第144話・『ゴーレム使いの接待は割といい、アルプスの少女かっ!』

シスターだ、生きているシスターを見るのは初めてだ、もしかしてボクのゴーレムで傷付けてしまった?


何かブツブツと呟きながら気絶したが単に過労のようだ、魔力の流れも正常だがその量が異常だ、もって生まれた才能だろうか?流石はシスターと頷く。


背負って家まで戻るのは意外に簡単だった、な、何だこの軽さ、羽のような軽さだ、それとも単にボクが力持ちなだけ?同じ女性として嫉妬してしまう、ば、バカ、相手はシスターだよ?


ベッドに寝かしつける、熱もあるようなので冷やさないとっ!魔法で氷を生成しながら寝ているシスターを観察する、あの氷の中に封印されている生き神さまと同じ姿をしている、瞳と髪の色が違うぐらい?


スヤスヤスヤ、熱はあるけど寝息は穏やか、しかし凄い美人さんだ、見ていると何故か無駄に緊張してしまうなあ、あの街の住民が心酔するシスター、ボクもその中で育ったけどその血を飲もうとは思わない、こんなに美しい生き物を傷付けたくない。


「へぷし」


「うえぇえ?く、くしゃみしたよォ……し、シスターってくしゃみするんだ、あ、鼻水……童話の中の住民のようにそんな事しないと思ってたよ」


鼻水を拭いてあげながらその美貌に一切の曇りが無い事に驚く、くしゃみしようが鼻水を垂らそうが美少女は美少女で神の傑作は神の傑作なのだ、しかし神様も罪深いなァ、こんなに美しい生き物を創造するだなんて、そりゃ他の生き物は嫉妬するよね?


「ぐろりあぁ」


「?誰の名前だろう?甘えたような口調、お姉さんかな?」


干し草を大量に敷き詰めた上に大きなシ-ツを広げた寝床、普段はボクが寝ているその場所にシスターが寝ている事に強烈な違和感がある、シスターには街のみんなとは別の意味で強烈な憧れがある、は、恥ずかしいけど初恋だ、女の子だけど仕方無い!


氷の中で眠る生き神さまは永遠の美しさで現実に存在している、過去にルークレットから捨てられた可哀想なシスター、あの街の住民やボクの祖先に血を分け与えてくれた女神、その信仰は呪いとなり今でも根付いている、だからあの街にシスターは派遣されない。


だけど数年前に一人のシスターが訪れた、それでまた信仰が狂信化した、しかし放たれた刺客を全て抹殺してシスターは何処かへと消えてしまった、あの城には強力な結界があって誰も足を踏み入れる事は出来ない、外界の業者は足を踏み入れてるがルークレットとの関係が強固過ぎる。


そこに刺客を潜り込ませる事も出来ないまま数年が経過した、そして訪れた二人のシスター、一人は前回のシスターだ、美しく冷酷で笑顔の裏で何を考えているのかわからない、しかし他者を見る瞳の奥は虫ケラを見下す光に満ち満ちている、恐ろしいシスターだ。


「でもこの子は違うよね、何だか優しい顔をしている」


シスターの顔は同じだ、しかし若干の差異はある、この子はあの冷酷なシスターとまったく同じ顔をしている、姉妹なのかな?穏やかな表情で眠る少女は魔性の魅力に満ちている、吸い込まれるように顔を近付ける、長老には話していない、誰にも話していない。


こんなに穏やかに眠る少女の首をナイフで切ろうだなんて思わない、妙に保護欲を刺激する少女だなあ、本来シスターは完璧な存在として世界に生み出されるのにこの子はそんな感じでは無い、気絶する瞬間も思いっきり頭から地面に突っ込んでいて驚いた、だ、大丈夫?


「つんつん」


「ぐろ、りあ、あく」


「あれ、増えた」


「くろかな、ぶかこ」


「―――――――」


「れい」


最後の一人の名前を呟いた時にその笑顔に愕然とする、人はこんなにも美しい笑顔が出来るのだと一種の恐れさえ抱いてしまう、何処までも何処までも優しい表情、れい、それは彼女にとって特別で大切な存在なのだろう、この少女にそこまで愛されるその人に嫉妬してしまう。


だったらこんな危ない土地で一人にさせるんじゃないよと舌打ちをする、ちゃんと護ってあげていないのにこんなにも愛されるだなんて卑怯だ、れい、その人の事が心底気に食わない、ダメだ、シスターに関する事柄になると冷静でいられなくなる、ボクの悪い癖だ。


きっと長老たちはシスターを探しているだろう、あのシスターに手を出せないのは以前にわかったはず、じゃあこの娘を狙う?一族の掟に逆らう事になってもこの子を助けたい、あの冷酷なシスターと彼女は一緒にあの街に来たと聞く、だったら姉妹か仲間なのだろう。


長老や街の者に見つからずにこの子をあの城へと連れて行く事は出来れば良いのだが、ゴーレムを使役してしまえば一発でわかる、困った、実に困った、この土地からあの街に帰る方法はある、しかし帰ってからが問題だ、何時までもこの土地にいたら匿っている事がバレてしまう。


「れい、れい」


「泣いてる?」


「れい」


「羨ましいな、こんなに想われて、女の子を泣かしちゃダメだよ、男の子の名前かなぁ」


「れい」


「―――大好きなんだ」


金糸と銀糸に塗れた美しい髪、月の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀がそれこそ夜空の星のように煌めいている、まるで天の川のようなその髪を手で触って見る、癖ッ毛だ、シスターでも人間っぽい所があるんだなぁと感心してしまう……くるんくるんだ。


豪華絢爛な着飾る必要も無い程に圧倒的に整った容姿、鏡に映った自分の顔と見比べるとコレで同じ性別かと泣きたくなる、いやいやいや、自分のレベルが低いのでは無くシスターの美貌がおかしいのだ、そりゃ、自分達の祖先も狂ってしまうのも納得だ、うんうん。


気絶する前に見た瞳も凄かった、瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、まるで夜空に太陽が輝いているような矛盾を感じる美しさ、創作物のような有り得ない美しさに感動する、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしていて鮮やかだ。


整い過ぎた造形は見る者を圧倒する、しかし彼女はその中に何処か愛嬌があるように思える、僕の勝手な想像?涙が零れている、泣いているのだが穏やかな表情だ、れいって人が夢に出て来ているのかな?この幸せ者めとやはり嫉妬してしまう、頬が赤い、僕の頬も赤くなる。


「れ、レイって人が不幸になりますようになりますようになりますように」


「うぅう」


「こんな可愛いシスターに想われて、う、羨ましい」


「うぅうう、グロリアぁ、おっぱい痛い」


「お、おっぱい」


「イタイイタイ」


「………え、三角関係?」


あながち間違いでは無い。

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