第145話・『かつて愛した少女に狂わされて貴様らを殺す』

懐かしい人の夢を見ていたようだが忘れてしまった、伸びをしながら起き上がる、状況は把握している。


あの時のゴーレム使いが俺を助けてくれた、感謝をしつつ周囲を見回す、食べるのは止めとくか?恩義を感じる、問題は食欲をコントロール出来るかどうかだ。


感じたことの無い衝動、あれをコントロールする術があるのか?使徒に何か細工をしていたのだろうか?いやいや、あれはもっと奥の胸の内から発せられたモノのように思える。


彼女は留守にしているようだな、女性の家を探索するのはマナー違反だろう、取り敢えず家の外に出る、整然としていて生活臭の無い家だ、まるでここに閉じ込められているような違和感。


あの娘の家じゃないのか?ここに強制的に閉じ込められている?勝手な想像に苦笑する、あの娘から僅かにシスターの気配がしたが欠陥品のシスターと何か関係があるのだろうか?


「ふぁ、良く寝た」


『敵地で快眠とは恐ろしい子だよォ』


「あのゴーレム使い、良い奴だな、食べるの止めるか」


『へぇ、キョウにしては珍しいね、どーした、どーした』


「食う食わないを決めるのも勝手だろうが、そんな事を思った」


『まあねェ、選択出来るって事は成長だからねェ、キョウも少しは人間っぽくなったねェ、んふふ、面白い』


一晩中寝たのか?青空を見詰めながら溜息、周囲を見回す、何も無い荒野にこの小屋だけがひっそりと佇んでいる、草木のまったくない環境は予想外だった、あの娘はどうやって生活しているんだろ?


空間転移であの街に戻っている?どうなんだろうか、しかしあの娘はあの街と関わりがあるはずなのに俺を殺さなかった、介抱までしてバカじゃねぇの?朝飯まで机の上に用意して頭が腐ってるんじゃねぇか?


しかし嫌いでは無い、お人好しは嫌いでは無い、こうやって考えると俺自身も含めて一部の皆は冷徹だな、自分の野望や目的の為に他者を平気で害する連中ばかり、妖精なんて趣味が人殺しだから笑えないぜ?


「お、この先にシスターのゴーレム使いの気配がする」


『どぉするのぉ?』


「シスターだけ再生させて捕食しよう、あの娘は放置だ放置、食わんっ」


『んふふ、そうやって高らかに宣言するのは良いけどォ、我慢出来なかったらどうするのォ?』


「その時はその時だぜ、ふふ、軽く決めただけで決意って程でも無いからな」


走り出す、しかし何処までも続く荒野だ、先程の遺跡からかなり距離がある?首を傾げながら先を急ぐ、しかし夢の中でとても大切な名前を呟いたような気がする、だけど部下子やアクのようにしっかりと思い出せない。


あの二人よりも昔の記憶?何となくそんな気がするがそもそも部下子やアクと過ごした時期が曖昧でわからない、エルフライダーの能力は記憶の喪失によってより強固になる、暫くすると少しだけ緑が見えるようになる。


それでも食料を得るには心許ない環境だ、、雑草や潅木などが何処までも生い茂る不利用地、食料になりそうなものを自然と探してしまう、朝飯も粗末なものだったが美味しかった、こんな環境で暮らしているのに人に施しを?


頭が痛くなって来た、お人好しは苦手だ、自分がどれだけ矮小な存在かわかってしまう、俺はあの小さな村でこのような気遣いが出来ていたかな?恐らく出来ていなかっただろう、生活に追われてそんな余裕は無かった、お人好しめっ。


『んあ?大変だ、キョウ』


「間抜けな声だな、どうしたよ?」


『あのゴーレム使いの女の子、誰かと戦闘に突入したようだよォ、魔力による干渉が酷い、相手は魔法使いかなァ?』


「どうして戦いになる??あんなお人好しが襲われる理由なんて無いだろうが」


『仲間割れかなァ?そもそもシスターの血肉を欲する街の人間とここに暮らす彼女は同胞でしょう?私達を勝手に匿っているのがバレたとか?』


「予想は意味がねぇな、取り敢えず加勢するぞ」


『んふふ、焦ってる焦ってる、キョウに想われるゴーレム使いなんて死んじゃえば良いのに』


「そうだな、お前を嫉妬させるゴーレム使いは死ねば良い、だけど生きていたら助ける、そんだけだ」


『もぉ、好きだなァ、キョウの冷静で残酷な所♪』


この地域は風が強く風害が酷そうだ、地滑り地帯で土壌が極端に痩せ細っている……ここでは作物もまともに育ちそうに無い、こんな荒野に少女が一人っきりで生活をしている?あの街で暮らせば良いのに、転移魔法があるだろうがっ!


渇いた空気と痩せた大地、気候的に植物群落が成立する事は無い、石灰岩地域や蛇紋岩地域では無いのにここまで痩せている原因は何だ?大地に微かに奇妙な魔力の流れがあるはそれが原因だろうか?しかしこれぐらいの魔力なら大地の地脈にあるものだしな。


俺達を匿って仲間に粛清されているのだとしたら?キョウの言葉がずっと脳裏から消えない、お人好しが馬鹿な真似をして不幸になる、その現実を俺は素直に受け入れられない、それは先程の夢のように俺の過去を激しく激しく奇妙な疼きを持って刺激する。


お人好しのバカが仲間を裏切って殺される―――――――――イタイ、カナシイ、セツナイ。


【悪蛙を一番にして下さい】


懐かしい声が聞こえたような気がする、舌足らずで何処か様子を窺うような繊細そうな声、自分では自信に溢れているつもりだが自信が無いのが相手に伝わるようなそんな声、きっとお人好しなんだろうなぁとわかってしまう、そんなどうしようも無く切ない声。


お人好しが仲間を裏切って殺される、ザザザザザザ、砂嵐が視界を染める、そして殺意が込み上げる。


「殺してやる」


『キョウ?ちょ、この記憶はまだっ』


「アクを虐める奴は俺が殺してやる」


視界が赤く染まる、まるで本来の自分を取り戻したような感覚に俺は歓喜に打ち震えた。

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