閑話108・『こんがり死体で何を作ろうか、ワクワクすわん』

奉仕されるのは嫌いでは無い、しかも奉仕する側が自主的に行動をするから便利だなと素直に思う。


近隣の村が盗賊に占拠されていると聞いたのでそのクエストを受けた、殺しても殺さなくても代金は貰える、だったら殺してしまった方が手っ取り早い。


村の状況は酷いもので反抗したモノを逆さ吊りにして放置している、両足首を縛って吊り上げているようだが惨たらしい、それを見た時に皆殺しを決めた。


グロリアが教会の仕事で出掛けているので俺一人だ、雑多な武器で装備しているのかと思ったが中々に立派なモノを着込んでいる、何処かの傭兵崩れか?村に足を踏み入れた瞬間に襲われた。


一人と言っても愛しい娘が傍に控えている、雷光が走る、鎧をどれだけ着込もうとも意味が無い、中身は黒焦げになって実に良い塩梅だ、門番はこいつだけかと嘆息する、蹴り飛ばすと炭化した一部が風に舞う。


「逆さ吊りか、もう死んでるじゃねぇか」


「お母さん、どうする?」


「このままでいいよ」


「………これだけで人間は死ぬのか?お母さんも?」


「俺は逆さ吊りにされても死なないよ、何だ、不安になったか?」


「そうか、いや、大丈夫だ」


「何時かお前を吊るしてやるよ、どうせ死なないんだ、何事も経験だろ?」


「お母さんは私が死んでも………」


「どうせ死なない、バカ、化け物は素直にお礼を言って頭を垂れろ」


「あ、ありがとう」


「ふんっ、今からこの黒焦げ死体を吊るすからやり方見とけ、これで少しは連中も頭が冷えるだろ、何に襲われているか実感させてやるぜ」


「……逆さ吊り」


思い付きで行動しているので先程はこのままで良いと答えた死体を下ろす事になった、それに対して文句の一つでも言えれば良いのに此処野花は黙って従っている、ふふ、こいつは俺に反抗する事を知らない。


魔王の娘が自分の一部として良好に機能している様は実に嬉しいものだ、鎧を着込んだ死体を吊るし上げるのは本来なら重労働だろうが今の俺には関係無い、そもそもこいつの母親だしな、魔物の細胞が活性化している。


片手で吊るし上げながら村人の死体を観察する、血圧の急上昇によって血管が破裂したようだな、これを惨い事と言って良いのだろうか?俺を護る為に盗賊を瞬殺した此処野花の行動もほぼ変わら無い、結局は殺すか殺されるかだ。


その過程がどれだけ惨たらしくてもどれだけ一瞬でも死の現実の前には全て等しい、吊る仕上げて暫くその場で空を見詰める、能動的なのか受動的なのかわからん、妖精の感知能力で村の中を探るがどれも殺気だったどす黒い気配。


村人は全員殺したか?カニバリズム的な風習のある民族に死体は高値で売られるが近年では嫌悪の対象となっている、その民族の風習なのだから別に良いと思うしソレが流通の為の手段になるなら別に良いとも思う、魔物と人間の思考が混ざる。


物語の中では人間を捕食する生物が多く描かれるが実際には微妙なモノだ、人間は決して栄養学的に優れた食品では無い、猪と比較してもほぼ三分の一の栄養価しか無い、しかし人間は悪食で環境に支配される、食用の人間を作ればまた話も変わるか?


「他の死体も下してやるか、全滅だ、全滅、つまんねぇの、こんな風に同じ殺し方をしてな」


「それ、人間っぽく無い言い方だな、私が下すよ」


「当然だ、魔物が殺すよりも惨いだろ?これが人間の悪意の形だ、働き蟻のように魔王に言われて人殺しをするお前達とは違うんだよ、ふふ」


「働き蟻?」


死体を下ろしながら街を闊歩する、盗賊に襲われる際には何もしない、此処野花が自動的に殺人する様を見てゾクゾクする、蟻の女王は俺だぜ、こんな風に悪意を持たずに殺人をするお前はやはり化け物だ、人間を殺す為に生まれた素敵な生き物。


道具の使用法は間違っていない、しかし人類の天敵を悪意ある人類に対して使用している事に対して奇妙な満足感がある、この道具の使い方は俺が考えた、人類に対してこんなにもどうしようも無い存在を人類の為に使っている、悪い人類を殺す事で!


新たな死体を下ろす、これで最後か?胃袋から逆流した吐寫物が気道に詰まった事による窒息死、指でそれをほじくり出す、水で清めてやりながら俺は違和感に首を傾げる………先程は人間を食する事を考えていたのに今は人間として人間を葬っている、おかしいな。


「全員殺したか?」


「ああ、私の電光でこんがり死体が山積みだ、全て吊るそうと思う、もう威嚇する対象もいないけど」


「何事も経験だ、やってみな」


黒焦げの死体がミノムシの巣のように密集していて笑える、初めてにしては上出来だと褒めてやると鼻息荒くふんすと笑う愛娘、葵の花のように灰色が混じった明るい紫色の瞳が己が作り上げた死体のアートを見詰めている。


こうやって子供は成長するんだなと少し寂しくなる、ある程度成長したら胎に入れ直してまた産もう、親離れをするような子供なんていらねぇんだから、微笑みながら自覚する、俺はやっぱり魔物寄りの生き物だ……こんな思考をする人間なんていねぇだろ。


「さて、帰るか」


「お母さん、結局みんな死んでしまったな」


「ああ、でも良いじゃないか………こんなに上手にお遊戯が出来て」


死体のミノムシの周りを蠅が飛んでいる、そして村人の死体は全て供養した、それだけで意味があるのかと問われたら答えられないが………母と子の交流なんてこんなものだろう。


特別では無い時間が特別なのだ。


「お母さんは優しいな」


それは誰に対してなのだろうか?問い掛ける事もせずに頭を撫でてやった。


化け物でも娘に愛されるのならそれでも構わない、少しだけそう思った。

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