閑話121・『三時のおやつはエルフ』

あざとい、それでいて究極的に可愛い、鼻を押さえながら深呼吸する、すーはーすーはー、ダメだ、アタシはまだ混乱の極みの中にある。


この可愛さを表現する言葉が見つから無い、小悪魔過ぎて眩暈がする、キョウの言葉は容易くアタシの胸を貫く、そう、容易くだ、自らがそう望んでいる。


無垢なシロウサギはキョトンとした顔でこちらを見詰めている、あの頃と何一つ変わら無い、姿がどれだけ変化しようと変わるはずが無い、アタシはどの時代でも彼女に完敗している。


それを自ら望んでいる、視線を逸らして意識を別の方向へと傾ける、そうしないとこの場で気絶してしまいそうだ、す、好きだと言ってくれた、な、何世紀ぶりだろうか?好き、好きって好きの事よね?


「おーい、ユデダコか、ユデダコなのか」


「す、すき、すき、こ、こっちだって、もっと、すきよ」


「おーい、ユデロリ、ユデエルフ」


「しゅき」


「恋してんのかエルフゴルァ!聞け、聞け!」


「しゅきしゅき」


「二度言うな、効果音みたいだぜ、まったく」


駄目だ、ポンコツが伝染してアタシもポンコツになってしまっている、好き、好きって好きだよね?アタシの中の様々な人格が叫ぶ、どいつもこいつもうるさい、言われたのはアタシだ、このアタシだ!う、羨ましいだろうがっ、ご、ごめん。


喜びで頭がおかしくなっている、その言葉が脳裏に何度も反響して全身から力を奪う、足が砕けてしまう、腰も砕けてしまう、この髪の色合いそのままに老婆に成り果ててしまう、好き、勇魔には何度も呟いたであろうキョウの言葉、しかしアタシには稀だった。


本人曰く恥ずかしいからと言っていたがそれでも嫉妬した、あの出来損ないの弟は姉の愛情を全て独り占めしていたのだ、アタシにはそれが憎くて羨ましくて仕方無かった、しかしその時はまだ無自覚のソレだった、キョウが死んだ事を知ったあの日に無自覚は自覚へと変化した。


「お前は一体何なんだよ、俺の一部か?」


「しゅ、しゅきです」


「誰を?」


「き、きょう」


「お前が?」


「は、はい、そーです」


「いや、初対面で告白されても意味がわからん」


「そ、そっちだってぇ、そっちだってぇ、すきって、言ったぁ」


「あ、それもそうだな」


頭を優しく撫でられる、細くて長い指だと思う、それなのに骨ばって無くて柔らかくてきめ細かい肌の感触が最高だ、キョウの一部達とアタシの一部達が注目する真ん中でアタシは何をしているのだろうか?


見上げる、昔は、そうだ、あの路地裏にいた頃は同じ身長だったのに今ではこの差だ、アタシの肉体は10歳程度に固定されているから仕方が無いと言えば仕方が無い、そしてここまで心が乱されるのも仕方が無い。


アタシの一部達の誰もが動揺している、ここまで弱々しい姿を見せるのは初めてだ、そしてキョウの一部達は冷静に今の状況を観察している、やはりエルフライダーの能力の行使はキョウの方が遥かに上手だ。


「だからお前は誰だと」


「あ、アタシは――――」


「んー………ロリのエルフか、間食で食ったかな」


「か、間食」


「三時のおやつだろ」


「お、おやつ」


「違うのか?間食で食べた三時のおやつだろ、お前」


ジ―っ、頬を赤くして興奮した様子でキョウが問い掛けて来る、それは自分の言葉が正解なのかどうか問い掛ける子供のソレだ、なんて無垢な視線だろう、産まれたての赤子すらこのような表情は出来ない。


正解か?正解か?尻尾があれば激しく左右に揺れているだろう、その愛らしい表情に自制心が容易く破壊されてしまう、言ってはダメな言葉を吐き出してしまいそうになる、いや、自尊心すらも破壊されて一人のエルフに戻ってしまう。


キョウの事を否定出来ない、この身が多くの一部を統べる王なのだとしてもその愛らしさに傅いてしまう。


「そ、そぉよ、か、間食で三時のおやつのキクタですぅ」


「うわぁ、当たったぜ!」


容易く折れる信念。

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