第140話・『キョウちゃんはキョウより賢い、んふふ』

都合良くシスターの遺品などあるものか、自分自身でも僅かにそう思うが失敗作のシスターを手に入れたい、そうすればシスターとは何かわかる気がする。


柘榴のように弾けた頭部から情報を読み取る、脳漿の感触は不快では無い、指で伸ばしようにして深く読み取る、下っ端だな、しかしこの身体能力、シスターの加護を少しは得ている?


情報を読み取るとそれが間違いだとわかる、これは鍛錬による純粋なモノだ、シスターの血を飲んだ末裔である事はまったく関係無い、特別な遺伝子情報も無いし餌にもなりそうに無い。


何も聞かされていないか、だけど仲間達のアジトはわかる、ここを襲って情報を聞き出すとするか、しかし精神を覗き見るとその屈折具合に笑ってしまう、シスターを神からの恩恵だと信じている。


神から頂いた食料?神から頂いた幸福?神から頂いた血肉?だから襲って食べようとしたのか、餌になりそうに無いが殺させたのは俺だ、足元からじゅるじゅると死体を吸収する、殺したら食う、俺のルール。


かつての自分を取り戻したようで笑ってしまう、炎水は既に取り込んだ、今晩にでも虐めてやろう、耳を削いで鼻を削って遊んでも良い、残虐性の増加はエルフライダーの能力に起因する、性的な衝動である。


「けっ、もっと来いや」


屋根の上に飛ぶ、既に人間としての範疇を超えているような気がするが仕方無い、満点の星空の下で風を切って移動するのは心地よい、グロリア城は魔法で姿を秘匿しているのでここからは見えない。


追撃する気は無いか?あの凄惨な光景を見たらそりゃそうか、手を出したのはそっちで手を出されたのはそっち、乙女を弄ぼうとしたんだ、何をされても文句は言えないよな?自分を殺そうとする相手がいる幸せ。


だって問答無用で殺せるんだもん。


「キョウ、炎水の細胞が火照ってヤバい、疼く」


『あれだけ誘惑してそりゃ無いよォ、ちゃんと今晩は可愛がってあげな』


「うへぇ、グロリアの城でか?い、嫌だな、何か嫌だ」


『監視されているようで?んふふ、繊細なんだねキョウ、しかし遥か過去に死んだシスターを食べようだなんてどうしちゃったの?』


「失敗作で外に出されたシスターって気になる、シスターの製造状況を知る良い存在だ、俺の一部に欲しい」


『正規のシスターが二人もいるのにそんなの欲しくなる?んー、キョウは変わり者だねェ、シスターは強くて優秀だから幾らでも欲しいけどォ』


「だろ、協力しろ、シスターの血を求めるバカな民族に雇われたバカな傭兵がいるようだぜ」


『いいよ、キョウがやりたいなら何だって手伝うけどねェ、こっちの移動速度に敵の皆さんも驚いてるよねェ』


「高位の魔物とシスターと使徒で出来ているからな、この体」


『んふふ、エルフの使徒の細胞が良い具合だね、これだとエルフ以外の存在もまだ取り込める』


「当たり前だ、お腹が減ってるんだぜ?」


飛翔する、弾丸のように目的地に一直線、その速度に街の中で蠢く人々は俺の事を視認する事も出来ない、街外れにある不思議な屋敷、一目でその違和感に首を傾げる、グロリア城とは丁度逆の方向にある。


アルルコット族の族長の屋敷?グロリア城の敷地の三分の一程度かな?それでも十分に広い、塀を飛び越えて屋敷の敷地内に侵入する、両手を上に掲げてゆっくりと伸びをする、あはぁ、怪しい生き物がやって来たよー、ふふ、怪しくて可愛い生き物だぞー。


建物は主にセコイア材の骨組みで構成されているようだ、珍しいソレに目を大きく見開く、セコイア属の常緑針葉樹、セコイア属はセコイアだけの1属1種であるせいか妙に興味がそそられる、世界でも有数の大高木として有名だ。


樹齢は400年から1300年とその幅は広い、2200年のものが最高齢として知られている、こいつも育てた事は無い、恐ろしい程に分厚い樹皮や心材の色彩からレッドウッドとも呼ばれて親しまれている、しかし建物も透過して見れるとは使徒すげぇ!


