閑話130・『キョウちゃんの宣戦布告』

お母様は何時会いに来て来てくれるんだろうか?俺は、エルフライダーは、この力は何時も俺を一人ぼっちにする、でもお母様は違う、俺と同じ力を持った存在だ。


きっと俺の痛みをわかってくれるだろうし俺の事を優しく抱いてくれる……会えばきっと悩みも無くなってしまう、全てが解決して良い方向に行く、あれ、俺は神を食わないと駄目なんだよな。


グロリアの為に神になると誓ったのにお母様を傷付けるのは駄目、矛盾、目を瞬かせながらその矛盾に気付いてしまう、どうも最近は頭の調子がよろしくない、良過ぎてよろしくない、何時もお母様の事を考えている。


自慰に耽る事もある、姿なんて知ら無いのにコレは異常では無いのか?


「うぅうううう、お母様」


「黙れマザコン」


「キョウだって俺じゃねーかっ!!お母様に対して募る感情は無いのか!!あるだろ!!」


「無いよ、私はキョウの為にあるんだから他は関係無い、押し付け無いで」


湖畔の街でキョウに悩みを打ち明けると物凄い冷たい声で返事をされる、き、キョウはお母様の話をすると途端に冷たくなる、俺自身に対して苛立っているわけでは無くお母様の事を良く思って無いようだ、同じキョウなのに変なの。


チッ、舌打ちしつつ唾を吐き捨てるキョウが怖いです、うえぇぇ、お前しかお母様の事を相談出来る奴はいないのに酷いぜ、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白なのにこの態度は何だ、シスターだろテメェ。


小高い丘の上でキョウは不機嫌そうに鼻を鳴らす、俺はお前をそんな風に育てた覚えは無いぜ?


「お母様ってどんな色が好きなんだろ?食べ物はやっぱりエルフなのかな?」


「知ら無いよォ、んふふ、知りたくも無い」


「キョウ、お前しかお母様の話が出来る奴はいねぇんだよ、この昂ぶりを抑えるのに協力してくれ」


「自慰に耽れば良いじゃん、キョウはねェ、可愛い可愛い自分自身である私をほっといてお母様のお話ばかり」


クルクルと回りながら悪態を吐くキョウ、ここまで不機嫌なのは珍しいがここ数日こんな感じな気がする、反面でお母様の話をしなかったら何時ものキョウだ、ベタベタと意味も無く身を寄せて頬にキスをしてくる、それはお母様の一言で容易く失われる。


まったくわけがわからん、そもそもここまで思考が合わない事が珍しい、キョウの腕を掴んで引き寄せようとするが手で叩かれる、ぷくー、頬を膨らませる、こ、こいつ、キョウはクスクスと笑いながら軽やかにダンスをしている、不機嫌でも無いのか?


「私の事を大切にしないキョウなんて大好きっ」


「く、くそ、無償の愛を告白しやがってっ、悪かったよ、お母様の事ばかりで」


「ん、よろしい、お顔を見せてェ?」


「いいけど」


頬を両手で固定されて顔を覗き込まれる、互いの瞳に映るのは鏡写しの己の姿……そこに差異は無くまったく同じ存在、どうして今更になって顔を見たいとか言うのだろうか?ペタペタ、何かを確認するように頬を叩かれる。


「お母様の汚染は軽度、ふう、心配しちゃうなァ」


「どーゆー意味だ?どうしてそこまでお母様を嫌う?」


「そりゃ、あの人は我儘で強欲だからねェ、キョウは何も覚えて無いだろうけど、んふふ、キョウに似てるねェ、私より」


「へえ、俺にか、な、何か嬉しい、この世界を統べる神様だもんな」


「そうだね、この世界を支配する神様だねェ、意味合いは少し違うかなァ、キョウに似てとても強欲、それでいて悪食、ホントに似てるよ?」


「へ、へえ」


「キョウは大好きだけどあの人はきらーい、んふふ」


風の吹く中でキョウは笑う、糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、その癖ッ毛が風の中で毛先を震わせる様を見てタンポポの種を連想する。


このまま何処かに飛んで行ったら大変だ、手を掴んで抱き寄せる、柔らかい、俺の体ってこんなにも柔らかいのか?そりゃグロリアもずっと触るわなぁ、豪華絢爛な着飾る必要も無い程に整った容姿は自分自身のモノだけど緊張する。


「今日は私を見ててくれるんだ、キョウ」


「そりゃ、お母様の事は……お前が不機嫌になるし」


じっと瞳を覗き込まれる、瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、何となく慣れ親しんだ感じがあるが違和感も同時に存在する、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている。


色の違う星、四つの星が煌めいている。


「お母様はね、私に負けると思うよ、んふふ」


「何だよ、ソレ、こらっ、頬っぺた噛むなっ」


「今も見てるのかな?んふふ、これ、私のォ」


「と、当然だろ、くすぐったいっっ、何なんだよキョウっっ!」


「お母様はそこで一生自慰に耽ると良いよォ、キョウと同じように」


底無しの悪意を秘めてキョウは呟いた。


とても綺麗だった。

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