第130話・『主人公の細胞の中のメインヒロイン二人が本気出す』

何処までも広がる苔に覆われた世界で吠える、エルフだっっっ、認識した瞬間に視界が真っ赤に染まる、純血の色、喜びに全身が震える、震えは振動になりやがて大地を揺らす。


全ての一部の力が全身から溢れて来る、濁流のようなソレをコントロールする術は無い、その流れのままに全身を震わせるのみ、エルフ、俺のご飯、この体を維持する為に不可欠な存在。


こいつを食えば精神が安定する、そして新たな素敵な一部が出来る、良い事尽くしだ、しかも使徒だと?勇魔の下僕、こいつを食えば色々な事実がわかる、俺がどうしてこんな狂った生命体として生まれたのか教えろ!


「食わせろぉおおああああああああああああああああ」


駆ける、俺の創造主のロリを背中にして庇うように直線上に立つ、こいつは四肢を俺にくれた優しい女の子、本体もくれる優しい女の子、こいつを始末するだと?絶対にさせない、庇ってやる、守ってやるぜ、惚れても良いぜ?


餌が二つもある幸せを実感しながら全力でファルシオンを叩き込む、六課化と呼ばれた使徒はそれを手の甲で軽々と弾く、たったそれだけの動作で背景が即座に切り替わる、回転しながら背後に吹っ飛んでいるのか?あまりの現実に苦笑する。


障害物があればそこで止まるのにな、ファルシオンを地面に刺し込んで体を固定する、腕が千切れそうになるがどうでも良い、全身から血が溢れているが理由は定かでは無い、興奮しているので自分の行動を俯瞰で見れない、だけど大丈夫。


だって餌を食べればすぐに回復する。


「――――――成程、白兵戦でここまでの仕上がりか、どうしてそいつを庇う?」


「餌が餌に興味を持つなよ、こいつは四肢をくれた良い餌なんだ、お前もこの餌みたいに良い餌になろうな?」


「――――――――無自覚か、好かれているなツツミノクサカ」


「う、うるさい」


可愛く吠えるツツミノクサカ、月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪……月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、四肢をもがれてもその美しさに一片の異常も無い。


こいつは後で食べる、だってこの人はエルフライダーの能力に狂って酔い痴れた俺に優しくしてくれた唯一の人だ、だからこそ絶対に逃がさない、あはぁ、その美しい髪をズルズルと麺のように食べてしまいたい。


しかしどうしてこいつを勇魔が殺そうとするんだろう?俺には優しい天命職の兄、優しくする理由はわからないけど俺の餌を消し去ろうとする理由はもっとわからない、こいつを捕食すればそれもわかるのか?ワクワクする、ウキウキする。


体勢を整えながら犬歯を剥き出しにして威嚇する。


「守る、そして後で食う、だから邪魔すんなやぁ、んふふ、しね、死んで食われて肉と糞になれ、選ばせてやる」


「――――――――前者の方が少しはマシかな」


「だぁめ、お前は糞だ、道端に転がってガキに踏まれろ」


「―――――――ふは、吠えるな」


走り出す、無色器官を展開させながら相手を観察する、初期の使徒?情報が何処かから引き出される、不思議な感覚だ、どの一部の情報なのか主である俺にも開示されない、本体である俺より俺の体を支配している存在がいるのか?


あ、く、ぶか、こ、舌が何かをなぞる様に蠢く、それは呟きとなる、聞き覚え名の無い二つの名前に首を傾げる、こいつ等も俺の一部なのか?しかし俺の一部としてまったく実感が無い、まるで知らない臓器の名前を教えられたような感覚。


そんな一部が俺にもあるんだ、少しだけ興味が出て情報を漁るがそれだけしか読み取る事が出来ない、しっかりと脳裏に刻む、これは忘れてはダメな情報だ、クロリアの細胞を活性化させて消えゆくソレを何度も刻み込む、俺の中の最も優れた細胞に託す。


何時までも操られてばかりじゃつまんないぜ?ふふ、そしてグロリアの野望を叶えるために神に等しい力を得る為にこいつを捕食する、そしてツツミノクサカを食べて自我を保つ、これ以上に完璧な答えなんて無いだろ?


「無色器官でご挨拶だぜっ、ミンチになっても丸めてハンバーグにするから安心してミンチになってくれ」


「―――――――ほう、使徒では無いな、遺伝子情報を渡したと言っていたが、シスターの亜種か?」


「クロリアもグロリアもシスターの正道だぜ、俺にとってはなっ!」


斧の形に展開した巨大な無色器官………あらゆる物質に干渉する事が出来る万能の粘土、しかし形を成した際のその硬度はこの世界のあらゆる物質を凌駕する、この世界の物質は触れる事が出来ずに一方的に干渉する事が出来る無敵の器官。


叩き込む、俺の体から生えたソレが六課化に襲い掛かる、しかし空中を浮遊する事で難なく回避する、何処までも伸びる斧で追撃する、ダラダラと涎を垂らしながら追撃するのだがまるで触れる事が出来ない、漂っているだけなのに全ての攻撃を受け流す。


不可視の攻撃のはずだがやはり同じ器官を持つ使徒には見えるか?しかし攻撃を躱していられるのはそれだけが理由では無さそうだ、俺の癖を知ってやがる?


「どうも厄介だぜ、餌め」


おかしい、あく、ぶかこ、その名を思うと心が疼く、ズキズキ、エルフを目の前にしているのにどうしてこうも落ち着いていられる?その二つの名前が俺にとってどれだけの意味を持つのか、想像すると少し怖くなる、俺はその二人を知っている?


六課化を近付かせないように無色器官を展開しつつ思考する、この名前を刻み込んだ事で俺は変わった?冷静になれる、エルフライダーの能力を少しだけ抑え込む事が出来る、だけどどうして?名前を覚えただけでどうして?


瞳の奥が痛い、ズキズキ、戦闘中だぞ?


「ぶかこ、アク」


「――――――ど、うして、その名を、一部にして自覚出来ないはず」


呟いた単語、誰にも聞こえないはずの小さな呟き、空中を浮遊していた六課化の瞳が大きく開かれる、初めての動揺、そんな姿を見ても俺は何も感じない……思わない。


意識が遠くなる。


「か、か、か、かわ、る」


二人がいないと寂しいから二人に変わる。


俺は変わる、肉体に罅が広がり体が収縮する、あああ、そうだ、寂しいから、寂しいから変わるのだ。


部下子とアクに俺がなる。


「―――――――――二人同時にかっ!流石にこれはっ!」


叫びは閃光の中に消えた。

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