閑話120・『萌エルフ』
幸せな夢を見ていたような気がする、何だか薄暗い路地裏だったが何故だかとても幸せな場所のように思えた、ベッドから起き上がる。
ん、ベッド?違和感に首を傾げる、どうして俺はベッドの上で寝ているんだろう?ここは精神世界なのにどうして?キョウを探すが何処にもいない。
質素な部屋に簡易な造り、この世界では何処にでもある粗末な住宅だ、しかし俺には慣れ親しんだモノで逆に落ち着くぜ、ふぁー、伸びをする、何だかとても良い気持ちだ。
ジリッ、ジリリリっ、火花が散る、瞼の裏で火花が散るような錯覚、そして幻聴、な、何だろうか、変な病気で無ければ良いけど、ふとそこで気付く、俺以外の誰かの気配がする。
「だあれ?」
「ひ、ま、待って、見ないで」
幼い声は何故か怯えている、どうして怯える必要があるのだろうか?ゆっくりと立ち上がり部屋を出る、突き抜けるような青が印象的な空を見詰めて今日もこの世界は平和だなと苦笑する。
声の主はそこにいた、見た事の無い顔だ、誰だったっけ?まったく思い出せないって事は初対面だよな、しかしここは俺の精神世界で俺とキョウしか立ち入れないはず、一部も認めれば入れるかな?
灰色狐は呼んだ事あるよなぁ、しかしここまで怯える一部なんて覚えが無いぜ、入道雲を見詰めながら考える、雲ってモコモコして美味しそうだな、あれが全部食料だったら空に住んでいる生き物は幸せだろうなぁ。
「お前、誰だっ!可愛いなっ!」
「くっ、ちょっと、キョウ!聞いているんでしょ!アタシをここから出しなさい!アタシの一部を具現化させた事は謝るっ!」
「キョウは俺だぜっ」
「お、女の子の方のっ!」
「俺にもオッパイあるぜっ!いや、おチチだぜ!」
「ひぃ、ち、近付かないで、近付いたら駄目っ!」
「………オッパイが、怖いのか?そうなのかロリッ娘」
「ひぃい、意思の疎通が出来ないポンコツな所も昔と同じだぁ」
何だか凄く侮辱されている気がするが俺は大人なので怒るのはやめよう、ガタガタガタ、小刻みに震えていて瞬きが多い、どうしてここまで混乱しているのかわからないがそもそもお前は誰なんだよと問い掛ける。
吐き出している言葉は何処かギャグ調なのに身体的な反応はやや危ういモノを感じる、両手を上げて敵意が無い事を表現する、むぅ、これでは伝わり難いか?母親直伝のウサギさんモードをするかな?頭に両手を置いてぴょこぴょこ。
これこそ敵意の無い事を伝えるウサギさんモード、両手を上げるのよりわかりやすいだろう?ふふふふふふふ、草食動物の無垢さを表現したこの動きにロリッ娘はどう出る?同じようにウサギさんモードをしたらなんか良い、何か萌える。
「ぁ、ぁぁ」
「どうだ、これがウサギさんだ、ちなみに故郷では御馳走扱いだった食卓の王者」
「ぁぁぁ」
「え、何か言えや」
「ぁぁぁぁ、可愛いのわかってやってるぅぅ」
「え」
「ぁぁぁ、ぁぁぁぁ、か」
「か?」
「かわいいよぉ」
「ろ、ロリに可愛いって言われても嬉しく無いぜ」
しかしこいつ異様に可愛いな、俺の美少女軍団である一部と比較しても遜色無い、初雪を思わせる白い肌が太陽の光を受けて眩く光る、シスターの肌が白磁の陶器を思わせる代物だとしたらこちらは自然物である初雪のような儚さを思わせる肌だ。
太陽の日差しの下で光る白色は何処までも清らかで聖域のような神聖さを含んでいる、何故かその肌の色に懐かしさを覚えてしまう、うーん、しかし白いな、白いのに健康的な白さだ、俺やグロリアのガラスのような肌がどれだけ異質なのかわかるぜ。
睫毛はくるんと上を向いていて眉毛も綺麗に整っている、髪は少し癖っ毛でここまで完璧を極めた美貌に一点の隙を与えている、それがアクセントとなって愛嬌もきちんと備えている、真っ白い髪は老婆のそれとは違い若さを含んだ美しさを象徴している。
モコモコしたソレは子羊を連想させる癖ッ毛だ、タンポポの種も彷彿とさせる、服装は質素で粗末なものだが逆にこの幼女の美しさを引き出している、そしてエルフ特有の尖った耳。
「うひゃー、飯だー」
「うぁ、ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「手足切断して美味しい脳味噌と子宮は後で食う」
「可愛いからって調子の乗るなっ!」
「イテェ、今の何処に可愛い要素があった?!驚きだぜっ!」
近付いたら太腿を蹴られた、幼女キックは岩をも砕く。
「夢の中で理想の飯が出て来たって事か?!ふふ、俺って食いしん坊さん」
「恋人同士で嫌な特徴が共通しているわね」
「グロリアの事か?」
「そう、グロいロリの事よ、ぷぷ、何よそのツラァ、何で嬉しそうなのよ?」
「ん、いや、お前が誰だか知ら無いけどよォ」
「んー?」
「俺、お前好きだな、何か」
好きだな、こいつ。
不思議だ。
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