第146話・『血染めの天使は鶏ですな』

思えばまともな魔法使いと戦った記憶は無い、魔王軍の元幹部にしろ魔法では無く魔力と属性による純粋な攻撃だった、魔法とは人間が魔力を事細かく操作する為に開発された系統に過ぎない。


魔法使いって当たり職だよな、路頭に迷う心配も無いし様々な職業の代わりが出来る、グロリアも魔法は使えるが純粋な魔法使いってわけでは無いしな、荒野を駆ける、目標が遠目に視界に入る、瞬間にスイッチを切り替える。


例のゴーレム使いに向かって大きな火球が放たれる、熱気は凄まじくこの距離からでも肌に汗が噴き出る、使徒と魔王軍の幹部の細胞を全身に漲らせて飛翔する、地面を蹴ると痩せた大地が粉々に砕けて悲鳴を上げる、ハハッ、愉快。


瞬間、我が身は一瞬で火球の前に降り立つ、髪の毛の先端が焼けて焦げ臭い、舌打ちをしながら使徒の腕で火球を弾く、四散、分解された魔力を深呼吸すると同時に体内に入れる、中々に上等な魔力だ、しかしやっぱり食うなら生き物だな。


「けぷ」


「し、シスターだぁ」


「けぷ」


「げ、ゲップするんだ」


「けぷ、けぷ、おう、魔力食ったからなぁ」


ぺたん、尻餅をするには最適のケツだなお前のケツ、プニプニしていて柔らかそうだ、フードを被った魔法使いと思われる奴らが5人か?ゴーレム使いを庇うように立ちながら頭を掻く、いやぁ、しかし困った、日に何人も殺したくは無いぜ。


敵側は動揺している、そりゃ、血を飲みたい相手が目の前にいきなり登場して必殺の魔法を食べてしまったら驚きもするだろう、俺はシスターの亜種だからな?勘弁してくれよ、しかし見渡しの良い場所だ、集団で敵を始末するならもっと隠れられる場所でしろよ。


説教したいが説教する前に殺したいぜ、そうだ、殺した後に説教しようと逆転の発想、目標を俺に変更したのか様々な属性の攻撃が一斉に飛来する、それを無色器官で弾きながら欠伸を噛み殺す、魔法使いってもっと凄いと思っていたけどこんなもんか、しょぼい。


「あ、ありがたや、ありがたや、あわわ」


「オイオイ、祈るなよ、戦っている途中だぜ、見てろ、あの魔法使いたちをぶち殺してやる」


「な、なんまいだぶー」


「まだだぜ!?はぁ、お前の元仲間か?殺すのと殺さないで無力化するのどっちが良い?」


アク?への想いが破壊衝動を増幅させるがこいつを見ているとこいつの言葉に従うのが一番のような気がする、記憶は無い、しかしアクとこいつは似ている?直感にも似た閃き、しかし確信は無いが無視出来る類のものでは無い、俺はこいつに委ねる事にする。


しかしこの場所はまだマシかな?無色器官を展開させたまま地面に触れる、黒土、少しだけしっとりとした通常肥沃な深い黒色の土壌は畑にするのに適している、このような種類の土は小麦の栽培地として適している場合が多い、後でこいつにアドバイスしてやるか。


植物が枯れ果てる事で構成される腐食層が雨の少ない地域であるステップ気候の庇護を受けて厚く蓄積する事で黒土は完成する、また降水がより激減すると乾燥して植物の生育が邪魔されて腐食層と窒素分が減る事で栗色土に成り果ててしまう。


「良い土だぜ」


「しすたー、シスターぁぁあああああ、後ろォ、後ろから何だか凄い魔法が飛んで来てますけど」


「それより土だ」


「土より魔法ですよぉぉおおおお!?し、死にたくないよォ」


「この土だったら死体を埋葬したらすぐに分解してくれるから安心しろ」


「安心出来る要素が無いよぉおおお、このシスター可愛いだけでポンコツだよぉおおお」


「何だお前、ぶん殴るぞ」


「ひぃいいいいいい」


「言え、どっちが良い、お前の言葉に素直に従ってやる」


使徒に対して人間の出来る事なんて無い、俺を拘束する事も傷付ける事も出来ずに無駄に魔力を行使している、しかし年齢も性別もバラバラなのに統一された意思を感じる、何者かに操られているのか?しかし魔力を扱う事に長けた魔法使いを魔法で縛る事が出来るのだろうか?


そしてここだけ優れた土ってのも納得出来ないな、もしかして他の場所が痩せていた理由は過放牧や過耕作によるものだろうか?


「決めたか?」


「こ、殺して下さいぃ、シスターを匿った事も全てバレてしまいました、殺さないと、殺される、い、何時か殺される」


「そうか、お前、良い女だな」


首が一斉に飛ぶ、打ち上げ花火のように吹き飛ぶ人間の頭部が孤を描きながら赤い雨を振り撒く、その中で両手を広げて血を浴びる、唖然と俺を見詰める少女の瞳には畏怖も嫌悪も無い、こいつは珍しいタイプだ、少しだけ狼狽える。


ザァアアアアアア、血は豊潤な大地をより満たしてくれる、そして俺の破壊欲を十分に満たしてくれる、見上げるゴーレム使いを見下す、神と使徒のような関係性だなと嘲笑う、光り輝くように明るい緑みの鮮やかな青色の視線が俺を見ている。


金春色(こんぱるいろ)の瞳は何処までも済んでいて邪気が一つも無い、そして知性もあまり無いように思える、な、何なんだこいつ、髪の色も同じ色彩をしており全てが鮮やかな青色で構成された特殊な少女だ、顔の造りは柔らかで嫌味の無い美少女だ。


少しトロンとした瞳が何故か欠伸を促す、こいつを見ていると何だか眠くなるし安らぐ、艶のあるサラサラとした髪は肩より少しだけ長く伸ばしている、前髪を眉の上できっちりと切り揃えているし両側の髪も同様だ、清潔感があって清廉な女の子だ。


カッパクラウサと呼ばれる丈が異様に長く黒いマントに似ている衣服は学者や学生が好んで着用するモノだ、学校行った事ねーし初めて見る、それもまた自分と同じ金春色(こんぱるいろ)のモノで青い、ケツも青そうだしなぁ、頭には同じ色の正方形の角帽。


板の中央上部にの部位から吊るされた房を垂らした平面の正方形帽子は何だが本当に学者見たいでカッコいい。


「血だぁ、わはは、あちぃ」


「し、シスター、き、きれい、天使さまだぁ」


「んー?」


「お、おなじ、氷の中で眠るシスターと同じ、は、翼が無いだけでやっぱりシスターは神様が生み出した天使、ああ、う、うつくしいよぉ」


「つ、翼?」


え、失敗作のシスターって翼があるの?どこをどうしたらそんな失敗するの?一瞬で頭が真っ白になる俺、ここに捨てられたシスターって一体何者なんだよ。


「こ、こけこっこ」


「ああああ、天使様だよぉ」


鶏になって誤魔化したが結局は天使扱いされました。

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