第134話・『弁当持参で墓場を漁る』

見た目と同じで脳味噌が幼いからだろう、すぐに俺の思想に染まって俺の思考のままに行動する。


グロリアの当面の目的は俺に勇者の元仲間を食わせる事、魔王軍の元幹部も視野に入れているが今はそっちを優先して取り込む事で俺をさらに混沌とした生き物に仕立て上げようとしている。


成程、魔物で狂った俺を勇者の仲間で良いバランスに戻そうって魂胆か??いやいや、そうでは無くて単純に能力の幅を広げたいだけか?しかし俺はグロリアが大好きなので従うまでだ、それが男の悲しい所よ。


グロリアが計画を進めているように俺にも計画がある、ドラゴンライダーになってグロリアと結ばれて可愛い子供に囲まれて幸せに暮らす事っ!その為には自己の崩壊と自己を護る為の一部が必要なのだ、しかもグロリアには内緒の一部をな!


六課化を取り込んだのは嬉しい誤算だ、エルフであるこいつは巨大な力を有している、俺の自己を修復してさらに強化してくれた、グロリアと今は離れ離れ、あちらも俺の気配を掴んでいるだろうし逃亡出来ないように俺に何かしら仕掛けをしているはずだ。


ふふふふ、腹黒いグロリアも大好きだぜ、腹黒リアめっ、しかし今が自由時間であることは変わら無い、人間を食うのは賛成だ、しかも聖なる属性の人間、勇者の元仲間達の所在はグロリアが調べているだろうし迂闊に手は出せないな。


「わ、わん」


「ほら、お前の嗅覚で探せ、聖なる人間を探せ、聖なる人間の死体を探せよな、カスっ」


「うぅ、わ、わん」


「子犬め、媚び媚びで可愛いぞ、ケツも振れ、下品な方がいいな」


「うぅう、アタシを何だと思っていやがる」


「糞犬」


流石に四つん這いでは効率が悪いので歩かせている、しかしこいつ小さいな。俺の腰ぐらいまでしか無いぞ、魔王軍の元幹部もロリばっかりで何だか神様の存在を疑うぜ、しかし幼い肉はあらゆる知識や技術を貪欲に吸収する…天都合が良いのかもな?


墓石や霊廟が雑多に乱立して複雑に入り組んだ迷路のような空間、魔王軍と戦った戦士を埋葬する為の墓地らしいが近場にあって良かった、グロリアと合流する前にここで遺骨か何かでも食べとくかな、聖なる派閥に属する人間の骨はどんな味なのだろうか?


噛めば噛むほどに旨味が出るのだろうか?色々と気になる事は多い、ここにある墓の大半は焼き煉瓦と漆喰で作られている、それぞれ墓によって高さが違うのは何かしらの宗教的な意味合いがあるのだろうか?そんな普通の墓石を威嚇するように富裕層が建てたであろう家のような家族用安置所がある。


陰鬱な空気が漂う墓地の世界、しかしそんな事は俺には関係無い、カルシウム不足を補いつつ聖なる属性を吸収する、二つの目的が果たされる素敵な計画なのに飼い犬の調子がどうも良くない、首輪に繋がった紐を乱暴に引く、苦痛で顔を顰めて睨んで来る。


これでもマシになった方だ。


「捌くぞ」


「あれだけの事をしといて遠慮無くその台詞を良く吐けるわね」


「お前の隅々まで知っている俺に何て失礼な、骨の髄まで愛してやったのに」


「アタシに対してそれを言っても別の意味合いにしか聞こえないからねっ!」


家族用の安置所が設置されているって事は国か何かが支援しているって事かな??大抵の墓は天井が丸みを帯びたドーム状になっている、梯子でそこを下ると地下にアーチ型の墓所がある、実家の方の墓地を思い出して頭を抱える、あれはほぼペットの墓と同じだしなぁ。


小さな鼻をくんかくんかさせて必死に匂いを辿る、丸屋根のモノは特徴的で周囲を見渡せるようになっている、お金持ちはお墓も豪華だなぁと呆れてしまう、しかし良い焼き煉瓦だな、人様の墓をベタベタと触るのは道徳的にどうなのだろうか?ああ、別に気にする必要はねぇか。


この人たちを殺したであろう魔物を統べる幹部四人が俺なんだもん、だったら今更どう繕っても意味はねぇわな。


「くんくん、うぅ、そもそもアタシにそんな能力は無いわよォ」


「だったら犬辞めるか?鶏で頑張ってみるか?」


「吊るされて切断される事の何処に頑張りようがあるのよっ!脳味噌腐ってるんじゃないの!」


「お前の脳味噌は良い色してたぜ」


「お、おろろ」


「吐くな、墓場だぞ、幽霊かハエが飛んで来るぜ」


「だ、ダメだわ、無駄に再生能力が高いから死に切れなかったせいで激痛だわ、おしっこ出ちゃうわ」


「安心しろ、捌いて全部みた、うんちもおしっこも見た」


「安心出来るかぁ、くそったれぇ」


「糞を垂らしたのはお前だろ」


「ああ、そうだったわね!」


今までの一部と違って妙に反抗的なのは俺の開発者だから何かしらの抗体があるのか?月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪はどうしてか墓地の中では浮いてしまう。


月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、この薄暗い墓地を照らす月明かりのように不浄なモノを許しはしない色合いだ。


だからなのだろうか?


「けっ、犬の癖に匂いも区別出来ない何てそれでも俺の設計者かっ!」


「そ、それ言っちゃう?」


月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白………そんな美しい髪をフレンチショートにした愛らしい子犬は頬を膨らませて不満を訴える、まあ、俺も本気で聖人の遺体を漁れるとは思っていないぜ。


溜息を吐き出しながら辺りを見回す、ここなら解体しても大丈夫かな?


「お腹減った、食わせろ」


「貴方ね、場所と状況を弁えてから発言しなさいよね」


「墓地も解体場所も同じだろうに、どうせ死体が転がってるんだからさ」


ゆっくりと瞳の奥を覗き込む、ぷい、すぐに明後日の方向に首を動かすがそれを追うようにして視線を合わせる、こいつは俺の創造主だ、ふふ、作品に対して強い愛情を持っている。


だから餌を与えてくれた、最初から四肢をくれた、そして後に全てをくれた、だからこいつは強請れば何でもくれる、幾らでも甘やかしてくれる、瞳で母に訴える、お腹が空いたよと。


赤子になりきりながら。


「し、仕方無いわね、聖なる者の遺体を見つけられないアタシも悪いし、い、いいわよ」


「おう」


首が飛んで空に漂う月と並ぶ、同じ色をした球体が二つ並ぶと絵になるな。


あは。

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