閑話113・『未来予知で死ぬ三人』
冒険者ギルドに足を向ける事は少ない、グロリアに任せているし書類を書くのが好きでは無いので行きたくは無い。
だけど報酬を貰いに足を向ける事もある、るんたった、自分で攻略したクエストの代金は自分で貰いに行かないとなっ、魔王軍の元幹部を倒したってのは信じてもらえなかったがな!
少しだけ悲しい気持ちになる、倒したってのは嘘か、一つになりました?母が増えました?子沢山になりました?そのどれも要領を得ない、仕方が無いので諦めた、グロリアにお使いも頼まれているのでさっさと報酬を受け取ろう。
「この街のギルドも大きいなァ、んー、どんだけ儲けてるんだ」
建物全体を囲む柱廊がとても印象的だ、多くの冒険者が仲間と陽気に会話をしながら足早に歩いている、入り口から中に入るとヴォールト式の天井が視界に入る、どの街のギルドも大層な造りをしているな。
皆の視線が一斉に集まる、髪も瞳も無駄に派手な色彩をしているから仕方が無いかと苦笑する、無駄に頬が赤くなるのを実感しながら緊張したまま歩く、田舎者なので人に注目されるのはあまり好きでは無い。
「可愛いな、シスターってやっぱり美人だよな」
「ギルドに属しているシスターっているんだな、独占状態だと思ってた」
「他のシスターに比べて何だか人間味あるな、どうしてだろう?」
「手を振っちゃえ」
「えー、嫌がられるよ」
可愛い女の子からの声援は嬉しいぜ、しかし話し掛けられる事は無い、無言でその場を去る、シスターの威光は圧倒的である、誰も俺に話し掛けられるような奴はいない、寂しいような悲しいような奇妙な気分だ、別にいいけどなっ!
これでは俺が寂しがり屋のようじゃないか、ふふん、あんた達にはわからないだろうけど俺には一部が沢山いるんだぜ?だから全然寂しく無いぜ?心の中で呟いた台詞のどれもが強がりのように思えてしまって無性に虚しくなる。
「もし」
「うぅ、寂しく無いぜ」
「もしもし」
「え、俺?」
ブツブツと独り言を呟きながら先を急ぐ俺に話し掛ける声、体に緊張が走るがそれは他人の声では無く俺自身の声、ゆっくりと後ろを振り向く、そこには大賢者である影不意ちゃんの姿、片手を上げて『やあ』と軽く挨拶する。
影不意ちゃんの虚空の様に何も映さない瞳が俺を見詰めている………故郷の村に立ち寄った商人が売っていた海緑石のような灰緑色の瞳、目尻に涙が溜まっていて眠そうだ、一部の中でも最初の二人は肉体に取り込んでいない、外で自由にさせている。
だからこんな偶然もあるか、柔らかな広袖のチュニックはこんな場所でも目立つ、真っ白い法服は故郷の村では見た事が無いものだ、肩から裾には幾つかの筋飾りが入っていて中々に立派なものだ、少女を彩るには些か大袈裟な気もする。
「影不意ちゃんっ!うおぉおお、寂しかったぜ」
一部の中でも俺を特に甘やかしてくれる影不意ちゃん、小さくて幼いその体に抱き着く、モゴモゴ、胸の辺りで何かを喋っているが抱き締めて旋毛を嗅ぐ、相変わらずフローラルな良い香り、落ち着く、寂しくて傷付いた心が癒されるぜ?
「ぷは、キョウちゃん、みんな見てるよ?」
「ふふ、俺に話し掛ける勇気が無い奴らは知らないぜ!実はナンパ待ちだったのに残念だったな!」
「………その台詞をササか炎水か灰色狐が聞いたら吐血しそうだよね」
「な、何で?」
「…………キョウちゃんは過保護の身内ぐらい把握しといた方が良いと思うよ」
シスターが幼女に抱き着いている光景は人々にどのように映るのだろうか?寂しかったと何度も囁くと溜息で返される、御髪(おぐし)を手で梳いてやりながら俺は笑う……他の一部なら何かを言ってくれるのだが影不意ちゃんは別段そんな事も無く無表情で佇んでいる。
「目立つから離れようね、一緒に食事でもしようか」
「やだ」
「それはどっちの事かな?」
「離れる方だぜ!」
「………困ったな」
耳に僅かに髪が触れる程度のナチュラルなショートヘアが視界に入る、知的な彼女のイメージにピッタリだ、目線より僅かに上の自然に流した前髪も似合っている、中性的な容姿に中性的な髪型、他のイメージに反してやや太めの眉が意思の強さを感じさせる。
小さな鼻と小さな口は形は良いものの子供のソレを連想させる、抱き締めたまま影不意ちゃんを持ち上げる、お姫様抱っこ、きょとんとした顔で暴れる事もせずに無垢な視線でこちらを見詰める影不意ちゃん。
「よぉし、折角なので名前が出た三人も呼んで一緒に遊ぶか!」
「………この姿を見られたら殺されると思うな、僕」
「影不意ちゃんを殺そうだなんて許さないぜ!誰だ!?」
「…………ササ、炎水、灰色狐かなぁ」
「よぉし!ぶっ殺そう!」
「………好きにして」
三人を呼び出したら確かに影不意ちゃんがぶっ殺されそうになったので使徒の力で返り討ちにしました。
未来を予知出来る影不意ちゃんすげぇ。
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