第133話・『魔王軍の元幹部ですが捌き方は鶏と同じです』

犬の躾は初めてなのでやや緊張する、錬金術の力で首輪を生成して付けたもののコレで主と認識してくれるのだろうか?


犬は大好きだ、猫も大好きだ、後者も好きだがそれを手に入れるのは今度にしようと苦笑する、全身に力が漲っている、エルフで使徒の生命体はこんなにも栄養価が高いのか?


苔に覆われた世界で飼育を始めた子犬の顎を撫でる、こいつが俺の創造主だと?じーじーじー、奇妙な音が耳の奥で木霊する、違う、こいつは俺の飼い犬だ、今日から飼育を始めたのだ。


「わ、わん」


「こんなにも鳴き声が可愛く無い犬っているのかね」


「く、くそ、これでも緑王からは優秀だって小さい時から」


「はぁ?優秀も糞もねぇよ、犬としてちゃんと振る舞えない生き物なんていらねぇもん、捨てるぞ」


吐き捨てる、奥歯を噛み締めながら見下す、座り込んだツツミノクサカは歯を鳴らしながら怯えた表情をしている、その度に長く美しい睫毛が震えて引き抜いてやろうか?と邪悪な部分が顔を出す。


虐待は駄目だよな、躾をして何処の誰に見せても恥ずかしく無い立派な愛犬に仕立ててやる、しかしこの怯え方は少し異常だ、その美しい肌に鳥の毛を毟った痕のような細かいブツブツが見える。


鳥肌、立毛筋の収縮によって起こる生理的反応、この世界で最強を誇る魔王の眷属に必要な機能かと苦笑する、ふははは、何処までも笑わせてくれる、俺の飼い犬に成り下がってしかもチキンだとは面白い。


犬なのか鶏なのかはっきりしやがれ、後者は飼育経験があるので自信があるぞ?卵を産まなくなったら首を切って食卓を彩って貰うぞ?顔の輪郭を楽しむように手を何度も動かす、頬は柔らかい、しかし鳥肌が面白い。


交感神経の興奮や緊張やショックで起こる生理的な現象なのだがこうやって直に観察する機会は少ない、戦場では有り得る事だが観察している暇があったら敵を殺す方が優先されるべき事だ、くっくっく、喉が鳴る、鳥肌がより細かくなる。


「どおした?」


「な、何でも無いわよ、あまり触ら無いで………気持ち悪いわ」


「それはショックだな、泣いちゃいそうだ」


「他意は無いわよ、でもあんな光景を見た後だもの、少し……怖い」


あんな光景ってどんな光景?この鳥肌の正体は何なのだろうか、是非とも突き止めたい、原因を追究したい、激しい喜びや衝撃的な事があった際にも引き起こされる防御反応、毛を逆立てて威嚇する動物のソレも鳥肌とまったく同じだ。


犬にされて喜んでいる可能性もあるしさてどうだろうか、自分の生み出した最高傑作に飼育される倒錯的な喜び、粟粒のような肌を何度も撫でて状況を確かめる、抵抗はしない、好戦的な魔物では無いし当然かな、何だかつまんねぇなぁ。


「な、何よ、さっさと貴方の中に取り込みなさい、旅には邪魔でしょう?」


まだ母親のような事を言っている、俺を開発した魔物の学者の癖に人間のような振る舞いをしやがってムカつく、しかし何故だろう?自然とニヤニヤしてしまう、自分でも品の無い笑みだなと思うが貧乏な農家の倅の笑い方だ、勘弁してくれ。


こいつが俺を案じてくれる度に奇妙な感情が胸の内に芽生える、何だか釈然としない、これではまるでこいつが飼い主で俺が飼い犬のようでは無いかっ!確かに狐の細胞は持っているが他者に飼われる程に屈辱的な事は無いぜ、こいつめ、この野郎め。


「鶏なのか犬なのかはっきりしやがれ、何をびびってやがる?」


「そ、それは………貴方の性能はわかってるけど!実際に溶け合うのは怖いのよ!」


「ああ、六課化食うシーンがグロテスクだったか?全身にヒル的な生き物を寄生させて弱らせた後に捕食したんだけど何処ら辺がキモい?」


「全部に決まってるでしょう!」


「全部か、大丈夫、あれは敵だからそうしただけでお前は俺の肉になるだけだぞ」


「そ、それも何だか怖いわね」


「へえ、そんな感情は必要無くなるのにご苦労なこった」


やはりチキンか、魔物を舌で楽しむのは楽しみだなぁ、鶏を捌くのは嫌いでは無いぜ、元創造主をじっくりと観察する、少しだけ腹が鳴る、首を切る時に暴れると厄介なのでまず羽交い締めにしないとなァ、左右の羽を交互に重ねて外側を通して左の羽の下側に右の羽を重ねる。


ああ、しかしこいつは変な鶏だから羽が無い、そうか、両手でも無理矢理同じようにすれば良い、関節がどうなろうが無理矢理やっちまえば問題ねぇわな、幼い少女の関節をグチャグチャにする様を想像して興奮する、だってこいつは鶏でもあるんだもん、俺は悪く無い。


両足を紐で括らないとな、四肢が無いままの方が色々と楽だったなと苦笑する、木にぶら下げて首を落としたいがあまり高い木にぶら下げると振り子のように大きく左右に揺れて周囲に血が飛び散る事になる、そこは注意しないとな、鶏で犬であるこいつも良く暴れそうだ。


完全に体内から血を全て抜く為には鶏が瞼を閉じてから長時間放置するのが基本だぜ、首を持ち上げる力が残っていると血抜きが上手に出来ない、こいつがあまりに暴れるようだったらぶん殴って気絶させるのも良いな。


「っっ、な、何を想像しているのよっ!し、正気?た、食べるって……ふ、普通に捌いて食べるってっ」


「だって鳥肌の原因を教えてくれないなら鶏として処分するしか無いじゃないか、俺は今も昔も鶏とそうやって接して来たゾ」


想像以上に首を切断された鶏は暴れる、なので鶏を両腕で固定するのが良い、さっきまで腕も無くてこんな手順も必要無かったのに世の中ままならねぇわな、目を軽く覆い隠すと暴れるのも少しはマシになるが面倒なのでそのままで良いか、こいつの瞳は綺麗だし絶命の瞬間が見たい。


鋸を使用するようにファルシオンの刃渡り全てを利用すれば上手に切断出来るかな?


「美味しそう、美味しそう、美味しそう、使徒と魔物の価値観のせいで頭の具合が実によろしいのだ、人型の生物も普通に捌いて食べちゃうのだ」


「ひぃ、わ、わかった、言う、鳥肌の理由を言うから少し待ちなさいな」


「やだ」


「即答はやめて、その刃物を置きなさい」


「置いたぞ」


「か、感動しているのよ……自分の作品が自分を超えた事に………エルフライダーが魔王の眷属を超えた事にね」


「ふーん、よし、切断するぞー」


「おいっ!」


コミカルな会話ですがちゃんと捌いて捕食した、絶叫、断末魔、失禁、どれもこれも俺には新鮮で楽しい事だらけだった、そして肉体に取り込んで再生する。


この犬鶏はペットで食料にしよう♪


「けぷ」

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