閑話123・『ロリエルフは鼻血が止まら無いので死ぬ』

目配せする、アタシの一部が潜伏しているのがわかる、しかしここに来て大問題、キョウはアタシの事を一部として認識出来ていない、リンクを外されている。


一部である事に変わりは無いのに認識して貰えない、それによってもたらされたのは幸せな時間、あの路地裏の小さな聖域を思い出させる幸せな空間、出て来るな、消すぞ。


アタシの為に行動するのは勝手だがキョウを害する事は許さない、キョウに嫉妬して害するだと?そんな一部は必要無い、エルフライダーの力はそもそもキョウのモノ、キョウが幸せになる為の力。


勇魔によって歪められたソレは純粋さを失わずに今でもキョウの中にある、それをお借りして貴様たちは誕生したんだ、アタシの主であり想い人であるキョウを傷つけるだなんて許せるはずが無い、ああ、キョウを認識したその瞳を貫いて繰り抜きたい。


キョウの声を聞いた耳を引き千切って野良犬の餌にしたい、キョウの吐いた空気に触れた皮膚を剥いで野晒しにしたい、あああ、アタシは一部にすら嫉妬している、キョウはアタシだけの可愛い人、絶対に絶対に幸せにしてみせる、その為の道具が貴様たちだ。


キョウと同じ空間にいられる事に体が常に歓喜で打ち震えている。


「お前、熱量すげぇよ、熱量」


「あ、アタシ?」


「お前以外に誰がいるべ、つか、この街に来るとお前かキョウかどちらかしかいないよな」


女性体のキョウはアタシを気遣ってくれているのか幸福な時間を分けてくれる……アタシは羽化する日を待ちながらこの街でキョウと触れ合えるのだ、一部は命じてもいないのにキョウを監視している、お前達がエルフだとわかった瞬間に強制的に食われるぞ?


アタシが作ったおにぎりを食べながらキョウは朗らかに笑う、この世界は望めば何でも生み出せる、しかし最初から料理を生み出したらつまらない、材料だけを生み出して調理をする、キョウは幸せそうにおにぎりを食べている、頬っぺたがパンパンに膨らんでリスのようだ。


リス如きが比較にならない程に可愛いけどね。


「うめぇ、うめぇ、キクタ料理うまいな、良い塩梅だ」


「そ、そぉ、あっ、頬っぺたにご飯粒」


「んー、もう一個食べていい?最近さ、使徒や魔王軍の元幹部を取り込んで処理にエネルギーが足りないぜ、まったく、そろそろ精神的に安定した奴が欲しいなあ、勇者の元仲間とか」


「す、好き嫌いしないキョウは偉いわね!」


「そ、そうか、そんなの褒められたの初めてだ、えへへ、サンキュー」


「ご、ごめん、少し鼻血が………」


「ま、またか、首トントンしてやろうか?トントンって」


「ご、ごめん、それをされたら干乾びるかも」


「……………ど、どうして」


キョウの御誘いを断ってハンカチで血を拭う、どうしてこんなにも優しいのだろうか、鼻血だとまだ良いが吐血までしてしまいそう、アタシが持って来た風呂敷の上に置かれたおにぎりを怒涛の勢いで食べるキョウ、本人は普段比較するべき存在がグロリアだから気付いていない。


お、大食いになってるよ?恐らくクロリアの細胞のせいだけど仕方無いよね、アタシは手を出さずに幸せそうにおにぎりを平らげるキョウを見詰める、見た目は美しい少女だが中身も美しい少女、あ、あれ、アタシは何が言いたいんだっけ?キョウといると常に混乱している。


幸せな夢の中にいる。


「ほら、無理すんな、とんとん、とんとん」


「…………あ、アタシ、ここで死ぬ」


「とんとんとん」


「無情なキョウも好きよ、ふふ」


「ほら、鼻血止まったろ?拭いてやるから、しかしお前って黙ってたら本当に美少女だよな、グロリアと良い勝負だぜ」


鼻を優しく拭われる、鼓動が激しくなって眩暈がする、あまりの幸せを噛み締めながらキョウの顔を見詰める、かわいい、こうやって他人を心配出来る心の優しい女の子、ああああ、これは教育によるものでは無く魂の資質によるものだ。


首を傾げる、癖ッ毛がぴょんと跳ねて愛らしいよぉお、どう、どうしよう、どうしよう、い、息の仕方を思い出せない。


「つっつつつつ」


「うぉ?!ど、どうした、し、死ぬなっっ、あ、息してねぇ?!」


「ぷはぁ、ご、ごめんなさい、キョウの事を考えていたら集中し過ぎて呼吸の仕方を忘れたわ」


「ご、ごめん、今の台詞の一つも理解出来ないぜ」


キョウはそう言って唇に手を当てて上品に笑った、あっ、お姫様だ。


「かわいいよぉ」


「だ、だから何だって」

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