第152話・『足蹴にされても君が大事』

無造作に踏み付けられる感覚で心が溶けてゆく………この人はボクに光を与えてくれる、無造作に無限に与えてくれる、長老は街へと旅立った、虐殺する為だ。


シスターを狙う存在を消すように命令された、足はムカデのように増やされてより醜く滑稽な姿になった、自我は既に無く与えられた命令の為に稼働するゴーレムに成り果てた。


ボクはそれを見て『これが一部ですか?』と問い掛けた、シスター・キョウは苦笑しながらコレはう●こだと言った、そうか、一部では無いんだ、シスター・キョウの一部ってどんな存在だろうか?


「♪お前、実は頭良いよな」


「わ、わからないです、ご、ごめんなさい」


「単独でゴーレムの術式を編める奴が馬鹿なわけねぇだろ、ふふん、でも軽くて踏みやすい頭だ」


「ひ、ひゃい」


地面に鼻を打ち付けて鼻血が止まら無い、ふがふがふが、口呼吸で頑張りながらシスター・キョウの様子を観察する、どうやらご機嫌のようで聞いた事の無い歌を口ずさみながらボクの軽い頭を踏み付けている。


綺麗な足、毛穴すら見えない、白くて細くて同性の足だとは思えない程に神秘じみている、艶やかで張りがあり機能美に溢れている、シスター・キョウは残虐性の止め所がわからないらしく頬を高揚させて涎を垂らしている。


瞳には荒々しい光が満ちている、ど、どうしてこの人のお気持ちがわかるんだろうか?ボクの中にあるシスターの血が共鳴しているのだろうか?どのように乱暴に振る舞われても思うのはこの身でお心を沈めて上げたいって気持ち。


「ふふん、軽い頭、かるいかるい、好きだな」


「シスター・キョウ、大丈夫ですか?」


「んー?」


「し、心配です」


「俺の事を心配してくれるのか?優しい奴だ、お前をここで襲って体を沈めたいけど……やだし」


「や、やだし?」


「お前、良い奴だしな、アクに似てるから一部にしたくないもん、してあげないもん」


「え、えっと、その、一部になればどのような事になるのですか?」


「俺と死ぬまで一緒にいられる、あ、死んでもか」


「一部にして下さい!じゅび」


即答するが溜息を吐きながら強く頭を踏まれる、急激に迫り来る地面、鼻の頭が擦れて中も外も痛い、ジンジンする、シスター・キョウは舌打ちをしながら何度もボクの頭を踏み付ける、優しさが無くなった、衝動的なモノに任せて一心不乱に踏み付ける。


指の隙間に髪の毛が絡んで幾つも抜ける、しかし容赦は無い、何度も揺らぐ景色の中でボクはボクの女神を見上げる、なるべく粗相をしないように気付かれ無いように、あああ、泣きそうな顔でボクを踏み付けるシスター・キョウ、ボクだけを見てくれている。


氷塊の中で眠るあのシスターとは違う、初恋がそのままこの人に移行して何倍にも膨れ上がったような気持ち、シスター・キョウの汗が降り注ぐ、ありがたくそれを頂戴しながら感謝の気持ちを吐き出す、好きです、好きです、それ以外に言葉が浮かばない。


「お前を一部にしないのは俺の意思だ、逆らうのか?やめろ、言うな、なりたいだなんて」


「声が震えて……ボク、ボクのせいですね」


「お前は俺とずっと他人じゃなきゃヤダ、あうぅ、やだ、やだやだ」


癇癪?いや、精神に罅が入る音、この人は危うい、とてもとても危うい、その見た目は儚く脆いのと同じで精神も同じなのだ、きっと過去にとても辛い思いをしてお心が砕けてしまった、だからあのような残虐性を有しているし逆にボクを気遣う優しさも持っている。


「やだぁ」


足の力が抜ける、自分の体を抱き締めるようにして蹲るシスター・キョウ、も、元に戻った?いや、幼くなった?状況が把握出来ない、だけど母性と庇護欲がこれでもかと刺激される、まだ幼いボクが年上のシスター・キョウを心の底から護りたいと思っている。


ふるふるふる、震えているシスター・キョウ、取り敢えずそこら辺に投げてしまわれた靴を探す、あ、あった!近付いて履かせようと試みるがビクビクするだけで足を上げてくれない、表情が捨てられた子犬のようで目頭が熱くなる、か、可愛すぎて何だかおかしくなりそうだ、そして鼻血しんどい。


「き、綺麗な足が汚れてしまいますよ?」


「やだぁ」


「………ぼ、ボクは一部になりません」


「あ」


「………アクって人じゃなくて、ボクを見て下さい……ボクの女神」


呆けた瞳がこちらを見詰めている、暫くして癇癪は納まった、しかし何も話さない。


まるで感情が抜け落ちたかのようなシスター・キョウが心配でたまらなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る