第150話・『エルフライダーの優しい能力、んふふ』

足を踏み入れた瞬間に無機質な殺意を感じた、無機質な殺意って言葉に矛盾があるがそうとしか感じられない、同時に汚らしい声が耳に入る。


何かが恐ろしい速度で飛んで来る、難なく回避。


「シスターは殺すなっ!餌さえやれば無限に我々に血を与えてくれる神の子だっ!半殺しにしろっ!」


肥え太った汚らしい男はあまりに自分の欲望に忠実な言葉を吐き出す、服にこれでもかとギュウギュウに込まれた詰め物と固い飾り襟によって権力を象徴している、頭髪は既に無く脂ぎった顔はある種の若さに満ちている。


まるでアヒルの水掻きのように先が平たく広がった革靴が滑稽だ、権力者ってこんなモノだよなぁ、こいつが俺を捕食しようとしている敵で微睡壬(まどろみ)を裏切り者として始末しようとしているオッサンかあ、成程ね、醜い。


細かい金糸刺繍を施した服をこれでもかと見せ付けながら怒鳴り散らす中年の男、汚らしく唾を飛ばしている姿は見ていて気分が悪い、別にオッサンが嫌いなわけでは無く見た目と中身の両方が醜いと嫌悪感が高まるって話だ。


微睡壬の方を見て気持ちを落ち着かせる、あわわわと口を震わせて全身を小刻みに揺らしながら尻餅ペッタンコ状態、あんなに美味しそうな餅は見た事が無い、ガキの癖して中々に魅力的な尻をしてやがる、実に美味しそうな尻餅だ、じゅるり。


「し、シスター・キョウ、お怪我はっ!?」


「餅食いてぇ」


「この状況でお餅を欲するのですかっ!す、すごい、自分の心に正直でピュアなんだぁ」


「実はお前の尻が食いてぇ」


「ひぃ?!か、硬いデスヨ」


「歯は丈夫だから大丈夫、しかしアレが噂のレクスかぁ、何だか妙に小さくて妙に機敏だな」


しかしこの空間は何だ?妖精の力で分析する。アルミニウム系バインダーを使用して構築された空間、ローマン・コンクリートと呼ばれる特殊な素材だ、一般的なコンクリートはカルシウム系バインダーを使用したポルトランドセメントだ。


前者のソレは後者のソレと比較しても倍以上の強度があるがやや扱いが難しく流通させるのが難しい、前者のポルトランドセメントはアルカリ性による化学反応で結合しているのだが炭酸化する事で表面が少しずつ中性化してしまう……その過程で徐々に強度を失う事になる。


故にポルトランドセメントによって構築されや建造物の寿命は最長でも百年ぐらいだと学者たちに言われている、しかしローマン・コンクリートは違う、地殻中にある堆積岩の生成方法と同質のジオポリマー反応を用いる事でケイ酸ポリマーを形成するのだ、それによって強度が数千年以上も保たれる事が確認されている。


しかしササの知識を得る為に細胞を活性化させると妙に攻撃的になる、あいつの素ってコレだよな。


「戦いで傷付けたく無いぜ、おっと」


うっとりしていると背後から攻撃される、感覚のみに任せていい加減な方法で回避するのだが有り余る力によって発揮されるソレは軽く地面を蹴り上げるだけで敵の行動範囲から一瞬でいなくなる事を実現する、えーーっと、何だっけ、このゴーレム。


そいつの姿は躯(むくろ)の塊だ、様々な人間のパーツを無理矢理に埋め込んだ球体のような生物、微睡壬の話では犯罪者を生きたまま生成したゴーレムで人間の優れた筋肉の部位だけを集めたらこのような醜い生物になったらしい、ゴム鞠のように地面を跳ねて移動する。


俺を追撃するそいつは筋肉の達磨だ、恐ろしい反応速度で何本もある腕で攻撃してくる、顔の部位が無い分まだマシかな、どうやってエネルギーを補充しているのだろうか?口は無いよな、しかし微睡壬の親父さんも中々に素敵なゴーレムを生み出したな、感心するぜ。


『グァァアああああああああああああああああああああああ』


地面を跳ねて移動するそいつの速度は中々に実践的だ、壁や天井を使って空間を上手に使っている………上空からの攻撃は対処し難いが妖精の力で動きを読み取って躱す、ふふん、そいつが壁や地面に着地する度に細かい破片と血肉が舞う、ローマン・コンクリートは硬いからなぁ。


痛くないの?そうツッコミたいのだが意思の疎通が出来そうに無い、しかしファルシオンが無いから素手で対処しないといけない、無色器官で一瞬ですり潰すのもありだが今はまだ早い、こうやって遊ぶ事で敵の目的をより注意深く観察する、あの長老は顔を真っ赤にしてゴーレムを応援している。


あの年齢のオッサンがこいつと俺の戦いを視認出来るわけねーべ、頬に僅かに爪が当たる、女性の腕も持っているのナ、しかしその爪では俺の皮膚を傷付ける事は出来ない、魔王軍の元幹部と使徒の細胞が軽々とソレを弾く、お前はゴーレム使いによって生み出されたキメラだよなぁ?


「いいぞっっ、流石は究極のゴーレム、か、金は与えてやったんだ、これぐらいの性能を見せてくれんと困るっ、し、しかし、シスターが、あのシスターが防戦のみでは無いか!」


『グァァアあああああああああ』


「声って何処から出てんだろ、お尻?口は無いもんな、え、これってオナラ?」


「し、シスター・キョウ!!お腹の音かもっっ」


成程、微睡壬の言葉に納得しながら距離を測る、こいつを生み出すのに街の金まで流用してるって事はシスターに関する事柄に金を使うのに抵抗がねぇってか、しかも幼い微睡壬を人質にして無理矢理に開発させるとか人間の所業では無いわな。


肉は腐るから親父さんの形見にもならねーし、そう思ったら段々と苛立って来た、そもそもこの肉ダルマと遊んでやっている俺に感謝しろ、跳ねる事しか脳が無いキメラめ、お前がゴーレム使いによって生み出されたなら俺の体には魔王によって生み出された娘と勇魔によって生み出された使徒がいる。


そして神によって生み出された天命職とシスターがぐちゃぐちゃに溶け合って誕生したのが俺だぜ?醜い犯罪者達のキメラであるお前と俺、どっちの方が強いのか教えてやるよ?ひひ、あひひ、あははははははははははは、コロスの、しらないいきもの、ころすの。


それたのしい。


「んふふ、キョウ、殺しちゃえ、殺しちゃえ、殺しちゃえ、殺して自分が強いって、んふふ、今夜の自慰の材料を得ようねェ、んはぁ」


「うん、うん、うん、そうするぅ」


「な、何だ、このシスター、え」


『グぁあああああああああああああああ』


そぉだぁ、この長老?こいつをころしてゴーレムさんと合体させてもっと、もーっと、つおい、きめらをつくろう、んふふ、えるふらいだーのちからでつくろうね。


そいつらにあのまちのじゅうにんを、ぜんいん、ころさせようね、そうだね、そうしようね。


「あはぁ♪」


がったーい。

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