閑話128・『キクタは怒る、神様だって殺す』
「キョウに怒られた!慰めてくれたけどまだ怒ってるんだからー!キクタ―ーーーーーー」
「わわ、き、キョウ………そんなに勢い良く抱きついたら危ないわよ?」
「キクタっ、麒麟食べるのって悪い事では無いよな?なあ?」
「そうね、悪い事では無いけど……アタシが覚醒してもまだ届かないかな」
誰かに話しを聞いて欲しい、あのキョウがっ!俺自身であるキョウが俺を怒ったのだ、しかも悪い事をしていないのにっっ、それが無性に悲しくて辛くて大声で泣いた、キョウは必死で俺を慰めた、だけどまだ怒ってるもん。
だから俺の事を一番肯定してくれるキクタにその事を打ち明けた、街に出現すると同時にキクタの気配を辿る、そしてキクタにドーンと抱き付く、俺より随分低い背丈だが気にしない、こう見えてキクタは意外と力持ちなのだ、凄いっ。
「ふひひ」
「う、嬉しそうね、叱られて落ち込んでいるかと思ったら―――どうしたの?」
「お母様」
「キョウ、もしかして」
「キョウお母様、俺の母ちゃんだって!!故郷の母ちゃんも好きだけどそっちのキョウお母様もきっと好きになる、名前を口にすると胸がドキドキする、恋したみたいだ」
「っっ、キョウ、落ち着いて……まだわからないわよ?」
「ううん、俺はお母様が好き、愛してる、恋してる」
「…………麒麟を取り込んだ事である程度の居場所を知られたわけね、そりゃ、叱るのも無理は無いか」
糸杉に彩られた道で抱き合う俺達、ポカポカする、まだ出会った事の無いキョウお母様の事を考えると無性に叫びたくなる、そんな火照りを慰めるようにキクタが優しく俺の背中を叩いてくれる、何だかおかしい。
ずっとずっとおかしい、何をしていてもキョウお母様の事が浮かぶ、まるでそう強制されているような気持ち、恋するように強制されているようで愛するように指示されているようでわけがわからない、そして俺はそれを受け入れる。
姿も知らない、声も知らない、髪の色も肌の色も知らない、好きなモノも嫌いなモノも知らない、どうして俺を孕んで地上に下ろしたのかわからない、何もかもがわからない、だけど大好きだって事だけは理解している、まるで何かに汚染されているようだ。
これってエルフライダーの、の、の、あれ、なんだっけ、そう、俺はお母様に恋をしていて愛しているから早く再会したいのだ、そうだそうだ、そうだった、あは、俺が口元を緩めるとキクタが訝しそうに目を細める、どうしたんだろうか?
「まずいわね」
「何が?」
「同じ力を持つ者は強制的に惹かれ合う、きっと貴方のお母様もそうなんじゃないかしら?忌々しい、弟だけでは無く母親もクズだな、こんなに可愛い娘を弄んで」
「キクタぁ」
頬を触られると少しひんやりして気持ち良い、甘える俺を見詰めるキクタの瞳は底無しに優しいのにキョウと同じように少し揺らめいている、キョウのソレが不安だとしたらキクタのソレはより好戦的なものだ、誰に対して怒っているんだろう?
ふふふ、キョウは俺を苛めるけどキクタは俺を苛めないもんねー、グリグリグリ、旋毛をキクタの胸に擦り付ける、まるでこれは自分のモノだと言わんばかりに……キクタは受け入れてくれる、ふふふ、こいつ、俺の事が大好きだな、わかるよ。
俺がお母様を大好きなように。
「お母様、お母様」
「……キョウったら、アタシを抱きながら他の女の名前を口にするなんて、本当に可愛い人」
「んー、ずっと頭の中から消えないんだ、これ、病気かな」
「そうね、そうね、キョウ……可哀想に、何時も何時も利用されて遊ばれて」
「?キクタがどうして泣くんだ、俺はお母様の事を知れて嬉しいのに」
「そうね、泣いている暇は無いのにね」
「泣き虫め」
キクタは何も言わずに俺を強く抱き締めた。
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