第149話・『邪悪な悪魔を天使として愛する』

恥ずかしい所を見せてしまった、チッ、舌打ちしながら前を歩く俺の後ろをトテトテと愛らしい足音を鳴らしながら追う微睡壬(まどろみ)。


お前は雛鳥かと言いたいが止めよう、こんなのでも命の恩人だ、無駄に傷付けても意味が無いばかりか言葉の意味すら理解してくれない、何でもプラス方向に考えるナチュラルな聖人なのだ。


光り輝くように明るい緑みの鮮やかな青色の瞳、それが背後から俺を見ているのがわかる、金春色(こんぱるいろ)の瞳は何処までも済んでいて邪気が一つも無いのだ、そして悲しい事に知性もあまり無いように思える。


「お前、俺が泣いてたの見て何て思ったよ、め、女々しいって思っただろ」


「いいえ、妹がいたらこんな感じなのかなぁと嬉しくなりましたっ」


見た目はかなり年下っ、そいつに妹のようだと言われて俺の自尊心は激しく傷つけられる、振り向いて睨むとキョトンとした顔で首を傾げる、金春色の瞳は何処までも邪気が無く透き通っている、同じ色彩をした長い睫毛が震えている、ちなみにシスターの血の影響で無駄に若々しく見えるとか!


髪の色も同じ色彩をしており全てが鮮やかな青色で構成された少女、顔の造りは柔らかで嫌味の無い美少女なのだが何処か小動物を連想させる、しかも頭の悪い小動物、それでいて愛嬌だけは振り撒くのだから困ったモノである。


少しトロンとした瞳が何故か欠伸を促す、こいつを見ていると何だか眠くなるし心が自然と安らぐ、艶のあるサラサラとした髪は肩より少しだけ長く伸ばしている、前髪を眉の上できっちりと切り揃えているし両側の髪も同様だ、清潔感があって清廉な女の子だ。


「お前、俺の事を褒めるけどさ、お前だってかなりの美少女じゃん」


「あはは、そんなバカなー、だって街の皆には卑しい先祖の罪が顔に出ているって言われますし」


「そんなバカな奴らの言葉を信じるなよ、お前が大好きな俺の言葉を信じろ、お前は可愛いよ」


「え、あ」


「それとも俺の事が嫌いで信用出来ないか?」


「い、いいえ、いいえ、で、でも」


「俺を信じろ、可愛い女の子に素直に可愛いって言えない輩はクズ同然だ」


ふんっ、鼻を鳴らしながら先を急ぐ、この遺跡は思った以上に入り組んでいて広大だ、こいつの案内が無いと少々厄介だったな、トテトテトテ、俺の横に並んで黙って歩く微睡壬、妙に鼻息が荒くて顔が赤い、小さな鼻がピクピクと動くのがやはり小動物のようだ。


しかしこいつの服装は特殊だよな、カッパクラウサと呼ばれる丈が異様に長く黒いマントに似ている衣服は学者や学生が好んで着用するモノだ、学校行った事無いけど知識では知ってる、それもまた金春色のモノで青い、ケツも青そうだしなぁ、頭には同じ色の正方形の角帽。


板の中央上部にの部位から吊るされた房を垂らした平面の正方形帽子は何だが本当に学者見たいでカッコいいぜ、もしかしてこいつって頭良いのかな?ササのように頭が良過ぎてぶっ壊れたようにこいつもまた同様の存在なのかも、ゴーレムを生成出来るんだしな。


「お前って、頭良いの?」


「ふへ?!じ、自分では悪い方だと思いますが」


「第5の次元ってあると思う?」


「あ、第5の次元は3次元空間の各点に小さく丸く納まっているので認識は出来ませんがあるはずです」


うん、頭良いぜ、ササや影不意ちゃんと同様にこの幼女は優秀だ、それなのに街で差別された過去から自分の全てを卑下する傾向にある、どうしてそんな知識を持っているのか問い掛けると独学で勉強したらしい、成程、独学で勉強しても素体が良いとこうなるのかっ。


別に羨ましく無いけどあの狭苦しい村で少しは勉強しようとしてすぐに諦めた俺からすると羨ましい資質だぜ、いやいや、これはこいつの努力の結晶だろう?羨ましがって本質を見失うのは俺の悪い癖だ、だから一部にしたく無い一部を食べてしまう、そうだよな?


「おっ、いるな、確かに待ち伏せてやがる」


妖精の能力で知覚範囲を広げる、殺気を放つ人間が一人、攻撃的な思念を感じて苦笑する、殺気も隠せない奴が俺の相手だと?ゾクゾクゾク、背筋が震える、それは破壊欲であり支配欲だ、自分に敵意を向ける相手を蹂躙して破壊する、生物の本質とも言える快楽。


「な、何がいるんですかァ、あわわ」


「お前が言ってた通りに待ち伏せだよ、ふふ、雇った傭兵かぁ?それともお前を虐める一族の誰かか?」


「こ、この気配、れ、れくす、レクスだと思います、ボクのお父さんが彼等に言われて開発した自立型のゴーレム、ぼ、ボクのお父さんが死に際に最終調整した究極のゴーレム」


「ふーん、父親の作品なのに顔に嫌悪感が出てるぞ」


「ぼ、ボクを、ボクを人質に病のお父さんを無理矢理働かせて………ボク達よりもボク達に開発させたゴーレムの方が信用が出来るって……それで」


「ふーん、嫌いなんだ、そのゴーレム」


「お、お父さんは、あんな化け物生み出したく無かったって悔やんでいたからっ、ぼ、ボクがいなかったら」


「言うな、しかし親の遺産はどんなものでも遺産だ、ぶち壊して破片を形見にしよう、だとしたらこの殺意の主はゴーレムでは無くその主だな、人形に殺意は無ぇ」


「ち、長老、あの街の最高権力者……シスターを崇拝するあの人はレクスの力で皆を支配しているから」


そうかそうか、状況がわかればそれで良い、お前がどうしてそんな悲しい顔をする必要がある?お前を虐める奴はお前の大好きなシスターが全員殺してやるからな。


アクに出来なかった事をお前にはしてやりたい。


「大丈夫、お前のお父さんが安心して眠れるように、俺がそいつを壊してやる」


嗤う、笑う、嘲る、邪悪な笑みのはずなのに。


「ぁ、き、れい、天使さま」


呆けたように正反対の言葉を吐き出すこいつが印象的だった。

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