第170話・『キョウの性教育に失敗したキョウちゃんとグロリア』

頼まれた買い物を済ませながら街を歩く、この街の何処かに勇者の元仲間がいるらしいが街の人間に問い掛けても明確な人物が浮かんで来ない。


困ったな、リンゴを齧りながら眉を寄せる、エルフライダーとしての食欲をそろそろ満たしてやらないと餓死するぜ?我ながら厄介な体だ、お母様はどうしてるんだろうか?


色んな神様を食べて腹を膨らませているのかな?地上にはエルフって最高の食材がある事を是非とも教えて上げたいのだが伝える術が無い、そもそもキョウ曰くお母様は恐ろしく怖い存在らしい。


あのキョウがそう言うなんてよっぽどなんだろうな、しかしこのリンゴは当たりだな、目利きには自信があるがコレはかなりのモノだ、火を通してデザートにしても良いしグロリアに相談しよう。


「しかし面白い街だな」


商業都市だと聞いていたがここまでとはな、余剰生産物が増える事でそれらを交換する商人という職業が誕生した、そして定期市などが頻繁に開催される事でソレを中心とした巨大都市群を形成した。


何処もかしこも商人ばかりで何だか肩身が狭い、街の近隣にある商人集落の規模から少しは予想していたが結果はこの通りだ、交易の利便性や安全性を担保する為のモノだが既にそれが都市レベルだったし。


グロリアはこの街でシスターとしての仕事があるらしく今は別行動だ、買い出しを頼まれたのだが宿に食事のサービスが無いから仕方が無いのだ、様々な地域から来た商人で埋め尽くされた街は忙しなく活気に満ちている。


「シスター、おはようございます」


「シスター、この魚安いよ、見てってよ」


「あ、シスターだ、う、噂通り美人だなぁ」


「ど、ども」


俺もグロリアのように胡散臭い笑顔を浮かべながら対応出来るようにならないとなぁ、ちなみに出会った当初のあの笑顔に対して胡散臭いと思う人間は稀らしい、あんなにあからさまなのにみんなグロリアに騙され過ぎだぜ?


ふと店先で足を止める、見た事の無い不思議な香りの香辛料と地味だが丁寧な仕事がわかる絹織物、どうやら東方から仕入れたらしいが俺のもう一人の母親がいるのはそれよりももっともっと東だよな?うーん、どんな人だろう。


成熟して自立した都市は自由な雰囲気に包まれていて歩いているだけで楽しい、封建領主からの強力圧迫に対抗する為に都市同盟を結んだ結果がこれか、熟したリンゴを齧りながら注意深く周囲を見渡す、グロリアと一緒だともっと楽しいのに残念だぜ。


「見た事の無い商品で一杯だ」


『んふふ、灰色狐から貰ったお小遣いで豪遊するば良いのにィ』


「バカ言え、もしもの為に貯金だぜ?そもそも人のお金で贅沢するのは好きじゃ無い、不安になる』


『真面目ェ、灰色狐だって次のお小遣いを上げたくてそわそわしているのにィ』


「あ、あいつは俺を甘やかし過ぎる、子供じゃ無いんだぜ………お母様に再会した時に自立してないとがっかりされるだろ」


『マザコン♪きもーい』


「は、灰色狐の事だって母親として好きだぜ?お母様に対して当たりが強いのな、本当に」


しかし市も活気に満ちている、教会や修道院の門前ではしゃぐ子供たちの手には市で買ったのか見た事の無いお菓子、色鮮やかで見るからに甘そうで興味深い、近付いて聞いて見ようとしたら顔を真っ赤にして教会の奥へと逃げてしまう。


き、傷付く、交易路の要衝には警備兵が背筋を伸ばして立っている、見るからに真面目そうな青年で何処か苛めたくなる雰囲気を纏っている、だけど実際にはしないぜ?とととと、足早に青年の元へと急ぐ、ぎょ、驚いた顔も何か可愛い。


「あのぅ」


「し、シスター、こ、この街のシスターではありませんね?どうなさいましたか?」


「ふふ、キョウです」


「し、シスター・キョウ…………これは失礼しました」


「いえいえ」


初心で可愛いなぁ、胸が疼く、大人っぽく見られたいのか髭も伸ばしちゃってさ、中々にきびきびとした動作で好感が持てるけど声は上擦って緊張に震えている……ヘルメットの羽飾りが揺れる度についつい笑ってしまう。


くすくすくす、口元に手を当てて笑うと彼の顔はさらに赤くなる。


「先程そちらの教会で子供たちが変わったお菓子を持っていたんだけど何処で売っているかわかりますか?」


「子供……ああ、あの悪ガキどもですかっ」


「言い方、ふふ」


「そ、それなら中央の市で買ったと言ってましたよ、あいつ等、勤務中の私にお菓子を自慢するのが大好きなんです」


「それは酷いね、ありがとう、連れに買って上げたくて困ってたんだ」


濃紺の長ズボンの下に半長靴、それをモジモジと動かしているのがわかる、何とも可愛らしい態度についつい口元が弛む。


「ま、またお会い出来ますか?」


「ええ、数日は滞在するつもりですし、それでは、お菓子を自慢されたら思いっきり悔しがれば子供も喜びますよ?くすくす」


「そ、そうなんですか」


可愛らしい青年だったなと心の中で呟く、髭が無い方が可愛いのに残念だなぁ。


『んふふ、キョウったら、あまり初心な子を苛めるんじゃないよォ』


「お尻ぐらい触らせて上げても良かったな」


『……ぐ、グロリアには言わない方が良いよ?』


どうしてだろ。

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