体を透過させて壁の中に手を突っ込む、触れた事の無い木材は触るのが楽しみ、確かに重厚感のある木材だ、手触りを確認してクスクスと笑う、色んな知識や経験を得てそれを実際に実戦するのは物凄く楽しい、あの狭い田舎では出来なかった事だぜ。


この分厚い樹皮と艶やかな木質部はタンニンを過剰に含み、病原菌や白蟻の内部への侵入を阻むのだ、この分厚い樹皮は他の樹木には無いもので最大の特徴だ、一緒の場所に自生している広葉樹が炭化するような山火事の際にも木の内部を護る役割がある。


セコイアの純林が出来る過程は何度も山火事が起こる事で生まれると考えられている、他の樹木が燃え尽きてしまってもセコイアだけは生き残るのだ。


「グロリアの城も良かったけどこっちは素材が良いな、良い仕事だ、なるべく傷付かないようにしよう」


『男の子って建物とか好きだよねェ、よくわかんないや』


「そうか?俺達の実家は何も無かったから自分達で建てたり作ったりするしか無かったろ?楽しかったぜ」


『私はめんどー、キョウがしてよねェ』


「いいぜ、その代わりあっちの世界でおチチ触らせてくれ」


『いいぜ』


「口調を真似るな」


建物の基礎が少し浮動的な造りであるがコレは狙っているのか設計ミスなのかどっちだろう?地震の多い地域ではこのような造りにして倒壊を防ぐらしいがここら辺は地震は多く無いしな、そもそも避暑地で地震が多いって有り得ないしな!


中で暴れても少々の振動なら耐えそうだな、警備の人間が何人かいるようだが透過して屋敷の中へとさっさと侵入する、自分から殺されに来るならまだしも目的はそこでは無いし無駄に殺す必要はねぇわな、相手に居場所を吐かせる場合は容赦無しで蹂躙するぜ?


この屋敷は不思議な構造をしている、外からではわからなかったがその巨大さの割にあまりに無造作な造りだ、設計の基本計画が無いように思える、増築出来るだけ増築しているのか?まるで肥大化するするように広がっている印象だ、何なんだコレ?気持ち悪い。


視界に入った扉を片っ端から開けて見る、何も無い部屋、すぐに壁、意図がわからない扉が幾つもあって頭を抱える、な、何だ?泥棒を防ぐ為とか?いやいや、屋敷に侵入されて後からの事を考えるってどんだけ馬鹿だよ、意味がわからない、意図もわからん。


「な、何だコレ」


『んー、何だろうねェ、不規則に空間を構成させているのは魔術的な意図があるのかもねェ、効果はわかんないや』


「そうなのか、物の配置や空間でそんな事が出来るのか?魔力も使わないでさ」


『出来るよォ、東の大陸の考え方を取り入れてるようだねェ、あまり意識しないで行動しよう、そっちの方が魔術的な効果は薄まるはずだよォ』


「頼りになるぜ、キョウは物知りだな」


『んふふ、もっと褒めたらもっと嬉しい、もっとちょーだい』


「何を?」


『愛情、あっ、そっちはさっき通ったよォ』


「き、記憶力も俺よりいいな」


『キョウは直感的に行動するから心配なんだよねェ、頼れる時は私を頼った方が良いよォ、怪我をさせたくないしねェ』


「う、うん」


『そしてキョウの素直な所はそれを補って余りある美点だよ?んふふ』


隠し部屋や秘密通路、感情のままにひたすら増築したような世界に眩暈がする……しかしそんな俺をサポートするキョウの誘導は見事なものだ、地下から多くの気配がする、そっちにシスターの遺品があるかな?まだシスターの気配は掴めない。


死んだ存在の気配を感知する事は不可能なのか?いやいや、炎水を強制的に蘇らせたように出来るはずだぜ、派手な色彩のシャンデリアや寄木細工で構成された床や装飾が目立つ、配色や素材の多様さが目立つ、普通の人間の住処では無い、精神に異常がある?


簡易蹴上げ板の細工は実に見事でコレで一階から二階に移動出来るようだ、重石の圧を利用してゆっくりと木の板が浮上する、お金持ちは凄いなと素直に感心する、階段すら面倒になるぐらいの人生って一体何なのだろうか、派手な配色からそれ程に年寄りとも思えないしな。


居間には最新の蒸気暖房や空気強制暖房がある、蒸気を利用したソレは魔力を必要としない物で誰でも扱える、近代的とも言える室内トイレにも換気の機能があるようで外部の風を部屋に招き入れる事で空気を循環させる仕組みだ、どれもこれも素晴らしい仕掛けだ。


配管系統は剥き出しでまだ外側の塗りが終わっていないようだ、押しボタン式で稼働するガス灯が通路のあちこちに見受けられる、風呂場は室内配管からお湯が出るようになっている、どれもこれも魔力を必要としない高価な代物、魔力を持っていないようだな。


「スゴイ屋敷、キョウはここに住みたいか?女の子ってこんなの好きだろ」


『キョウの傍より良い場所なんて無いよォ、そこだね、反響音が違うでしょう?地下に続く階段があるねェ』


「お前優秀過ぎるわ、結婚してくれ」


『ヨシッヨシッヨシッ』


「冗談だぜ?!」


『ヨシッヨシッヨシッ』


あああああ、冗談間違えた。

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