第156話・『狂神の愛し子は世界の禁忌の果てに今も生きている』
姿は鹿に似ているように思える、その背丈は見上げる程のモノで天井を突き破りながらまだまだ巨大化している、顔はドラゴンに似ているようだが牛のような尾と馬のような蹄で地面を何度も踏み締める、背毛は金と銀を含めた美しい五色に彩られている、毛は濃い黄色で身体には鱗がある。
一本角が眩く輝いている、何だこいつは?体が震えている、お、俺が震えているだと?その事実に驚きながら墓の氷に微睡壬を護るようにリンクを用いて命令する、黄金色のエネルギーが周囲のモノを風化させている、砂になる様を見詰めながら唖然とする。
使徒と対峙した時と同じような恐怖、全身が震えている、ジロリ、一つの眼球が納まるべき所に二つの眼球、金色のソレの中には複雑な文様が見える、東の大陸の文字だろうか?無色器官で瓦礫を弾く、それを見詰めるそいつは目を細める、む、無色器官を視認している?
いや、単に弾いた瓦礫を見たのかも?いやいや、わかってしまう、こいつは明らかに無色器官を知っている、黄金のヒゲがフヨフヨと浮遊しながら輝いている、俺の知識の中にも誰の知識の中にもいない生物、墓の氷も唖然としている、え、し、シスターは?
「ちっ、瓦礫の下かっ、しかしこいつは――――」
東の大陸の生物、遥か彼方にあるその大陸は俺達の常識が通用しない魔境、それがどうしてここにいる?何とかソレだけがわかる、麒麟、どのような生物でどのような経緯でここにいるのかわからない、情報が圧倒的に足りない、そいつが口を開いて息を吐き出す。
無色器官を容易く無視して俺の体を吹き飛ばす、現実は干渉出来ないはずのソレを容易く上回る、瓦礫が降り注ぐ世界で俺は後方へと飛ばされる、そいつは巨体を感じさせない恐ろしい速度で俺を追撃する、体が無茶苦茶な軌道を描きながら悲鳴を上げている、来い、微睡壬と墓の氷には触れさせない。
現時点でボロボロだがなぁ、東の大陸にはこんな生き物が存在するのか?聖獣と呼ばれるソレは魔物では無く神の遣いらしい、東の神様の遣いがどうしてシスターを守護してやがるよ、僅か数秒の間に遺跡の外へと弾き出される俺、あまりの速度に空気に焼かれて服が焦げる。
「畜生、獣風情がエルフライダーに逆らうんじゃねぇよ」
『神の子、八輝翼の一柱は子を産んだ、人嫌いである我が主、八輝翼の肝無巽光(かんむそうこう)とは思想が違い過ぎる』
少女の声、こいつ喋れるのか?しかし追撃は止まら無い、紫電、紫色の電光が無様に空中を回転している俺に襲い掛かる、無色器官が砕かれる音を聞きながら地上に落下する、体内が焼かれ回復に全てのエネルギーを使用する、今まで戦った敵とはあまりに掛け離れている。
立ち上がろうとする俺を巨大な足で蹴り上げる、臓器が破裂して骨が粉々に砕けるのがわかる、妖精の力を常時全開にしていないと一瞬で死んでしまう、砕けた歯が口内に突き刺さり眼球が飛び出て景色が暗闇に包まれる、舌打ちする事も出来ずに転移する、キョウは何も語らずに力を貸してくれる。
それ程にこの生き物は異質だ、世界観がまるで違うような存在、転移して奴の目から姿を眩ます、岩陰に隠れながら死体同然の体を修復する、まるで戦闘になっていない、一方的な暴力に容易く翻弄されている、濁った血がお尻の下に広がって冷たい、冷たい?死に掛けている?
