第135話・『バカップルはぷるぷるぷるん』

グロリアにはツツミノクサカの事だけ伝えた、大好きな女の子に嘘を吐かなければならないとは情けないぜ、キョウもクロリアも絶対にそこは譲らないからな。


一人になった時に六課化に転じてみたのだが何も不自由無かった、細胞も馴染んでいるようだし精神も大人しい、しかし勇魔の力で隔離されているので干渉し難い。


何時かそこをぶち破って調教してやらねぇとな、グロリアは俺の報告に顎に手を当てながらそうですかと短く呟いた……バレているのかバレていないのやらわからんぜ。


戦が多い地域だと聞いている、その為に街道は軍の居留地を直線でのみ繋いでいる為に中々に不便だ、集落や都市を経由する際に面倒で仕方が無い、舌打ちをしながら足を進める。、


その為に商人や旅芸者が顧客を得ようと頑張っては見ても中々に苦しいようだ、横に広がる廃道は草花が生い茂りとても歩けたものでは無い、カーブを大量に起伏は少ないように工夫しているようだが駄目だったかァ。


「なあ、次は何処に行くんだ?」


「ここ最近は色々と頑張り過ぎましたからね、避暑地でゆっくりしましょう」


「マジかっ!やったー!グロリアとイチャイチャ出来るぜー」


「そ、それは良い事で」


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が伏せ目がちになる、頬は紅葉のように紅潮していて艶やかだ、グロリアってホントに単純だよなぁ、色々と暗躍している時とのギャップがあり過ぎだろ。


俺の思い掛けない言葉にギクシャクと機械仕掛けの玩具のような動作をするグロリア、ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で弄りながら意味の無い言葉を口早に呟いている、無言で良いのにな。


もう片方の手は腰に差した聖剣に添えられている、相変わらず美しい剣だな、貴金属を散りばめられていて天使の細工が印象的だ、鞘の先、鐺(こじり)は特殊な材質で出来ている、見ていると引き込まれそうな怪しい光沢を帯びているのだ。


履き口に折り返しのある個性的なキャバリエブーツで足早に進むグロリア、頭から湯気が出ているのかって言いたいぐらい動揺している、ふむ、かなり安定しているな俺、こうやってグロリアで遊べれるレベルまで回復したか、よしよし。


「グロリア、そんなに先を急いでもイチャイチャする為の避暑地が待っているだけだぜ」


「そ、そうですか、急ぐ必要はありませんものね」


「いや、急いで早くイチャイチャしてぇわ」


「急ぎましょう」


しかし俺の顔も真っ赤なのはここだけの秘密だぜ?別に季節は夏では無くても一年を通して冷涼な気候である土地は好まれる、グロリアの事だから屋敷とか保有しているんだろうな、今更そんな事で驚かないけどな!


主に標高の高い土地や緯度の高い土地が避暑地になる事が多いが山登りは勘弁して欲しいぜ?周囲を見回しながら心の中で呟く、その土地の領主達の多くは街道を支配する事で利益を得ている、街道における平和維持の役目を請け負う事で相応の対価を手にしているのだ。


関税や通行税を取り立てる事はその一部に過ぎないのだ、しかし中々に綺麗に舗装された道じゃねぇか、しかしそのような役割を完璧に全うしている領主は圧倒的に少ない、盗賊や野党化した傭兵、さらに獣の群れ、そんな外的要因を全て排除出来るはずが無い。


通行料目当ての言い分は何時だって素晴らしいものだ、平和維持の為の活動やら何やらなぁ、しかし流石にシスター二人に襲い掛かって来るような奴は少ないな……グロリアの美貌で精神がおかしくなって襲い掛かって来る輩はいるが真っ二つだ。


「き、キョウさん、顔が赤いですよ?」


「へえ、グロリアも赤いけどどうした?俺とグロリアはお互いに好いているのだから恥ずかしい事なんて何一つ無いのに不思議だなぁ」


「むっ、そうですね、こうやって」


流れるように頬にキスをされる……周囲を行き交う人々が動揺するのが気配でわかる、最も動揺しているのは俺だけどな、人前でキスされるのは流石に恥ずかしい、グロリアを睨むとしてやったりって顔で薄く微笑んでいる。


あらゆる神の造形物の美点を全て濃縮したようなグロリアの美貌、それなのに爽やかで軽やかで春風のようなイメージを見る者に与える、完全無敵の美少女の癖して腹黒い、こうやって俺をからかって遊んでいるのだ!!ちなみに腹黒いが顔は真っ赤!


「ひ、人前でキスはシスターとしてどうなんだっ!冒涜的な行為だぜ!」


「今晩は胸を揉みます」


「ひぃ、ま、待つんだ、最近は敏感で少し痛いんだ、今晩は勘弁してくれ」


「今晩はしてくれ?無論、そのつもりです」


「『勘弁』が抜けているぜっ!ちょ、ダメだぞ、今晩は絶対に駄目だからなっ!」


「ありがとうございます」


「お礼を先に言うのは卑怯だぞ!」


手で胸を覆い隠しながらグロリアから距離を置く、おっぱい大好き人間めっ、そうやって罵ったらキョトンとした顔で『おっぱいが好きなのでは無くてキョウさんのおっぱいが好きなんですが』と何の悪気も無い口調で呟きやがった、どんだけ可愛いんだっ。


あ、頭が痛い、早目に酒を飲まして潰してしまうか?しかしグロリアを潰す程の酒の量となると生活を圧迫する事は必然、一か月の生活費は決まっているのだ、グロリアに強請れば幾らでも出すだろうがそれでは結婚した時に生活を維持出来ない、予行練習だぜ。


巡礼者の一団がそんな俺達を訝しそうに見詰めている、いけ、さっさといけ、このシスターは酒は呑むし胸は揉むし人は殺すし無茶苦茶だぜ?そんな一段の横を早足に過ぎ去る飛脚、どの土地でも必ず見掛ける職業だ、この糞暑い日にご苦労さんと心の中で呟く。


様々な都市を転々と旅する遍歴職人や大小の石を荷車に乗せた石屋がそれに続く、 石材の売買を職業とする石屋がいるって事は良質の石がここら辺で採取出来るんだな、石工(いしく)、石切り、石大工とも呼ばれる人気職だ、俺も少しだけ齧った事がある。


「き、キョウさんだって私の胸を揉めば良いじゃないですかあ、それでおあいこですよ」


「グロリアの胸はきめ細かくて綺麗だけど、ほらね、サイズがね」


「よぉし、天獄が地獄か選ばせて上げましょう」


「ごめん、それどっちも煉獄である事には変わり無くね?」


「変わり無くねーですよ」


「そうか、絶対に嘘だ」


久しぶりに頭がスッキリしている、グロリアと話しながらそれを実感した。

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