第141話・『女の子の自分を口説き落とす為に全力だがもう落ちてる』

今まで感じなかった魔力の気配、足を踏み入れた瞬間に別空間へと移動させられる独特の感覚、先程の意味不明な配置はこの為のモノか?


灰色狐の得意魔法だがかなり高度な術だ、普通の人間が扱うにはやや手に余る、だからこそあの配置を利用してこの式を展開させたのかな、フフ、一部の知識が役に立つぜ。


地下に構築された空間に転移させられたのか外界に飛ばされたのかはわからねぇな、前者だと何も無い地下に強制的に自分の望む世界を作り上げた事になるが後者なら面倒だ。


しかし今や使徒の空間転移も自由自在に扱えるし大丈夫だろう、単体でソレを幾らでも行える使徒やべーな、取り込んだ一部の能力に感心しながら足を進める、ふふん、お腹空いたぜ。


「お腹が空いた」


『ダイエットする?キョウ、食べ過ぎだよォ!』


「この体を見ろ、欲しいぜ、贅肉」


『そんな事をしたら怒るからねェ、もぉ、私は女の子なんだから!』


「違うぜ、可愛い女の子だぜ」


『も、もう、仕方無いなァ』


本当の事を言って照れられると困るぜ、空が見えるって事はやはり後者の方か?何処までも広がる夜空は見ていて気持ちが良い、星の位置から今の位置を探る………よし、そんなにあの街から飛ばされていないな。


妖精の感知を広げる、あの地下にいた気配は既に無い、トラップか?それともこっちが正解か?キョウの判断に間違いがあるようには思えない、本当の隠し部屋、本当に隠したいモノ、それを見つけてしまったのか?


だとしたら傭兵さん達はご苦労様だな、戦わないで済むのならそれが一番だ、そもそもあんな怪しい屋敷にこのようなとんでもない仕掛けがある時点だ駄目だろう、何を企んでいる集まりなのか知りたくなる。


シスターの血を飲んでしまった反逆者の末裔、そしてこの大規模な仕掛け、何か裏がありそうだがそんな事よりも失敗作のシスターに会いたい、死んでいてもちゃんとゾンビにして可愛がってあげるからな?はは、死体に優しい俺。


「あの屋敷の金や技術の出所もわかるかな?」


『わかると良いね、こっちに人のような良くわかんないような気配がするねェ、しかも大きい、戦闘になるかも』


「魔物にも思えるが何処か人工的だな、おもしれぇ、殺そう」


『んふふ、面白かったら殺すの?殺すから面白いの?どっちなんだろうねェ』


「お前と一緒だから楽しいんだよ」


『も、もぉ、おバカ』


何て事の無い場所だ、草花が生い茂り満天の星空が広がっている、しかし戦闘の気配はある、ファルシオンは置いて来たし素手で対処するしか無いわなぁ、アレだ、素手で戦うって何か良い、でもファルシオンも愛してるぜ?


最近ファルシオンから妙な気配がするんだよなぁ、誰にも相談していないしそんなに気にするような事では無いような気がする、だけどキョウには伝えとくか?キョウは俺なので知っているけど口で伝えるのって大事だよな。


「最近ファルシオンおかしくね?」


『あー』


「あーって何だよ、俺の相棒だぜ?別に刃こぼれしているわけでも無いし、そもそもファルシオンは刃こぼれする事で鈍器になる過程に色気がある武器だしな」


『キョウは人外の存在と戦い過ぎたからファルシオンも何かしらの変化があるのかもねェ、魔剣になるのかな?』


「え」


『え、じゃないよぉ、色んな魔物と戦ったし魔王軍の元幹部や使徒とも戦ったでしょう?それより前も今の一部達のような人外と戦ったし変化があってもおかしく無いよォ』


「グロリアの勇者の聖剣のように特殊な力を得るのか?」


『そぉだねぇ、魔剣になる過程は色々あるけど今回のは後天的なものだからねェ、魔に属する存在の血を吸う事で魔剣に変化するのは聞いた事があるけどあまり資料は無いねェ』


「最初から魔剣として生み出されたモノの方が資料があるって事か?」


『んふふ、そぉだねぇ、魔王の魔剣とかねェ、今回のような特殊な変化はあまり聞かないね、それだけキョウが人外と戦い続けたって事だよ?』


「田舎を出てから色々あったしな」


『キョウの血を浴びせたら一発で魔剣になるかもねェ』


「あはは、まさかー」


『あはは、ホント―』


マジかよ、化け物になるのは嫌だがグロリアの為なら仕方ねぇわな、そもそもグロリアが化け物のようなものだし大丈夫だろう、月の明かりのお陰で周囲の光景が良く見える、念の為に灰色狐の夜目を使うか。


ここら辺は窯跡(かまあと)のようだな、生い茂った草花のせいでわかり難いが間違い無い、陶磁器を焼く為に用いられていた窯の遺構、そこまで古い遺跡では無さそうだがどうしてこんな場所に飛ばされたんだろ?何か意味があるのか?


これよりもさらに古いモノは古窯跡(こようせき)や窯址とも呼ぶ、過去に使用されて遺棄された窯の跡があちこちにある、その周辺を囲むように陶器の破片やら放置されたままの陶磁器が残されているぜ、売ればお金になるのにどうして?


この遺跡の先に何か気になる気配、しかしその前におかしな気配があるんだよなぁ。


「おっ、来るか」


地面が振動する、地震のような地の底から震えるのでは無く地面の表面が蠢く様な感覚、地割れ、俺は宙に浮いたまま腕を組んで相手を待つ、土塊が人型を形成してゆく様は見ていて面白い、どのような術でこれを生み出しているのか。


ゴーレム、人間が扱える人工魔物の中では強力な代物だ、それがどんどん巨体になってゆく、オイオイ、限度があるだろうに?こいつは今ここで術で誕生している、って事は術者が近くにいるって事だな、こっちで正解だったようだぜ。


「徒手空拳でゴーレムと戦闘か、笑えるぜ」


『んふふ、キョウったら楽しそうだねェ』


「お前と一緒だからな」


『も、もう、もぅ』


牛か!

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