『ルークルットの最後の子よ、同じ神の使徒としてお前を裁こう、接触は肝無巽光も望んでいない、ルークルットの管理する地に我が派遣されたのもそれ故に』
「――――――――」
『肝無巽光は妹であるルークルットの支配する地を侵すつもりは無い、しかし、その子が我々の領域に足を踏み入れようとするならばルークルットに恨まれようとその子供の命、頂戴する』
「――――――――」
駄目だ、まったくわからん、肝無巽光(かんむそうこう)って奴の妹がルークルットだって?そんなのは初耳だし神様に兄や姉が存在するのか?他の大陸ではそれが当たり前なのか?いやいや、ルークルットはこの世界の神様だろ?
自分の常識が崩れるような違和感、まるで神様って奴が現実にいるように喋りやがる、こいつは他の大陸の神様の眷属?何だか胡乱だぜェ、しかし否定はしない、自分で確かめた事だけが現実だからなっ、この情報はかなり重要だろ。
シスターを守護しているわけわからんチート生物が語っている事に意味がある……この大陸の外の見解、ふん、もしかしてルークルットって人型で現実にいるのか?ふふふふふふ、そんなバカな、そんなアホな、しかしこの力は説明出来るか?
魔王軍の元幹部と使徒を取り込んだ俺が一方的にやられている、そんな事があり得るのか?だったらこいつは本当に神様の遣いで語っている事は真実では無いのか?絶対神、唯一神、至高神、なのに同格の存在が他の大陸にいるだなんて詐欺だろ。
『特にそなたと第一の子はルークルットと肝無巽光が禁忌を破って産んだ合いの子故にな、他の八輝翼には知らされていない、違う大陸の神が近親相姦の故に産んだ子など望まれるべきでは無く』
「――――――――――――――――――」
『姉である肝無巽光が父であり夫であり妹であるルークルットが母であり妻である事など秘匿されるべき事、この機会だ、肝無巽光の監視無き今、浄化してやる』
「――――――――――――――――」
『我が主の子よ』
第一の子って勇魔だよな?修復が完了する、全身血塗れでかなりキモい仕様になったが仕方無い、焦げた表面が崩れて地面に落ちてしまったが気にしない、俺と勇魔だけ天命職でも異質って事なのか?何処まで信用して良いかわからんぜ。
えっと、東の大陸に肝無巽光って神様がいてそいつがこの世界のルークルットのお姉ちゃんで二人とも百合で近親相姦でガキを孕んでソレが俺と勇魔?う、うーん、まずこの大陸の常識からかけ離れすぎてわけわからん、そもそもルークルットって唯一神だろ。
立ち上がる、瞬間にいきなり空間が歪みそいつが出現する、嘘でしょう?もはや笑うしか無い、こいつの言葉が本当なら俺の親父の眷属だろうがっ!ん?姉妹だから両方女だろうがっ、え、神様ってそれでガキを孕めるの?ついつい人間世界に置き換えて考えてしまう。
「うるせぇ!ルークルットを倒してこの世界をグロリアの為に改造するんだっ、なのに新しい神様出すんじゃねぇ!』
『妹君は末っ子のそなたを溺愛しているが故に人間世界でこのような試練を与える』
「はあ?」
『肝無巽光は子供二人を異国の地に連れて行かれて干渉する事も出来ない』
「他の天命職は何だよ!」
『アレはルークルットが単体生殖で生み出した存在故に神を脅かす脅威になる可能性は少ない、問題なのは姉と妹、父と母の両方の特性を持つ貴様らよ』
「へえ」
『その笑い方、妹君に似ている、何もかもを利用して子供を産んだ悪魔に似ている、姉すらも欺き愛を囁いた憎むべき神』
「うるせぇ、百合で近親相姦で妹に騙された間抜けな神様の下僕が吠えるな」
あはははは、よくわからんがこいつの話では俺は神様の脅威になる存在になれるって事だよなぁ、グロリアの為にグロリアの為にグロリアの為にグロリアの為にグロリアの為に、お前、おまえ、じつはうまいだろうー。
おいしいだろぉ。
『狂神ルークルットの実子なだけはある、その瘴気、その笑顔』
「んふふふふふふふふふ、おなか、すいたぁ、おまえのせいでかろりーがないのぉ」
だからくわせてね、おいしくたべるようにおれがんばる。
がんばります。
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