第147話・『君の面影を見て涙して涙』

「つまりお前はシスターの血を吸いたい同盟の裏切り者で、先祖代々ここでシスターの死体の管理をして来たと?」


「し、死体って言い方なんだかぁ、そ、そぉです、忠誠心はありますから」


「ワンコか」


「ニャンコです」


「猫に忠誠心は無いだろ、ったく、お前達一族の異様なシスター崇拝の狂信だけは信用されていると?」


「は、はいぃい、そ、そんな一族なんです、ボクの一族はシスター直々に血を分け与えられてゴーレム使いの職業を得ました」


「シスターの血を飲んで先祖代々職業が固定されるだと?良い情報だな」


魔法使いを全滅させて先を急ぐ、こいつの名前は微睡壬(まどろみ)って名前らしい、あの街に住んでた奴らと先祖を同じにするが途中で分かれてしまったんだとさ、シスターの血を直々に与えられた事で一族の嫉妬と憎しみで街の外に追い出されたとか。


そしてそこでシスターの亡骸を管理する職を与えられているらしい……そうかそうか、それであの転移魔法か?シスターの亡骸は魔法によって出来た氷塊の中に眠らせているとか、失敗作のシスター………何とそいつには翼があるらしいぜ、キメラかっ!そこが失敗した部分か?


何だか笑ってしまう、シスターって人間だと思っていたがやはり根本からして違うのだろうか?この先にある遺跡の底で眠っているらしいが状況は俺の予想を軽々と凌駕している、翼、思えば炎水のようにエルフのシスターだって遺伝子操作で生み出せるのだ、おかしい事では無い?


しかし人間もエルフも同じ人類だからまだ納得出来るが翼ってもう鳥類じゃん……もしかして俺は根本的な思い違いをしているのでは無いか?鳥類とかそんな生易しい話では無いのか、て、天使?本当にいるとしたらそれがシスターと何か関係があるのだろうか??天使がシスターの遺伝子の元になっているとかな。


まさかな。


「もう一度聞くけどよぉ」


「し、シスター、頬にまだ血がっ!お世話をしてもよろしいですかぁ?」


「いいけど」


「えへへ、うへへ」


「何が嬉しいんだよ、まったく、調子狂うぜ」


「だ、だって、シスターのお世話をするのがボクの夢でしたからっー!あっ、生理ですかぁ!」


「………………黙って拭け」


「えいえい」


「……………黙らねぇ」


微睡壬は美しい少女だ、街の人間に疎外されて差別されてこんな場所に飛ばされても文句の一つも言わないで生活している……それは俺の故郷のあの村を思い出させる、だからだろうか、こいつに対しては支配欲も破壊欲も無い、好きにやらせてしまう。


俺の中の一部達がさっさと取り込めと声高に叫ぶが無視をする、アク、どうしてだろう、このガキを取り込む事に激しい抵抗感がある、ゴーレム使いの能力は是非とも欲しいしこいつ自身も美しい、美しい存在は全て俺にしないと駄目だろ?そうだよな?


「御顔が綺麗になりましたぁ」


「あ、あんがと」


「本当に綺麗な御顔ですぅ、あ、ありがたや、ありがたや」


「祈るな、何も出ないぞ」


「お言葉か聞けましたぁ」


何だこいつ、どれだけ突き放しても笑顔で近付いて来る、俺の本性を知ら無いにしろ頭がおかしいんじゃねぇのか?だけどこいつの前で魔法使い達を殺したよな??それに対して驚いた様子も悲しむ様子も無かった。


自分に敵意を向ける相手には容赦が無い、それが他人の助けであっても殺して欲しいと素直に口に出来るのだ、死生観が中々にしっかりしている、精神的に強い女なのだろうと思う、両親は既にいないらしい、そりゃ強くならないとやってたれんわな。


「お前、何だか逞しいな」


「う、うへへ」


目を細めて照れる、ガキがガキっぽい仕草をしていると妙に安心する、まだ10歳ぐらいだろうに俺の世話をしてこうやってシスターの亡骸の居場所まで案内してくれている、俺がシスターを奪うぞって伝えたらニッコリと笑いやがった。


『やっとシスターにもお仲間のお迎えが来たんですね』と、年相応では無い母性に溢れた笑顔に毒気が抜かれた、シスターを奪われた事がバレたらあの街の住民は彼女をどうするのだろうか?殺すだろう、そりゃ、頭おかしいんだから。


じゃあこいつも連れてくか、グロリアに飼って良いって上目遣いで強請るとするか。


「あ、あの、シスター・キョウ」


「あん?」


「手を繋いでもよろしいでしょうか、これもまた夢でしたのでっ!」


笑顔が弾けていて見るに堪えない、あまりに純朴で純粋で無垢過ぎる笑顔は俺の胸を激しく掻き乱す、アク、アクっ、アク。


「アク」


「へ」


「あ、ダメだ、俺と手を繋いで良いのはグロリアと一部だけだぜ」


「いちぶ……だったらボクもそのいちぶになりますっ!」


「ッ」


どうしてだろう、それは絶対にしたくない、絶対にしねぇ、しては駄目なんだ。


頭を小突いて足早に先を急ぐ、しかしどうしてだろう、涙が――――――――――どうしてだろう。

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