第168話・『主人公はとても頭が悪い、けど頑張って生きている』

すんすん、何日も風呂に入ってないので臭いが気になる、隣を涼しい表情で歩くグロリアの首元に顔を寄せて匂いを嗅ぐ、無臭、やや甘い匂いか?化け物めと心の中で吐き捨てる。


先日のキョウの一件が気になって眠れない、俺の好きなモノが大嫌いなキョウ、何だか寂しいし少しだけ嬉しい、キョウは俺と結ばれようと必死だ、俺がグロリアと結ばれようと必死なようにっ。


同じキョウなのにどうしてここまで違うんだろう?クスクスクス、ついつい笑ってしまうし自分自身なのだから結ばれても良いと思っている、流石にグロリアも嫉妬しないだろうしな、これって駄目な考えかな?


グロリアもキョウも大好きなのになぁ。


「モテる男は辛いぜ」


「頭をぶん殴って正常にして差し上げましょうか?それに何ですか、不躾に人の匂いを嗅いだりして」


「こんだけ風呂に入って無いのに無臭なグロリアにビビってるんだよ」


「そうですか?どれ、キョウさんの匂いも」


「怒るよ」


「ど、どうして私だけ一方的に……い、いえ、嗅ぎませんからそんな怖い目で睨まないで下さい、乙女ですね、まったく」


カタカタカタ、笑うように腰に固定したファルシオンが動く、最近は良く笑う、長年一緒に旅をしたファルシオンが俺の行動や言動に少しでも反応してくれるのは嬉しい、犬にするように柄を優しく撫ででやると甘えるように震える。


多くの人外を屠って来たせいで魔剣になろうとしているらしい……ファルシオンは丸っぽい流線型の刃が特徴的で安価で丈夫なのが最大の売りだ、生活用具としても広く流通しているソレが頑張って自分の殻を破ろうとしている様は見ていて愛しくなる。


「次の宿泊地は何処だ?お風呂入りたい、フカフカのベッドで寝たい、美味しいモノを食べたい」


「そうですね、お風呂に入って美味しいモノを食べてフカフカのベッドで………キョウさん、少し太りましたか?」


「ふ、太って無いもん」


「ああ、失礼、胸が少し大きくなったようですね」


「そ、そりゃ……グロリアのせいだもん」


「へえ、私の手にそんな効果があるんですね、それは初耳です、シスターをクビになったら女性方を相手に――――」


「だ、だめっ、グロリアが触って良いのは俺の胸だ……け………う、ううん、あ、い、今の無し」


「そ、そうですか、い、いや、じ、冗談ですけどね……そ、それにキョウさん以外のは、さ、触らないからご安心ください」


山道で何をやってるんだろう俺達、二人そろってベールを手で引っ張って表情を隠す、しかし麒麟を取り込んでから本当に体が軽い、軽過ぎるぐらいで自分の肉の重みをまったく感じない、俺はエルフなのか使徒なのか神なのか人間なのか魔物なのか。


グロリアと一緒にいるとそんな悩みも消えて無くなる、グロリアが望んでくれるなら俺は単なるキョウで良い、そしてお母様の事は好きだけどキョウがあれだけ警戒しているんだ、全てを受け入れて肯定するのはまずい、俺はキョウを誰よりも信用しているのだ。


「勇者の元仲間の事ですがどうやら特殊な職業の方のようですよ」


「へえ、美味しいかな、どんな味だろう、鍛えているんなら肉は硬いかな?叩いて伸ばして柔らかくしつつボリュームを出そう」


「エルフライダーの味覚はわからないですから何とも」


「基本的にエルフは凄く美味しいけど美味しいのがわかっているのでワクワクしない感じかな?シスターは薄味で美味しい、あ、クロリアが褒められて喜んでいる」


「キョウさんに味を褒められて?あいつが?」


「あ、あいつって言うなよォ」


「ふふっ、キョウさんを盾にして卑怯な奴ですね」


グロリアはクロリアの事が大嫌い、性格も容姿もまったく一緒だしなあ、自分のクローンに対して同族嫌悪を抱いているのか?決してソレだけじゃ無いよな、そもそもクロリアは俺の伴侶になる為に開発された、炎水は俺の教育係、二つの神の資質を持つ俺を育てようとした?


「またファルシオンが震えてる、あ、く、クロリアの悪口を言ったらダメって言ってるゾ」


「………………」


「な、なぁに?」


「いいえ、キョウさんは頭が悪くて可愛いなぁって思いました」


「頭が悪くて可愛い!?」


この件について次の街に到着するまで執拗に問い掛けた、し、失礼だ、酷過ぎるっっ。


それなのにグロリアは優しく俺の癖ッ毛を撫でてくれるだけで何も答えてくれなかった、本当に酷いぜっ!

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