閑話107・『グロリアを倒す方法を見つけた女の子は世界を滅ぼす』
今日は戦闘の訓練は中止にして山へピクニック、キョウはご機嫌に鼻歌を口ずさんでいる、自然と俺も同じように口ずさむ、故郷の唄は胸に染み渡る。
涼しげな青い湖面、その周りを囲むような小さな建物が幾つも並んでいる、風光明媚な街、自然と人工が仲良く調和している、そんな世界を見下ろしながら山道を行く。
岩塩鉱山にピクニックする事になるとは想像していなかったぜ、この世界の山は全てコレだし仕方が無いなと諦める、しかしこの景色は誰の記憶から構成されているのだろうか?改めて不思議に思う。
坑内に入る為の道はわかりやすい場所にある、木々をファルシオンで切り裂きながら先を急ぐ、キョウは片手を繋いだまま仕事もせずにニコニコしている、力仕事は男の仕事ですかい、了解だぜ。
ゆっくりと溜息を吐き出す。
「岩塩鉱があるって夢の中なのにな」
「んふふ、そんな事よりも男の子アピールして、惚れちゃうかも」
「雑草を切り裂く行動の何処に惚れる要素があるんだよ」
「キョウったら鈍感、女の子は男の子にしか出来ない事を見て惹かれるんだよ?」
「雑草を切り裂くぐらい女の子でも出来るだろう」
「もぉー、女の子が持っていい刃物は包丁だけなんだからね!キョウは世間ズレしてるよォ」
「そ、そうなのか?………俺の周りの女はみんな凶暴だからついつい一般常識を忘れてしまうぜ」
「俺の周りだから私は除外だよねェ、くふふ、可憐でひ弱な女の子だからねっ!」
「可憐でひ弱な女の子はそんな事を力説しないぜ」
塩抗内は酷く暗い、夢の中なのだから都合良く出来ないのかと嘆息して灰色狐の遺伝子を活性化させる、狐の瞳は暗闇の世界を見通せる、鉱床にきちんと沿って掘り進められているので足場はしっかりしているようだ。
地下の世界に索道(さくどう)があるのは少し驚いた、装置もある、どうやら魔力で動く仕組みのようだな……キョウは機械に興味が無いのかのほほんとして俺を見守っている、くっ、同じ存在なのに男と女でここまで差が出るか?
索道とは空中に渡した紐に吊り下げた輸送用の箱に人や貨物を乗せて輸送を行う機関の総称だ、地形の影響をほぼ受けない点や急斜面に対しても強い点から山岳における輸送等に使用される事が多い、魔力を流し込めば動くようだ。
「これって誰の記憶なんだオイ、こんなもの作れる程に頭良かったら農民やってねぇわ」
「あはは、誰の記憶だろうねェ、どうしたの?自分が知らないものがあると不安になる?」
「いいや、ワクワクする」
「あ、そ、そうなんだ、もぉ、可愛げないぞ」
索条(さくじょう)と呼ばれる紐に触れる、固い、材質がわからない、今の世界に存在するものなのかと首を傾げる………この箱に乗れば地下の奥に進める仕掛けだよな、ニコニコ、俺を見守るキョウの視線は何処までも優しいが何か違う感情も含まれている。
吊り下げられている箱にも触れて見る、これは鉄だな、輸送機器として用いるわけだが人間が乗っても大丈夫そうだ、知識は何処かから脳内に流れ込んで来る、魔力を用いてこれを動かすのは中々に高度な技術力が必要だ、人力のモノは見た事がある。
索条は幾つかの種類が存在する、搬器を固定する為の支索(しさく)、搬器を牽引する際に重要な曳索(えいさく)、搬器を支持しながら牽引する為の支曳索(しえいさく)、知識と現実のものを見比べて鑑賞する時間は実に楽しい、キョウの視線が気になる。
「な、何だよ、機械は男のロマンだぜ」
「そぉなんだ、可愛い女の子が横にいるのに機械に夢中だなんて変なのぉ」
「そっちこそ男心がわかってねぇな」
「男の子はオッパイが好き、以上」
「その偏見は異常だぜっ!!このまま地下に行っても良いけどまた今度にしようぜ、装備を整えてからの方が良いぜ」
「んふふ、夢の中なのに装備を気にするなんて変なのォ、ここが現実のような言い方だねェ」
「え」
「もしここが現実で私が現実に存在したらキョウはどうかな?ねえ、答えて」
振り向く、先程の笑顔と違って蕩けるような表情で俺を見詰めている、座り込んだ俺に少しずつ近付いて来る、この世界が現実?そんなわけ無いだろ、だけど、どうしてか否定出来ない。
キョウが現実にいたら俺はどうする?肉体を持って世界に存在していたら俺はきっと、こいつを一番にしてしまう、否定しろ、否定しろ、俺にはグロリアがいる、だから否定しろっ、否定するんだっ。
「あれぇ、今、グロリアよりも」
「黙れ」
久しぶりの感覚、俺はキョウを否定した、否定したのにこいつは。
こいつは。
「そうかぁ、肉体があれば、肉体さえあれば」
その呟きは何時までも何時までも。
何時までも、それを得るまで。
答えを見つけた。
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