閑話133・『お尻を自由に触れる権利』

「つ、次の教師はアタシ……うぅ、女寄りのキョウは怒らせると怖いわね」


「キクタ、お尻触らせてくれ、話はそれからだ」


キョウが性的に奔放すぎるので教育して、そんな風に命令されたアタシは一体どうしたら良い?そもそも他の一部を全て消し去ってキョウが幸せになる世界を創造する為に暗躍するアタシに性教育?


青空の下でキョウと向かい合う、見た目の年齢で言えばアタシが生徒でキョウが教師のはずだけど仕方が無い、き、教師のキョウ、想像して鼻を押さえる、何だかいけない想像をしそうでまずいわね。


「お、お尻は駄目、キョウ?女の子にそんな事を言ったら嫌われるわよ?」


「え、キクタが俺を嫌いになるのか?」


キョウの二つの星を連想させる瞳が瞬く、瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、何左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている。


宝石のような眩い輝きを持つソレが不安で曇る、慌てる、な、泣いちゃうの?キョウを泣かせない為に今まで全てを捨てて生きて来たのにこんな事で?矛盾を感じて必死で取り繕う、それはもう滑稽な程に。


アタシの慌てようを見て笑い転げるキョウ、アタシの一部が見たら唖然とするであろう光景だがそもそもアタシはこの子を喜ばす為なら何だってやる、今の滑稽な姿も世界を滅ぼす事もアタシにとっては同じ事だ。


「あはは、キクタ必死過ぎる」


「き、キョウ、楽しい?」


「うん♪」


「…………っっっ」


背中を向けて無言でガッツポーズをする、ふぅ、しかしキョウが性的に奔放ねェ、前世のキョウも自分の事を男っぽいと自覚していてあらゆる意味で無防備だった、レイは嫉妬深いから色々とあったけど仕方が無いわよね。


親を知らずにあんな場所で育てば仕方が無い、アタシが色々と教えて上げたっけ、レイは嫌がっていたけど女同士の会話は唯一レイが立ち入れない聖域だった、アタシとキョウだけの素敵な時間だった、幾ら見た目が美少女でもレイは所詮は男。


キョウの体を狙う薄汚い野犬だ。


「おいおい、な、何だその目は………キラキラしていてすげぇ怖い」


「キョウは何時までも綺麗だわ」


「褒めても何も出ないぜ?どうせキョウに言われてこんな事してるんだろ?俺はもう性にユルユルでは無いぜ!」


「具体的には?」


「避妊具を持ち歩くようにしたゾ」


「…………キョウ、そこに正座」


「お、おう……キクタ、怒ってるのか?」


ちょこん、正座したキョウが可愛くて目頭が熱くなる、ぴこぴこ、喜びでエルフ特有の長い耳が動いてしまうのは仕方が無い事だ、しかしここまで危険な状態だとは思わなかった、人に何かを教えるのは好きでは無いが仕方ない。


話をして見てわかったのは結局は寂しがり屋だって事、相手の好意が嬉しくてついつい過剰な接触を求めてしまう、グロリアが傍にいる時は上手に監視して護衛しているのだろうが一人っきりになると素が出てあんな風になってしまう。


「つまり、グロリアにだけ触らせたら良いんだろ?わかったぜ」


「え、えぇぇ、そぉおおぉねぇぇ」


金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、癖ッ毛を指先で遊ばせながらキョウが微笑む、な、何とか教育は終了したわ、キョウは素直に何でも吸収するのでありがたい。


だけどその言葉に抵抗感を覚える、付き合っている彼女とのスキンシップは当たり前だ、当たり前だけどあのシスターにだけキョウを自由にさせる権利があるのだと思うと発狂しそうになる、じ、自分で言っといて納得出来ない。


「大丈夫かキクタ、この世の終わりみたいな顔してるけどよォ」


「………ええ、大丈夫、大丈夫じゃないけど大丈夫、長い時間を生きて来たんだもの、嫉妬を飼い慣らす方法を幾つも覚えたわ、ふふふ、ええ、だからキョウが心配する必要なんてこれっぽっちも無いのよ、ええ、アタシはキョウを」


「その長文がもう信用出来無いぜ、あ、言い忘れた」


「どうしたの?」


目を細めて笑うキョウ、子猫のような表情。


「グロリアとキクタだけ触って良いぜ、特別」


取り合えず死にたくなった、あまりに幸せ過ぎて生きている事が苦しくなった。


貴方はずっとアタシにとって特別なのに。

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