閑話125・『嘘つきロリエルフは信用を取り戻す為にもがく』

キクタに会ってお前を一部にしたいと告白したら顔を真っ赤にしてジタバタしながら逃げようとした、頭を掴んで無理矢理引き寄せる、癖ッ毛で小さい頭なので実に掴みやすい。


湖畔の街は今日も快晴で何処までも広がる青空を見せてくれる、キクタはそれでも必死に逃げようとしているがどうしてだろうか?ずずずずずっ、この世界でも力は行使出来る、透明な触手を具現化させる。


こいつをこの小さくて幼くて柔らかそうな肉に刺し込めばキクタは俺になる、俺になって永遠に一緒にいられる、他の一部には感じたことの無い願いのような感情に首を傾げる、どうしてここまでキクタを求めてしまうのだろうか?


煉瓦で出来た地面を必死に蹴りながら逃げようとするキクタ、小さな鼻の穴を膨らませて凄く頑張っているが無理だ、何故なら俺は使徒の力と魔王軍の元幹部の力を当たり前のように開放している、出し惜しみはしないぜ。


「んはぁ、おいしそー、んふふふう」


「うわぁ、や、やっぱりそう来たわね、今日まで我慢したキョウ偉い!って褒めている場合じゃ無いわ!?」


「これを突き刺して俺になろうなぁ、んふふふふ、気持ち良いからなぁ」


「ひぃ、き、キョウ、す、ストップ、お、落ち着いて………取り込まれるのは嬉しいけど羽化が遅まる、アタシはもうこれ以上力はいらないの」


「すきぃ」


「ああぁああああ、可愛いぃい、だ、ダメ、落ち着いて、こらー!」


「しゅきなの」


「あ」


透明な触手を踊らせながら告白する、初雪を思わせる白い肌、グロリアや俺の肌が白磁の陶器を思わせる代物だとしたらキクタのソレは自然物である初雪のような儚さを思わせる肌だ。


それにこの触手を突き刺して俺の細胞を流し込んだらどれだけ気持ちが良いだろうか、毛穴すら見えないきめ細やかな肌は俺に侵される日を待っている、びちちちちちちちち、興奮で触手が蛇の尾のように蠢く。


まるで俺の触手が見えているような反応に違和感、これは俺と一部しか視認できない無色器官のようなモノ、キクタは恐れるわけでは無く俺の手を丁寧に剥がす、指を一つずつ小さな手で紅葉のようなソレで。


大きくまん丸い瞳は青みを強く含んだ紫色、春風の到来を告げる花を連想させる菫色だ、睫毛はくるんと上を向いていて眉毛も綺麗に整っている、その瞳が真摯に俺に向けられている、お前は俺になるんだよ。


そうしないと、また俺を置いて。


「キョウ、アタシは―――――――」


「置いてくつもりだもん」


「へ?」


「また置いてくつもりだもんっ、嘘つきっっ!!」


衝動的に叫んでしまう、記憶に無い、どうしていきなりそんな事を叫んだのかは理解出来ないがキクタが初めて俺に抵抗した事に動揺してしまう……取り込んで良いよって言ってくれると思っていたのに、どうして。


砂嵐と幻聴が激しくなる、キクタを睨む………癖ッ毛の髪を掴んでもう一度引き寄せる、完璧を極めた美貌に一点の隙を与えている癖ッ毛、それがアクセントとなって愛嬌もきちんと備えている、真っ白い髪は老婆のそれとは違い若さを含んだ美しさを象徴している。


そしてエルフ特有の尖った耳、愛嬌も美貌もあるのにどうしてここまで不安になるんだ、俺の乱暴な扱いにも顔を歪める事無く優しい瞳でこちらを見詰めている、腹が立つ、苛立つ、嘘つき、俺の事を好きって言ったのに一部にするのを抵抗するだなんてっ。


『オレが弟もお前も護ってやる、だから泣くな』


声が聞こえる。


『キョウ、お前なぁ、一応女の子なんだから!スラムのみんなにボス猿扱いされてるの知ってるか?恋人のオレの身にも……ああん?恋人じゃ無いだと?!』


キクタの声だが喋り方が違う、そして、そして、泣きそうなくらいに懐かしい。


『元勇者のジジイがオレが次世代の勇者だって言うんだよ……しかも大国の王様だぜ?そいつの養子にならないか誘われたんだ、受けるつもりだぜ!はぁ?!バカ言うな、その金をだな、少しでもお前やお前の弟の生活費に、そんで少しだけ我慢して待ってろ、な?』


嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき。


『ずっと一緒だぜ!魔王をぶち殺して世界の英雄になってキョウを嫁にするのが俺の夢だぜ!ああん?お姫様と結ばれないの?アホか、お前を幸せにする為に魔王をぶち殺すし勇者で王様のジジイの養子になるんだぜ?』


ざざざざざっ、そんな事どうでも良かった、英雄になんてならなくても魔王なんか倒さなくても良かった、近くにいてくれたら良かったのに、なのに貴方はかってにいなくなった、いなくなった、そうだ、こんなきたないおやなしのおんななんてわすれて。


きっとおひめさまかおうじさまとむすばれるんだ、きくたは。


うそつき。


だからしんだ。


ひとりでしんだ。


『おまえ、ここらではみなれないかおだな、おれのなまえはきくた、おまえのなは?きょう?おとこかおんなかわかんねぇなまえ』


しんじゃった。


「ごめんね、悪いのは何時もアタシだもんね」


「うぁぁ」


抱き締められる、何時の間にか膝から崩れ落ちた俺は優しくキクタに抱き締められる、何時も期待させて裏切るんだ、おれをすてて、おれをすてて、おれをすてて、おひめさまとむすばれたんだ、ぜったいにそうだ。


だからおれはひとりでだいじょうぶ、きくたがしあわせならだいじょうぶ、ちゃんとひとりでしんだよ?


「ちゃんと証明する、アタシの一番はキョウだって……ずっとずっと反省していたよ、どうしてあの路地裏に貴方を置いて行ったのか」


「うそだぁ」


「……アタシの言葉はもう信用してくれないんだもんね、ふふ、大丈夫」


「?」


「貴方の為だけにオレを捨ててアタシになったんだもの、見ていて、今度はちゃんとやる」


「うそつき」


「今度は――――――貴方を幸せにする、誓います」


うそつき。

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