第151話・『女神さまに忠誠のキス、その前に頭を踏まれて実は鼻血(描写は無い)』
氷の中で永遠に眠るシスターの護衛を命じられてどれだけの年月が経過しただろうか、墓守りとして生きて来た自分の一族、母は病で死に父も病を患いながら無理にゴーレムを開発した事が原因で死んだ。
父と母は姉弟だったらしいが汚らわしいとは思わない、人間関係がそれだけ希薄なのだ、自分が足を踏み入れる事を禁じられているあの街から使者が時折訪れては指示を下す、それを拒否する事は出来ない。
だって自分の一族はシスターが自ら血を分け与えた存在の末裔、故に街の人間からは疎まれて疎外される、シスターに愛された存在ってだけでこれ程までに迫害される、それだけシスターって存在は人を惑わせ心を支配する。
ボクはそれをちゃんと自覚している、街の人間の扱いは悲しいがそれがどうでも良くなるぐらいの誇りがある、氷の中で眠るシスターはどのような絵物語のお姫様よりも美しくて可憐だ、父も母もご先祖様たちもこの美しさを独り占めする為にここに住んできた。
街の人間や長老なんてどうでも良い、きっとこのシスターに血を与えられた時からボクの一族は狂ってしまったのだ、シスターを愛して敬うだけの存在に、そしてボクもその末裔、誰とも出会う事無くシスターの守り人として朽ちてゆくはずだったのだ、そう、はずだった!
番いを与えられる事も確定していたしボクの人生はシスターに捧げるべきもの、伴侶を選ぶ権利なんて無いし興味も無い、確か長老のお孫さんだったかな?そんな事よりも確実に血を残してボク達の子孫が永遠にシスターをお守りする事の方が重要なのだ、使命と言っても良い。
「アハァ、おもしろーい、人間とゴーレムの融合だぁ、くく、あはは、こうやって創作物を作るって良い事だよなぁ、上手でも下手でもさぁ、あはは、あれ、どうしてこんなゴミを作ったんだっけ、わかんなーい♪」
「んふふ、キョウったら楽しそうにしちゃってェ、人殺しよりも楽しい事を見付けたのかな?ふふ、私にも教えて?」
「生きたまま加工すると楽しいんだ、うふふ、見てごらぁん、ゴーレムの球体に足と頭と手があるよぉ」
「ふふ、巨体に足が潰され無いようにオジサン必死じゃん、押し潰されたら支えるより痛いからねェ、これで何度目?」
「足を復元したのは三度目!褒めてー」
「怪我をした見ず知らずの人を助けるだなんてキョウったら本当に天使、ふふ、キョウを襲いたいなァ、性欲を刺激させちゃって」
「?キョウは面白い事を言うな、俺が天使か………ふふ、ふふ、可愛いなら何でも良いや」
「世界で一番可愛いよ、ねえ、貴方もそう思うでしょう?」
独り芝居、違う、まるでスイッチが切り替わるように人格が?いや、それも違うように思える、まるで怒りや悲しみのように感情が変動するような正当な変化、生理的なモノ??二つの人格では無く一つの人格の中に違う色があるようなそんな違和感。
一人は先程のシスター・キョウ、もう一人は何処か粘度と糖度を感じさせる蜂蜜のような甘い声をした少女、突然の奇行に思考が停止する、一瞬だった、ボクを縛り付ける二つの存在が目の前で溶け合った、ゴーレムは透明な何かで粉々に粉砕され長老はそれに投げ込まれた。
一瞬の早業、そして絶叫する長老の周りに肉の壁が四面を囲んで徐々に狭まる形で融合する事になった、骨が軋み肉が潰される音は思った以上に爽快だった、そして声が聞こえなくなると同時にそれは誕生した、球体のゴーレムの天辺に長老の頭部がある、目は血走っていて泡を噴いている。
先程まで沢山あった腕は消えている、しかし新たに追加された部分がある、毛の生えた華奢な足、中年の足がその巨体を支えている、履いている靴を見ればわかる、あれは長老の足だ、ボクの父親の忌むべき作品がわけのわからない魔物に成り果てて目の前に存在している。
ぺき、ぽきっ、足の骨が砕ける音と内部から貫くように外側へと弾き出される白い骨、絶叫、あの巨体を支えるのはあの足では無理だ、そもそも生き物として機能していない、これをシスター・キョウが生み出したの?それがどのような力によるものなのか想像出来ない。
『いだい、いだぃいいいいいいいいいいいいいいい、いだぁいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい』
「?何て言ってるんだろう」
「キョウの事を可愛いよ、だって」
「うあ、き、キモイ」
「んふふ、だったら殺しちゃう?もう楽しんだでしょう?殺すのが億劫なら私がしたげるよ」
「駄目だぞ、こいつはあの街のシスター血吸い同盟を殺す役割があるんだからな、こいつだったらメンバーの顔を知っているだろ?あはは、魔物化させて良かった」
「良かったねェ」
ボクを悩ませていた二つの存在は一つになって悲鳴を上げている、何度も足が砕けて何度も足が再生する、足が無くなってしまえば痛みの限度もわかるのに何度も再生させる事で絶叫するような激痛を何度も与えている、あれがあの長老?
何時も偉そうでシスターの氷塊に抱き付いて自慰をする変態、それで子供も孫もいるのだから人間ってわからないなと素直に思う、ボクもこの人もみんなみんなシスターの美しさに心奪われて狂ってしまった、その血を飲めば少しでも近付けると錯覚した。
しかしボクは生きている本物のシスターと出会って確信した、彼女達の美しさを他者は奪えない、神様がそのように仕組んだのだ、自分の愛しい娘たちが人間などに穢されないようにルールを生み出した、ああ、本物のシスターは素晴らしい、何とも美しい。
シスター・キョウの左右の違う色合いの瞳が残酷に細められる、目の前の創造物を貶しながら心の底から楽しんでいる、誰もが嫌悪するであろうその光景を見て全身が歓喜に打ち震える、鳥肌、あんなにも美しく人間を壊す存在がいるだろうか?まるで神様のようだ。
少女の姿をした圧倒的な女神、甲高い声は決して五月蠅いものでは無く神聖なモノとして空間に木霊している、愛らしく残酷で気まぐれで優しい声、あらゆる矛盾を孕んだ声は人間を蹂躙する資格を神から与えられた証だ、恭しく頭を垂れる、膝が自然と折れる、なにをしているの?
「んはは、ん?なぁんだソレ、どうした、体調悪いのか?」
「い、いいえ、崇めたいのです、あぁ、シスター・キョウ、ボクの女神さま」
「女神?んー、んー、どうして?」
「貴方が長老を改造する様を見て蹂躙する様を見て心に芽生えたモノです、お許し下さい」
「キスして」
クスクス、悲鳴を上げる長老に飽きたのかこちらに近付いて来る、器用に片足を上げて靴を放り捨てる、ゴッッ、頭を垂れていたボクの頭を容赦無く踏む、素足の感触、生々しい感触、柔らかいソレを感じながら涙する、どうして神様はこのような存在を生み出した?
この世にある宝石でも景色でもどのようなモノでも彼女より美しく優れたモノは無い、ゲシゲシ、頭を何度のお踏みになられる、それに感謝しながら顔をゆっくりと上げる、少女の姿をした美しいモノ、後光が差して見える、発光しているようにも思える。
天使にしか見えない。
「…………ちゅ」
「ッ、ふふ、お前………わかってるな」
足の甲にキスをする、白くて血管が透けて見える肌はきめ細やかでガラス細工のようだ。
体が火照るのを感じて股を擦らせた。
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