程の動きを見ても常人とは思えない、だけどキョウを見詰める瞳に敵意は無い、何処か憧れるような焦がれるようなそんな感じの判断し難いモノ、どうしてそんな目でキョウを見るの?
こんなにもおぞましく目の前で狂って狂って笑っているのに。
「餌ぁぁ」
「――――綺麗ね」
『はぁ?!』
キョウの事を綺麗だと思っているのは私も同じだ、だけどここまでエルフライダーとして覚醒して自我を失っているキョウを見て綺麗だと?それは私だけの特権で私だけのキョウのはずなのに何を言っているの?
私はこいつが嫌いだ、そう思ってしまう、私のキョウを。
『キョウ、こいつは食べないで殺そう』
「ん、ぁぁぁ、でも」
『命令』
「んんんんん」
いやいやと首を振るキョウに胸が痛む、な、何なの、私はグロリアでも無い存在に嫉妬している?
「―――――――綺麗」
うるさい。
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