第155話・『あれ、このシスター生きてる?………死んでてどうぞ』

確かにシスターだ、第一印象はソレだ、シスターの顔はみんな同じ、そしてペチャパイ、神様的にそれが美しい生き物って事だろうか?どれだけ歪んだ性癖をしてやがるんだ。


自分の胸に触れる、ムニムニ、俺もペチャパイだがグロリアよりはあるぜ、このシスターとは良い勝負だろうか?目を閉じているので瞳の色はわからないが確かにシスターではあるのだ、本当に死んでいる?


「これがボク達のご先祖が代々崇めて来たシスター・蔚麻(いお)ですっっ」


「翼が生えてるぜ……こいつ本当にシスターか?魔物の一種じゃないのか?」


「ど、どうでしょう、ボクはシスターだと思いますが、シスター・キョウと顔も同じですよ?」


「そりゃそうだけどよぉ」


「し、シスター・キョウの方が、か、かわいらしいと、お、思います」


「先祖代々守り続けたのにひでーな、そりゃお前が初恋で浮かれているだけだぜ、ふん、女ってすぐにワッショイするよな、俺はそんなに軽く無いぜ」


「お、お家まで運んだけど軽かったですっっ!!羽根のように軽かったです!!う、羨ましい……うぅうう」


「知らん、自分で言って落ち込むバカがいるか」


「こ、ここにいます!!シスター・キョウに初恋中のボクがいるですよ!」


「お、おう、落ち着け、近い近い」


膝を抱えるようにして氷塊の中で眠る少女、確かシスターも製造目的によって多様性はあるんだよな?俺やクロリアはグロリアと同じ系統になるわけだ、まあ、細胞はまったく一緒だから仕方無いし俺もクロリアもシスターとして誕生した経緯がややこしい。


こいつはどうなんだろうか?目の色や髪の色である程度の情報は得られるか?グロリアと再会したらこいつの特徴を伝えよう、真っ暗な空間の中で大きな氷塊がゆっくりと自転している、その中で眠っている少女が死んでいるだなんてまったく思えない、不思議だぜ。


眠っているようにしか見えない、明るく鮮やかで艶やかな黄色の髪が目に映る、菜の花色、身近な春の景色として古くから親しまれた花の名を持つその色は見ていると心が落ち着くようだ、古来から文豪にも愛される色で文学にも良く登場する、人を惹きつける特殊な色合いだ。


肌は透けるように白く身を包む透明な氷と同化していると錯覚するほどだ、腰の辺りまで伸ばした髪は癖ッ毛の一つも無く綺麗なストレートで何故だか少し羨ましくなる、べ、別に俺は女じゃ無いから髪なんてどーでも良いんだぜ、ふん、注意深く観察する。


顔の造形は俺やグロリアと同じで神の趣味だ、絵物語のお姫様を容易く凌駕する美しいソレ、閉じた瞳も美しいものだと容易に想像出来る、睫毛は長くクルンと上を向いているし眉毛も綺麗に整っているぜ、目鼻立ちははっきりしていてその配置も完璧だ。


「叩いて割るか?」


「し、シスター・キョウ!」


狼狽える微睡壬、そりゃそうか、こいつの一族はこいつに血を分け与えられた事を誇りと恩義に感じて今日まで尽くして生きて来たのだ、割る事は反対か?しかしどうしよう、氷の中で眠っていたら食事出来ないじゃないか、全身を覆うようにしている翼も気になるし!


あそこは鳥の味がするのだろうか?鳥肉は大好きだ、山の中で捕れる鳥の種類は多い、それぞれに個性があってそれぞれに適した食べ方がある、カラスの肉は皮が厚くて硬くて噛み千切れなかったなぁ、あいつらは仲間想いなので一羽仕留めて放置していると心配して何羽もやって来る。


そこを一網打尽にするわけだ、カラスは魔女の使いとか色々言われているが仲間想いの良い奴なんだぜ?こいつの翼の皮はどうなんだろうか?真っ白なソレは純白で一切の穢れが無い、とてもとても美味しそうだ、シスターに鳥肉が完備されているだなんてこいつ無敵じゃね?


「はぁ、はぁ、遺跡の中にある壁を砕く為のハンマーですっ!はぁはぁ、火山灰と石灰と砕石を混合した素材は街で売れるらしいのでっっ」


「軽石もな、つか、え、割るの?」


「し、シスター・キョウが仰ったんですよね、うえ、ぼ、ボクの聞き間違いでしょうか!?」


「いや、割ろうとはしたけど」


「はっ?!トンチですか?!」


「うん、トンチじゃねぇな、おい、トンチを反対から読んでみろ」


「チント!正解ですかっ!」


「ふふ、正解だぜェ、とてもとても正解だぜ、おいで、おバカなお前を撫でてやろう」


「はふー、おバカで良かったです、ご褒美を頂けましたっ」


いや、お前頭良いからな?光気(こうき)による冷気は部屋に充満している、俺の後ろに控える墓の氷は何も言わずに凄い形相で微睡壬を睨んでいる、嫉妬に狂っているが優秀な一部だ、何も言わないって事はこのままで良いんだろ?


中々に丈夫なハンマーだ、これもルークレット教の置き土産だろうか?頭の部分は炭素工具鋼(たんそこうぐこう)で出来ている、鉄に炭素とケイ素とマンガンを含む炭素鋼の一種だ、据込み鍛錬で製造されるソレは高い技術力を必要とされる。


鍛造は鋼等の金属に巨大な圧を掛ける事で金属の組織をより緻密にすると同時に形状を大きく変質させて必要な製品や部位に加工する技術だ、うーん、クロリアの知識を読み取りながらやはり疑問が浮かぶ、ルークレットって何なんだマジで。


「割るべ」


「うわーい、シスター・蔚麻も喜びますよ!死んでるけどっっっ」


「よいしょー」


中身を割らないようにハンマーを叩き込む、その瞬間に全身に寒気が走る、大声で叫ぶ。


「墓の氷っっ、微睡壬を護れっっ」


「え」


「御意」


瞬間、地面に大きな影が広がって遺跡が大きく震える、何かが影の中から生まれようとしている、光気(こうき)の密度が濃くなり眩い光が世界を包む、これは、魔物じゃねぇぜ?!


ぞくり、シスター・蔚麻の瞳が慈しむように俺を見詰めているのに気付く、こ、こいつっ。

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