閑話109・『ドクダミ料理を食べる未来の英雄、良く犬がオシッコをする野草です』

久しぶりに落ち着ける環境だ、グロリアは街へ呑みに出掛けている、過酷な山歩きで酒を楽しめるような環境では無かったし鬱憤も溜まっているだろうと苦笑する。


明日は一緒に呑みに行こう、断った時のあの顔が忘れられない、拒絶された子供のような表情、普段は沈着冷静かつ残忍な癖して卑怯な女だぜ……しかも恐らく無自覚だ、無敵過ぎるだろ。


山歩きは過酷でしんどいが知識があれば食糧の倉庫である、元々は貧乏していたんだぜ俺、グロリアは節約家だが使う時には使う、必要な時期をちゃんと見計らって使うのだ、今回のように!


台所を完備した宿は高級感は無いが生活に必要なモノが全て揃っている、旅人は保存食が命、元々は冒険者だった店主が始めた宿は保存食を作る為の調味料や器具を完備している、必要なモノは材料だけだ。


「さて、何から作るかね」


何せ我が家のシスターは大食いモンスターだ、手持ちの保存食は多ければ多い程良い、包丁をクルクルと回しながら思案する、グロリアの魔法で野草は新鮮さを保っている、何て便利な魔法だ!頼み込んで教えて貰おうとした。


そしたら元々は仲間の死体を腐らせない為の魔法だと教えて貰って覚えるのを止めた、別に魔法の用途に関して嫌悪感は無い、しかしその時のグロリアの顔がニヤニヤとしたかつての邪笑だったので凄くムカついた、久しぶり過ぎてムカついた。


今日はこいつに付きっ切りかなと苦笑する、悪臭では無いが独特の匂い、人によっては嫌悪感を抱くかもしれないが俺には慣れ親しんだ食材だ、こいつだけは山で採取したものでは無く宿の周囲に自生していたものだ、しかも有り得ないほどに大量に!


ドクダミ、ドクダミ科ドクダミ属の多年草、その生命力と繁殖力は凄まじく無限に増殖するのでは?と思うほどに凄まじい、別名は毒溜めや魚腥草とも呼ぶ、地域によってはさらに地獄蕎麦とも呼ばれていてその名称の悪さには定評のある野草だ。


古くは之布岐(しぶき)や紀布岐(しぶき)と名称されていた、文字が違うだけ響きはまったく同じだ、ドクダミの由来は毒溜めが変化したモノだと言われている、毒を矯めるその効能を意味したもので毒を矯正する方の意味合いが強い、昔から薬用として愛用されていた。


主に吹き出物や切り傷などの外用薬として使われていたらしい、膿を外側に弾き出す効能から毒を矯める薬草として多くの人間に慕われていた、ちなみに之布岐の意味としては渋い味の草って意味でそのままの意味だ、そう、ドクダミは食用としては工夫しないと食べられない。


どんな地域でも大体は生えている………つまりは冒険者にとっては慣れ親しんだ野草だ、先述の通り栄養価も素晴らしい、ホトケグサ、ニュウドウグサ、ドクナベ、イヌノヘドグサ、旅をして来た地域だけでもコレだけの呼び名があるのだ、貧しい地域では特に愛されている傾向がある。


「勝手に生えるし、抜いてもすぐに生えるし、畑に生えたら流石に邪魔だけどホントに助かるよなァ」


魔術的な側面もある野草だ、魔力的なものはわからないが貧しい地域ではこの生命力と香りに何か意味を求めてしまうのだろう、儀式的な側面が強く心臓の葉と呼ばれたり司祭の草とも呼ばれる、そこら辺に生えている草なのに随分な名前だなと呆れてしまう。


十薬(じゅうやく)の一つとしても有名だ、他のモノは省くが十薬の意味としては十の薬効があるとか十の毒を消し去るとか様々な諸説がある、本来の意味合いとしては十薬では無く重薬では無いかと口にする者もいる、祟木の知識を必要としなくても植物に対しては有能な俺。


重要な薬草だから重薬、もしくは多くの効能を重ねて持っているから重草、それら二つの意味を重ね合わせて重薬、取り敢えず薬草としてはそれだけ愛されているって事だ、どうしてここまでドクダミを持ち上げるのかって問われたら大好きだからとしか答えられない。


ある程度のサイズに切り刻みながら感謝する、本当に貧乏だったからこいつには大変お世話になった、そりゃ癖もあるし匂いもキツイし他の作物は枯らすし問題はある、だけどそれ以上に幼い時から食卓を彩ってくれた大事な食材だ、きっと今も昔も食べ続けるだろう。


恥ずかしい話だが大好物と言っても良いのだ、半日陰地を好む習性のせいでこの時期には大量増殖する、最近の冒険者は食べないのかな?宿の周りにこれだけ自生している事実がそれを裏付けているようで少し寂しく思う、こんなにも美味しいのに調理が手間だからか?


保存食にしないのなら油で揚げて塩で食えば良い、千切れても地下茎から再生するその生命力を食して冒険に出掛けようぜ!棒のような花序に淡黄色の小さな花を密集させて咲く姿は中々に美しいし目の保養にもなるぜ!だ、ダメだ、思い出からかドクダミを全面援護してしまう。


「切り終わった、よし」


切り終わったドクダミがザルに山盛りになっている、沸騰したお湯に布切れを入れて暫く放置する、取り出してさらに放置、暫くしてまだ熱いそれを広げてドクダミを包むようにする、その上から木の棒で何度も叩く、こうすれば臭みも減って幾らかマシになる。


あの臭みが好きな人には微妙だろうけどな、切り終えたドクダミ全てをそうやって順々に処理してゆく、中々の量で少し休憩、休憩を終えたらそれを醤油に漬けてゆく、ドクダミの醤油漬け、飯のオカズにも良いし酒の肴にもなる、これでかなりの量が減ったぜ。


後は前に乾燥させたドクダミを焼酎に漬けて完成、三カ月後に茶こしで漉して完成だぜ、ぐうぅうう、グロリアは外で食べて来るだろうし天ぷらにでもして少しでもドクダミを減らすかね、何のハプニングも無く作り終えて一人でムシャムシャと食べる、うめぇ、そしてやや臭い、最高。


「うめぇ」


『キョウったら、家の周りに生えていたドクダミで夜ご飯を終わらせるなんて少し悲しいよォ』


キョウが話し掛けて来る、年頃の女の子のキョウからしたらこんな晩御飯なんて嫌だろうなと思う、だけど結局は俺だろお前。


味覚を繋げて共有する。


『くっ、お、美味しいとは決して言わないんだからねっ!』


即堕ちしやがった、久しぶりにドクダミ料理を満喫して少しだけ故郷に戻りたくなった。


ちゃんちゃん。

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