第132話・『自分の創造主を飼い犬にする主人公さん』
捕食するのは簡単だった、新たに誕生した使徒は古き使徒と互角の能力を持っている、加勢して捕食して記憶と精神を移す、スパイを完成させて勇魔の元へと送る。
ふふ、しかしエルフだ、エルフの使徒を捕食した事で戦闘力がおかしな事になっている、これはこれは実に具合が良い、しかし記憶の奥の方は読み込めない、まあ、外面だけで今は十分かな?
口元に付着した血を拭いながら腹を叩く、抵抗は無かった、不思議な程にだ、俺に食われる為に存在していたような奴だったな、まさかその為に仕組んだのか?使徒の頭脳は具合が良い、こいつの脳味噌は役立つ。
仕組まれて食ったにしろ知能と能力は本物だ、何が仕組まれていようがエルフライダーは悪食の生き物、美味しく頂いちゃうぜ?軽く腕を振るう、空気弾となって世界を震わせる、姿無き弾丸、もう人間じゃ無いな俺。
「本当に食うとはね、しかも同一個体を生み出してスパイにするとか……勇魔になりつつあるわね」
「ああん?自分の作品にもっと誇りを持てよ、あんたの作品である俺はあんなショタに負けないぜ」
さて、こいつの番だな、部下子とアク?って使徒の力を一度だけ引き出せたことで敵の使徒を取り込む事に成功した、二人の使徒の細胞から偽物を生み出すのは容易だった、しかし使徒を生み出すこの能力もエルフライダーのものなのか?
弱い使徒だったらさっきの手順で誕生させる事が出来そうだ、俺だけのオリジナルの使徒、しかしそれはやめとくぜ、まだ早い、すぐにでもやって見たいのだが六課化を一部にした事で体中が悲鳴を上げているな、エルフの要素無かったらヤバかった。
久しぶりのエルフの細胞は実に体に良く馴染む、ゆっくりとツツミノクサカに近付く、一連の出来事を見守っていたせいか軽い放心状態だ、抵抗するつもりも無さそうだしさっさと取り込んでしまおう、使徒を取り込んだ事はグロリアに黙っていようか?
キョウもクロリアもそれに賛同する、これは計画の一つだ、グロリアの事は信用しているし信頼しているし愛している、しかし俺だけの切り札が必要な事は確かだ、そして俺の生み出した六課化が勇魔の元へと帰還するのが楽しみだ、気付くかな?気付かないかな?
どちらにしろ俺に失うものは無い、苔だらけの世界がすっかり血染めの世界に変化している様を黙って見渡す、おお、この全てが俺の血か?だったら俺の肉の内側と何も変わらねぇ、俺の遺伝子だけで構成された狂いに狂った世界、ふふ、ツツミノクサカぁ。
「お前も食うぞ」
「はぁ、使徒を一人食べてもそれでもまだ欲するかぁ、しかしアタシの作品が勇魔のバカの作品に勝ったのは素直に嬉しいわ」
「そうだろ?俺はやれば出来る奴だからな、殺っても犯っても全てが良い方向に転がる運命なのさ」
「その割に苦戦していたようだけど?」
「ああ、踊り食いが好きだからな、今でも腹の中で暴れてやがるよ、お前はどうなんだツツミノクサカ、食ったら腹の中で暴れるか?」
「―――アタシの波長パターンを組み込んだけど、成程、糞生意気な性格はアタシにそっくりだわ」
「ママ―」
「ぶん殴るわよ」
カタカタ、口調は生意気だがその小さな体は小刻みに震えている、四肢も回復したようだし必死になって逃げれば良いのに律儀な奴だぜ、使徒を取り込んだ事でその実力差は歴然としている、しかしこいつの力はまだ扱い切れない。
全身の毛穴から血が噴出するような錯覚、体の中で小さな虫が何万匹も暴れているようなイメージ、今まで食べて来た餌の中で最も凶暴で凶悪で強烈だ、エルフの要素が無かったら俺の肉体はボロボロと崩壊していただろう、確信している。
美味しそうな餌をじっくりと観察する、自分の創造主?こいつがエルフライダーを歪めた張本人の一人?それがどうした、幼くて小さくて柔らかそうな甘いお菓子にしか見えないぜ、砂糖菓子に他の要素を与えようと甘くて美味しい価値には勝てない。
「お前、綺麗だな、どうして俺をお前と同じ姿にしなかった?」
「ちょ、知らないわよ、貴方がどの親から産まれるだなんて知らないし、やったのは魂の改造だけで」
「ふーん、今ここで改造してよ、お前の作品なんだろ俺は、お前と同じ姿にしてくれよ、ママの姿は可愛いからソレになりたい、それ、それがいい、それ」
「興奮するなっ、嫌よ、あ、貴方はそのままで綺麗なんだから母親の姿を真似しなくても良いでしょう」
「へえ、可愛い事を言うじゃん、作り手の癖に」
「な、生意気なのよ、作品の癖にっ」
月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪、月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、ぺたんと座り込んだそいつの頭をゆっくりと撫でてやる、ゆっくりとゆっくりと何度も何度も執拗にしつこく、その度に自己が満たされる。
月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白、そんな美しい髪をフレンチショートにしている、上品な印象を見る者に与える、前髪は斜めに流していて清潔感がある、それを崩すのが楽しい、抵抗をしない様は少しだけ残念だ。
「そうだ、影不意ちゃんが良い案を与えてくれた、お前をどんな一部にするかをな」
「あのね、創造主に対してもっと」
「お前は犬だ、しかも愛犬、しかもバカ犬、ご主人様が帰って来たら喜んで嬉ションするようなバカ犬」
「―――――――」
瞳の色は薄い桜の花の色を連想させるソレだ、ほんのりと紅みを含んだ白色の瞳は見ていると心の底を覗かれているような不思議な気持ちになる、しかし俺の心を覗いても結果は同じだ、お前は俺の飼い犬になる、俺の創造主の一人なのに飼い犬になり下位犬になる。
口が三日月の形に歪む、顔を蒼褪めさせてこちらを見詰める魔王軍の元幹部………ふふ、俺の中の三人の魔物より戦闘には特化していないようだな、戦っても良いんだぜ?取り込んだばかりの使徒の力を全開放して消し炭にしてやるけどよォ、苔で墓を作ってやるぜ?
お前の能力を取り込んでなァ、んふふ、楽しみぃ、楽しい、全てが儚い色合いで構成された我が創造主、穏やかな顔付きは幼女であるのに何故か包み込まれるようなイメージ、今度は俺が包み込んでやるよ?腹は一杯だ、しかしまだまだ食える、満腹中枢よ、壊れろ。
「アタシが犬、はは、あはは、ま、また、どうしてこの子は」
「お前がそんな風に俺を設計したんだ、悪意を抱いて魂を蹂躙する生き物、そ、そうしないとお腹がいっぱいにならないんだぁ」
だから仕方が無いんだ、全部お前が悪い、詰襟で横に深いスリットが入った独特の服装をした我が創造主、東方服のように思えるが少し違うようにも見える、旗袍、チャイナドレスとも呼ばれる東方の民族のものだが飼い犬には少し過ぎた代物だなあ。
撫で続ける、いい子、いい子ォ、いい子になるんだよお前は、良い子犬に。
「どうして、どうしてアタシがよりにもよって」
「どうして?いいじゃんか、自分の生み出した最高作品のペットになれるなんて最高だろ?」
「ペットになんか」
「主の魔王からしたらお前はペットのようなものだったろ?ペットのようなものだったお前は不幸せだったか?」
「そ、そんな事は無い緑王(りょくおう)は優しくて何時でもアタシを」
「ほぉら、飼い犬だったのに幸せだったんだろ?だったら俺の飼い犬になったらもっと幸せになるぞ、何せお前が生み出した最高の創造主だからな」
「貴方が?アタシの創造主、そんなわけ、だってアタシは」
「だっても糞もお前が俺を生み出したのは事実だろ?最高傑作なんだろ?最高なんだからお前より上だろう、わかるだろ、お前が開発したんだからお前より俺の方が上だとわかるだろ、バカ」
「そ、そうか、そうよね、アタシが作った最高の作品だもの」
まったく聞き分けの悪いガキだぜ、芸を仕込もうと思ったが大丈夫かよ?しかし世の中にバカ犬は存在しているが最初からバカな犬は存在しない、犬をバカと罵る主がいればそれは自分が無能だと証明しているようなモノだ。
犬は人間に寄り添って生きて来た、バカな犬など本来は存在しない、間違った教育をしているか教育そのものをしていないからバカな犬に仕上がるのだ、しかし俺は失敗しない、透明な触手を伸ばして飼い犬の体にズブズブと刺し込む。
紅みを含んだ白色の瞳が大きく開かれる、言語を失ったように口をパクパクとさせる様は池の鯉のように滑稽だ、浮き餌でも強請っているのか?強欲な奴め、指を差し込んで歯茎と歯並びを確認する、よおし、健康な子犬だ、こいつにしよう。
ペットにしよう、そうしよう。
「あ、あ、あ」
「ははははは、犬ぅ」
「あ、アタシは犬じゃ、アタシは魔物の」
「はははははははは、魔物の犬、糞犬、ふふ、そして俺の可愛い愛犬、お前の最高傑作がお前に言ってやるよ、最高の犬だって、認めろよ?お前の作品様がそう言ってるんだぞ」
弄る、価値観を反転させるぜ、エルフライダーに従属するように仕組みを弄繰り回す、創造主は俺に対して愛情を持っていたので実に簡単に操作出来る、愛情のある生物って操りやすいし俺に染めやすい、一部にしやすい。
あああ、そうか、愛情が生物にある理由がわかったぞ、俺の一部にする為の道具として愛情があるんだ、なんだ、特別な感情かと思ってたけど答えはそんなものか、踏み付ける、頭を踏み付けて弄繰り回す、顔面が蒼白から紅潮へと変わる。
自分の最高傑作に支配されるんだもんな、最高だよな?
「あたしはいぬ、アタシは犬だっ」
「ほぉら、お前がくれた能力ですぐに犬に仕上がったぞ、ふふふふふ、雌犬、ロリ犬、尻軽でバカな犬」
「鳴かないわよ?犬になっても気位は変わらない」
「そぉかぁ、ほら、頭を踏んでやる」
「あぁぁあ、どうして、どうしてこんなにも満たされるの、畜生、畜生」
「畜生はお前だ」
「そ、そうだったわね、ごめんなさい」
犬畜生が、愛してやるからずっと傍にいてね?
エルフライダーの俺に初めて優しくしてくれた人。
優しくしてくれた犬。
「鳴け」
「わ、わん」
そんなもんだぜ、お前は。
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