第154話・『ロリ娘の嫉妬で世界がヤバいが放置』
冷気だ、魔力による冷気が部屋に充満している、冷たいはずなのに微かな温もりのようなモノを感じるのだ、違和感、首を傾げながら前に進む、微睡壬は本当に何も感じないのか?
『ママ、この冷気、魔力によるモノではありませんわ、確かに生命の力ではありますは』
「うるせぇ」
『あ、あのぅ、少しはお話を聞いて下さいませんか?』
「いいぞ」
『な、何だか釈然としませんわ』
墓の氷は冷気を扱う魔物だ、この冷気に何か違和感を感じている?ズブブ、首元に肉の塊が出来て人型へと変貌する、妖精の力で透明化させているので微睡壬には気付かれ無いはずだが何だか緊張する。
先を歩く微睡壬は実に楽しそうだ、あまりに手を繋ぎ過ぎて汗ばんだので止めようと提案すると軽く泣きやがった、女の泣き声って何であんなに耳の奥を揺さぶるんだろう?肉塊が切り離されて地面に落ちる。
周囲の冷気を吸収しながら一瞬で巨大化、魔力じゃ無いって言ってた割に美味しそうに食ってるじゃないか、ふん、しかしそう言われると力の波動って意味では同じだがもっと純粋なモノのように思える、小声で喋る。
「おう、産まれたか」
「はい、産まれましたわ」
氷の化け物が跪く、雪のように白い肌が淡く輝いている、いや、氷のように透明度のある白さだ、不純物を一切含まない水を凍らせる事で出来た氷、産毛すら見えないきめ細かいその肌は透明度が在り過ぎて生物のものとは思えない。
「これ、確かに何だかおかしい『気』だな」
「天上に住むモノが有する光気(こうき)ですわ、神もこれと同じ力を用いると言われていますわ」
「ふーん、どうしてそれが氷漬けのシスターのいる神殿の奥から溢れているんだ?それにコレ、魔王の眷属の魔力の方が俺には合っているぜ、綺麗過ぎてキモい」
「そ、それは私(わたくし)の事を、こ、こいびとに」
「うるせぇ」
「あのぅ、何だか面倒な事があるとその一言に頼るのは―――い、いいえ、何でもありませんわ」
「ふん、俺に尽くせよ、そうしたら考えてやらん事も無い」
「なら、ママの敵を沢山殺して差し上げます、それが魔王でも同族でも」
「働き者が好きだぜ」
絹の法衣を纏った煌びやかな格好をした墓の氷、宝剣に王笏、王杖、指輪、細かい刺繍の入った手袋、様々な情報が視覚から一気に流れ込んで来る、絵物語の王女のようだ、腰に差した宝剣を片手で撫でながら薄く笑っている。
ゆるやかで幅広な広袖のチュニック、十字に切り取った布地の中央に頭を通す為の穴を開けてさらにそれを二つ折りにして脇と袖下を丁寧に縫ったものだ、肩から裾に向かって二本の金色の筋飾りが入っている、見ただけで高級なモノだとわかる。
筋状に裁断した別布を縫い付けているのだ、袖口にも同じ色彩の筋飾りが縫い付けられている、本繻子(さてん)と呼ばれる繻子織(しゅすおり)で編まれた素材、経糸と緯糸の五本以上の糸で構築される織物組織の一種だ、経糸と緯糸のどちらかの糸の浮きが極端に少ないのが特徴的だ。
経糸か緯糸のどちらかだけが表面に見えるのだがその職人技には素直に感嘆する、密度が濃く層も厚い、さらに柔軟性もある、中央では高値で買い取りされると聞いている、光沢が恐ろしい程に強く服の形をした宝石のようだ、唯一の欠点は摩擦や引っかかりに弱い所だ、欠点と言える欠点はそれだけで非常に優秀な衣服なのだ
「ママ、あのお方は?」
「え、俺の中で見てただろ」
「いいえ、寝てましたわ、まだ赤ちゃんですもの、殺せばよろしいのですね?」
「そんな事をしたらお前を殺すぞ」
「え」
「アレは殺しもしないし一部にもしねぇ、俺の記憶を読み取って学習しろ、カス」
「で、でも、ママはお腹を空かせて―――」
「二度言わすな、嫌いになるぞ」
「あ」
歩き出す、微睡壬には墓の氷は見えない、俺が一人で話しているのは違和感があるだろう、しかしこいつは必要だ、この冷気を発生させているシスターの遺体を調査しないといけない、トボトボ、自信満々の少女が落ち込んでいる様子は何だか面白い。
青色のサテンは鮮やかな光沢を放ちながら彼女の幼い体を包み込んでいる、裾の隙間から紅色のサテンが見える、裏地に付けて作られているようだ、薔薇の縁飾りを付けて三日月の紋章が刺繍されている、それ以外にも多くの箇所に金糸刺繍がされている。
それを無造作に掴んで引き寄せる、手触りとしては最高だ。
「あれは良いんだよ、お前の今の発言は許せないがお前そのものを許せないわけじゃない」
「ま、ママ………私、良くわからないんですわ、何時も美味しそうな個体を見つけるとすぐにお食べになるのにっ」
「あいつは特別だ」
「と、くべつ、ママの……あの、あんな人間の子供が?あんな程度の低い生き物がっ」
「ふふ」
嫉妬で身を震わせると頭部にある小さな王冠が僅かに傾く、アーチやキャップが無い、内部被覆が皆無な独特の形状、サークレットと呼ばれる王冠だ、素材は銀だ、幼い少女がするには不相応だと思うが何故か自然と馴染んでいるようにも思える、こいつの美しい容姿は派手な装飾品に負けないからな。
明るい薄青色の瞳はやや切れ長で目元が涼しげで美しい、それが嫉妬によって細められる、手を振る微睡壬を視認した瞬間に殺意が全身から溢れる、しかし俺の命令は絶対だ、殺意を溢れさせるだけなら幾らでもどーぞ。
「ま、ママの、特別、ママの、私のママのっ、人間が、子供がっ」
「お前だって見た目子供じゃん、ふふ」
「私のママに、あれ、あれが」
「ふふん、あの娘は特別♪お前はどうだろう?俺にとって特別なのかな」
顎を手で掴み持ち上げる。
「見ててやるから誠意を見せろ」
「ママの御心のままに」
しかし殺意は変わら無い、こりゃ、少しヤバいかな?
面白い。
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