第137話・『鉄(くろがね)の城、グロリア城』
どのような民族の成れの果てなのか問い掛けたい、シスターの血を飲めばシスターになれるって馬鹿馬鹿しい思想に呆れてしまう。
好奇の視線にそのような意味があったとは思わなかった、しかし何も危害を加えようってわけじゃ無いよな?殺さなくても血は手に入れられる、行き過ぎた信仰の成れの果てがこいつ等だろ?
しかし街の者全てがそのような思想を持っているわけでは無いらしい、むしろ少数派と言った方が良いっぽい、アルルコット族、それがシスターを信仰する民族の名前だ、しかしどのような経緯でそのような狂った思想に辿り着いたのか?
グロリアは含みのある笑みで教えてはくれない、聞かせたく無い程に凄惨な過去があるのか聞かせるのが面倒なくらい長話になるのかのどちらかだろう、深く追求する事は止めてこの話はここでお終い、ちゃんちゃん。
「おいおい、いきなり襲撃されねぇだろうな」
「今のキョウさんに勝てる存在を探す方が大変ですよ?」
「目の前にいるぜ」
「早く私に勝てるように精進して下さい」
「精が進むと書いて精進」
「病気ですかね?」
本気で心配された、グロリアの屋敷の庭園でゆっくりしながらその広さに笑ってしまう、街外れにひっそりと佇む屋敷と聞いていたが実物は全然ひっそりしてねぇ、なんだこの庭!
屋敷の周囲に設置された林は広大で青々とした植物がキラキラと太陽の光で輝いている、これ程に立派な林群を形成させるには腕のある管理人が必要だ、防風や防雪の為に設置される事の多い屋敷林(やしきりん)だがここまで見事なものは滅多に無い。
その林の中心に美しい庭園が広がっている、花々を見詰めながら溜息を吐き出す、どれだけ金を持ってやがる?巨大な揚水装置が設置されているのを見てここは個人の住宅なのかと呆れる、巨大な貯水槽に溜め込んだ水が庭の水路を走って循環している。
魚も泳いでいるし食料には困ら無いなと貧乏人らしい思考をしてしまう……それとチューリップが実に見事だぜ、グロリアの説明では初秋に数百の球根が植えられるらしい、寒い戸外で世話する事も無く放置するんだとか、そして春になり球根の花が咲くと球根をより大きくする為に刈り取るとか、成程ねェ。
売り物じゃないから焦る必要が無いのか??ここでゆっくりと丁寧に育てられる球根、早咲きのモノと遅咲きのモノを取り混ぜる事で市場に出回るモノより長く咲く品種が出来る、どんな職人を雇っているのか聞いて見ると庭の管理をする条件で業者に無料で貸し出しているらしい。
「へえ、グロリアにしては優しいじゃん」
「無料で屋敷を彩ってくれるのですから良いでは無いですか、こっちですよ、手を繋ぎましょう」
「やっ!」
「恥ずかしがって無いで繋ぎますよ?まったく、照れ屋なんですから」
「お、俺は硬派の人間だからなっ!手を繋ぐのはグロリアだけだぜ!感謝するようにっ!」
「はいはい、感謝してますよ、私に出会ってくれてありがとう」
青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が優しく細められる……グロリアのこんな表情を見れるのは恐らく世界で俺だけだろう、他のシスターを抱いて支配していた過去を持つグロリアだが心の中では駒程度にしか思っていない。
本当に残念で最恐な女だわ、愛を囁いて同じシスターに奉仕させるなんてなっ!だけどそんな事は関係無いのだ、だって俺がグロリアを好きになったのはそんな腹黒い一面も含めてだからな!出会った頃なんて酷かったな、何時も邪笑を浮かべてよォ。
それが今では天使の笑みだぜ?業者が入っているのなら盗む知識もあるだろうと植えられた花をじっくりと観察する、ヒヤシンス、ムスカリ、ラッパ水仙、チューリップ以外にも様々な花が植えられていて目に楽しい、色彩豊かな花の絨毯が広がる光景は何処か幻想的だ。
また庭園に流れる豊富な水を利用して装飾で趣向を凝らした噴水があちこちに見られる、周囲の緑と見事に調和したとても美しい噴水は立ち止まって何時までも見ていたい気持ちになるがグロリアに急かされる形で後にする、くそぅ、後で一人で見よう!
「グロリアってお金持ちなんだな」
「これでも世界最大の宗教団体の管理職の一人ですからね」
「うへぇ、べ、別に凄いなぁって思っただけだからなっ!」
「伴侶を選ぶ基準は様々ですがキョウさんに苦労させるつもりはありませんよ?」
「お、おぉお……………つ、土を弄れる環境が欲しい」
「お好きに」
この立派な庭園を俺も手で弄っても良いと?段々になっている噴水と細かな彫刻が横に広がっている、噴水に太陽の光が照らされて浮き上がって見えた水しぶきが宝石のように輝く、七色のソレを見詰めながら下手な事は言わない方が良いなと自重する。
グロリアは力だろうが金だろうが立場だろうが使えるものを全て行使して他人を支配する、悪癖だが誰かの為に何かを消費する事が決して悪い事とは思えない、しかも最近のグロリアは自然な感じでソレを俺に行いやがる、口説かれてるってより告白されている?
だけどグロリアに勝てない俺がそのままそれに甘えるわけには行かないぜっ、円形状の段々になった噴水の横を通る、優雅な演奏が周囲に流れている、自動演奏をする水力式のオルガン、グロリアの説明を聞いてさらに頭が痛くなる、繋いだ手が汗ばむ、あ!
「ぐ、グロリア、汗で気持ち悪いだろう?手を………」
「いえ、まったく」
「ぐっ」
「まったくのまったくです」
「つかこの屋敷が豪華すぎて吐きそうなんだよ、俺ってやっぱり貧乏人なんだよなァ」
「同じような屋敷を他にも五つ持っています」
「そりゃ、ここの住民もシスターの血を飲みたくなるわ」
ドヤ顔をするグロリアが微笑ましい、今まで誰にも自慢なんてした事が無いんだろうな、俺がスゴイスゴイと手を叩くと胸を張ってむふーと微笑む、結婚したらお金の管理は全てグロリアに任せよう、価値観違い過ぎて良くわかんねぇや!
「ここが暫く滞在する屋敷になります、好きに使って下さい」
「…………え、し、城?」
「?………屋敷ですよ」
城じゃん、目の前に聳え立つ建物を見て眩暈が………え。
「え、ダンジョン?これ、ダンジョン?クエスト受けてたの?」
「?………屋敷ですが」
眩暈がヤバい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます