第129話・『第二使徒の六課化、久しく』
四肢を失って宙に浮かんでいる自分、浮遊能力が無かったらと想像するとかなりキツイ、四肢を美味しく頂いたエルフライダーはお腹を撫でながら満足そうに微笑んでいる。
思った以上に貪欲な食欲だ、放置してしまえば世界が滅亡するかもね?成長途中でこれだけ貪欲な食欲を持っている事は想像出来なかった、高位の魔物を取り込んでいるのに満たされていない。
瞳に正気が戻る、それはエルフライダーにも言えるしアタシにも言える、迸る魅力と魔力で精神を操作されていた、そんな風に思う、あらゆる生物を己の虜にして眷属にして一部にする存在、我ながら素晴らしい生物を創造した。
魔性の生き物はゆっくりと立ち上がる、その動作すら美しい、苔に囲まれた世界で己の美を完璧に維持している、何者にも何事にも干渉されない不可侵の存在、興奮する、ついつい息を飲んで見守ってしまう、夢中になってしまう、子供のように。
「美味しかった、御馳走さま、手足無くなったけど大丈夫か?」
「貴方のお腹は蛙のように膨らんでいるけど大丈夫かしら?アタシは大丈夫、すぐに回復するわ」
「手足が生えて来るのか?俺の事を蛙と言いながらお前もヤモリ見たいじゃん」
「創造主の一人に無礼な……でも良いわ、貴方の生態もかなりわかったし」
「そうかそうか、何だかわからんが満足してくれたなら良いぜ、手足も美味しかったぞ」
「自分の事を実験動物のように言われて傷付かないの?」
「別に、お前は餌をくれる良い奴だ、だから大好きだ」
ッあ、顔を覆い隠す腕が無い、なので赤面した顔を見られる事になる、何て無垢な生き物なのだろうか、人の悪意を受けても何一つ変わらない、アタシの事を悪者のように捉えてくれたら一番楽なのにそれをしてくれない。
顔面血だらけのままこちらを見詰めている、血生臭い、グロテスクだ、肉片もこびり付いている、元々はアタシの細胞なのに他者の顔にこびり付く様は見るに堪えない程に汚らしい、潔癖なのかしらアタシ、しかしこの子の食いカスだと思うと何とも思わない。
先程からあまりにエルフライダーを肯定し過ぎている、全肯定していると言っても良い、まさか能力がアタシに浸透している?だけど精神に異常があるようには思えない、エルフライダーの能力は極端だ、発動するならもっとはっきりとした形で現れるはずだ。
深呼吸する。
「アタシは貴方の創造主の一人」
「そうか、食わせろ、全部くれ」
「聞きなさい、貴方に教えたい事が沢山あるの、貴方を生みだした経緯も貴方が魂だった時に改造した事も、天界の者も加担して貴方を」
「いらん、食わせろ、手足だけじゃ足りない、食わせろ、切断面を見せろ、もっと見せろ」
「ちょっと落ち着きなさい、アタシの話を聞いた方が貴方にとって利益になる」
「その声いいな、声帯を噛み千切って取り込めば俺もその声になるな、どんな味だろ?まだ声から味の想像は出来ないんだ」
「――――――――――――」
「どうしてさっきは手足をくれたのに今度はくれないの?ねえ、どうしてさっきは手足を嬉しそうにくれたのに今度は俺にくれないの?」
「わ、わかったから」
「意地悪するの?どうしてさっきは手足をくれたのに今は意地悪しているの?中身が入れ替わったんだ?脳味噌が入れ替わったから人格が変わったの?」
問い掛けは子供のソレだ、全てが曖昧でその時の気持ちをそのまま口にしている、黄金と漆黒の瞳の表面が揺らめく、泣きそう?言葉は攻撃的なのに仕草は愛らしい。
瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、人を惑わす美しい二重色、ねっとりと全身に絡み付く視線。
糸と銀糸に塗れた美しい髪、光を鮮やかに反射する二重色、瞳と同じで色合いは複雑で優雅だ、何処までも鮮明な色合いを持ちながら人の形をしている、複雑な色合いと整い過ぎた美貌、そして無垢で愛らしい表情。
涎を垂らしながら愛くるしい仕草で体を寄越せと脅迫する、徐々に人間性を失って先程と同じ獣のような所作が目立つようになる、これは少し黙らせないと駄目なようね、溜息を吐き出しながら四肢の回復を待つ。
「手足は、全部で四本で、本体は、首と体を切り離して、二つにして食べます、二つあると一度で食べるより、とても、良いです」
「このまま戦闘は回避出来ると思ったけど、まさか手足をくれてやった上に話しも聞いてくれないとはねえ、何とも恐ろしい生き物を作り上げたものね」
それともアタシ達が開発したと思っているだけでコレも全て神の掌の上なのかしらね?勇魔とエルフライダー、始まりと終わりの子だけあまりに異常な能力を保持している。
エルフライダーの能力を強化して開発したつもりだったがそれも間違いなのかもしれない、目の前で四肢を大地に預けながら威嚇するソレを見ていると自分達が成した事が正しい事なのか少し不安になる。
「食べる、食べる、食べて、すっきりする、手足くれたのにぃ、もぉ、どうして」
「さて、少し本気を出しましょうかね」
『――――――――――そこまで、キョウは戦える状態では無い』
アタシが招き入れた者しか立ち入る事の許されない世界で他者の声がする、瞬間、エルフライダーを中心に描くように結界が展開される、抵抗も出来ずに地面に突っ伏すエルフライダー、瞳は凶暴性に満ち満ちている。
空間に罅が広がりそこから一人の少女が現れる、上半身と下半身が一続きになった黒塗りのローブ、上衣とスカートが一体化した形状のローブ、その衣装は知る者が見れば恐怖で思考が停止する代物、アタシも流石に緊張する。
老婆のような褪せた白色の髪が宙に舞う、ロングのストレート、肌は白でも黒でも無い中庸の色をしている、顔の造りは整っていて美少女と言っても良いのだが何処か陰がある、瞳の色は夜の帳を思わせる底無しの黒色、垂れ絹が世界を黒く染めるように冷徹なものだ。
白色の髪が疲れ果てた老人を思わせる、幼くて無垢な顔をしているのに相反している、矛盾を感じてどうも見ていると気持ち悪くなってしまうような存在、年齢は人間で言うならば10歳ぐらいの姿で固定されている、そう、人間では無い。
「第二使徒、六課化(ろくかか)………何か御用かしら?」
「――――――――――――キョウに妙な入れ知恵をさせない為に、貴方を消すように主に言われただけさ」
――――――――――瞬間、地面が割れる、結界が吹き飛ぶ。
風が靡く、六課化の老婆のように褪せた白色の髪の隙間から何かが見える、尖った耳、エルフの耳、使徒として誕生した時から種族をエルフとして固定したとでも?勇魔は何処までも生命を弄ぶ、そしてこの圧倒的な気配。
「エルうぁああああああああああああがああああああああああああああああああああああぁぁぁ、ぁぁあああああああああああああああああああああああああああ」
最悪のタイミングで覚醒するエルフライダー、悍ましい、涎を撒き散らし泡立つ口元をそのままに髪の毛を逆立てる。
それに、そんな化け物に微笑む化け物は。
「――――――――――――――おお、怖い」
子供を迎え入れる母親のように両手を広げて微笑むのだった。
「――――――――――おいで、遊んであげよう」
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