第127話・『エルフライダーって化け物に物凄く優しくて狼狽える、こわい、すき』

餌の気配を感じる、妖精の力で透過して足を踏み入れた世界は苔に支配された空間だった、植物大好きな俺からしたら夢のような空間だがここで戦う事を考えたら少し憂鬱だ。


筆苔、羽根羊苔(ハネヒツジゴケ)、細葉翁苔(ホソバオキナゴケ)、髢文字苔(カモジゴケ)、砂苔、這苔、杉苔、多種多様の苔が生息環境の違いがあるにも関わらず密集している。


違和感に首を傾げながら歩き出す、魔力で強化されているのか踏み付けてもそのままだ、成程、戦闘で気を使う必要は無いなと少し安心する、世界の中心だけ光が満たされている、あそこにいるのか?


「よぉ、あんたが俺の餌だろ?早く食わせてくれよォ、んふふ、美味しそうだねキョウ、あはは、そうだなキョウ」


ザーザー、砂嵐で視界が乱れる、キョウが心配して干渉している、いや、キョウはこいつの事を知っているのか??俺では読み込めない情報もキョウは楽々と読み込む、過去の記憶の管理は全てキョウに任せている。


俺の精神状態だと過度な情報を与えると精神崩壊しちまうからな、しかし何処か懐かしさを感じるのも確かだ、どうしてだろう?魔王軍の元幹部に知り合いなんているはずが無いのに愛しさのような感情が湧き出て来る。


こいつの能力かな?しかしエルフライダーは精神を支配する化け物、他者の干渉は受けない、だとしたら本当に知り合いなのだろうか?キョウに情報を渡せと命令するが拒否される、拒否ってより拒絶かな?しかし関係は良好。


つまりはこの記憶を受け入れるだけの状況に俺が無いって事か?むぅ、こんなに美味しそうな餌と過去に何かあったとしたら知りたいけど仕方ねぇ、しかしまた幼女か、人間で言うならば10歳未満だな、ガチ過ぎる、でも食べる。


柔らかい餌は嫌いでは無い。


「餌ァ、聞いてるか?」


「まずは挨拶が先でしょう?小さい時に教えたはずよ」


「ああん、ふざけ」


「駄目、例えどんな相手にも挨拶をしないと、ほら、出来るはず」


「て、てめぇ」


「例えアタシが餌だとしても食べ物に敬意を抱けない子供に育てた覚えは無いわよ、アタシの子なら出来るはず」


「な、なにを………」


アタシの子?何を言ってやがる、それを設定してお前を狂わせるのは俺のはずなのに肉親のように接して来やがって、調子が狂う、苔の世界の真ん中で少女は俺を説教している、ガミガミガミ、何処で監視しているのか知らねぇけど良く知ってるなあ!


何より性に関する事を幼女に説教されるのは辛い、餌は選んで食べなさいとか取り込む一部は品がある奴にしなさいとか俺の身を案じている……エルフライダーの母親って感じだ……俺が赤子の時からこんな生き物だったらこんな母親が欲しかったぜ。


戦わないと駄目なのか?腹が鳴る、エルフライダーの本能が餌を食べないと自己を維持出来ないと脅迫してくる、お、俺の癖に俺に指図するな、キョウは黙ったまま見守っている、影不意ちゃんも黙っている、飢餓状態では無い、まだこいつと話して良い?


話していると不思議な気持ちになる、まるで母親と話しているようなグロリアと話しているようなそんな気持ち、敵意を抱けない。


「お、おはよう」


「今は昼だから、やり直し」


「こ、こんにちは、キョウです………貴方を食べに来ました」


「ふん、まあ、良いでしょう」


「食って良いのか!?エルフと餌の事しか考えられないんだっ!よし、食うぞ、餌、えさぁぁ、だいすき」


「落ち着いて、まだ食べられないわよ、ったく、そんな状態で好きって言われても嬉しく無いつーの」


「えさ、おまえ、おいしそう、えさ、えさ、はやくひとつにぃ、えさあ、おいしそう、かわいいかわいい、だいすき、あいしてる、おなかにはいってェ」


「う、落ち着け、そして何だか少し嬉しいわ、何故かしら?えい!」


「イテェ!?」


飛んだ意識が元通りになる、どうやら頭を軽く叩かれたようだ、空中に浮いているそいつの姿を観察する……………月の光を連想させる薄い青色を含んだ白色の髪、月白(げっぱく)の色合いをしたその髪は天に漂う月のような美しさだ、思わず見惚れる。


月が東の空に昇るの時に空がゆっくりと明るく白んでいく光景をも指す月白、そんな美しい髪をフレンチショートにしている、上品な印象を見る者に与える、前髪は斜めに流していて清潔感がある、無性に撫でたくなる衝動を抑える。


肌の色も同様に白いのだが頬の部分に奇妙な刻印がある、それが何を意味するのか俺にはわからない、瞳の色は薄い桜の花の色を連想させるソレだ……ほんのりと紅みを含んだ白色の瞳は見ていると心の底を覗かれているような不思議な気持ちになる。


全てが儚い色合いで構成された少女、穏やかな顔付きは幼女であるのに何故か包み込まれるようなイメージ、ニッコリと笑っている、笑顔だ、出会ってからずっと笑顔、笑顔で俺に説教する不思議な存在、そして俺自身もソレを嫌だと思えない、どうして?


詰襟で横に深いスリットが入った独特の服装をしている、東方服のように思えるが少し違うようにも見える……旗袍、チャイナドレスとも呼ばれる東方の民族のものだ、他の一部の情報を読み取りながら一人で納得する、幼女にはどうなんだコレ?首を傾げてしまう。


様々な華が模様として表現されていて凄く綺麗だ。


「な、何なんだよ、俺はお前を食べに来たんだぞ!ツツミノクサカ!」


「こんな姿だけど年上よ、呼び捨てにするのは駄目」


「え、えぇえぇ」


「ちゃんと出来るはずよ、さあ、もう一度」


「ツツミノクサカさん、お腹が減ってるので食べさせて下さい」


「そうね、アタシの話を聞いてくれるのなら……戦闘になるかと思ったけど、意外に冷静ね」


「お、お腹は減ってるんだ、気が狂いそうな程に……でも、お前を見ていると何か懐かしくて、くそ」


「あはは、他の製作者に会う度にそうやって狼狽えていたら捕獲されちゃうわよ?誰も彼もがアタシのように優しく無いんだから」


「おなか、おなかが」


「…………仕方無いわね」


血が飛ぶ、血だ、大好きな血が飛んでいる、目の前の餌が右手を引き千切る、幼くて柔らかそうな右手、まだかたくなっていない、今が食べ頃?


うあぁあああああああああああ、お、おいしそう、おいしそ、うん、どうしてちぎる?どおおして、どおおして、あはははは、おいしそうなぴんくにく。


「ほら、右手を食べなさい、少しはソレで我慢出来るでしょう?おいで、奥で話しましょう」


「どおして」


「子供が飢えてるんだから当然でしょう、こら、すぐに食べようとしない、食べる前は?」


「う、あぁ、おなか」


「ちゃんと言いなさい」


「い、いただきます」


なんなんだ。


いままでのてきとちがう。


みぎてくれた。


おれのために。


「こら、泣くな、男の子でしょう」


やさしい。

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