第125話・『苔を操る能力って何か好きぃ』
苔に覆われた空間、人類が生み出した造形物を自然が全て侵食している、圧倒的な光景に息を飲む、他の植物は一切無く苔で全てが覆われているのが特徴だ。
這苔(はいごけ)が目立っているな、苔は飼育が難しいが貴族に高値で売れる、何度か育てた経験もあるし親戚を通して商売品として扱った経験もある、部屋の中に足を踏み入れる。
這苔は匍匐性(ほふくせい)の苔で横へと広がるのが特徴だ、匍匐性とは植物の枝や茎が地面をに少しずつ這うように伸びていく性質の事を言う、這い性(はいせい)ともクリーピング性とも呼ばれる。
「綺麗な光景だぜ、う、売れるぜっ」
『園芸や造園に使えるよね』
「いや、ここまで見事だと鑑賞品として高値で売れるぜ」
『へえ、キョウちゃんは植物に詳しいね、今度色々教えてよ』
「お、お手柔らかに頼むぜ」
這苔の性質は貪欲で繁殖速度が異様に早い、半日陰日や日の当たる場所を好む傾向かあり他の植物の根元などで繁殖する、しかも土壌を選ばず岩の表面にも繁殖するので中々にパワフルな苔なのだ。
生命力も高く乾燥させた粉末状のモノを撒いて繁殖させる業者もいる、日光があまり当たらない所では濃い緑になって美しい、日光が良く当たる所では黄緑色になって目に楽しい、何だか久しぶりに土に触れたくなる。
なるべく傷付けないように歩きながら餌の気配を探る、この広々とした空間の真ん中から強烈な気配が流れ込んで来る、こいつの魔力を養分に這苔が繁殖しているのか?靴を脱いで素足になる、これで少しはマシだろう。
『キョウちゃん、植物大好きだね』
「そ、そうか?」
『戦いになったら全部吹っ飛ぶ事になるかもしれないのに、律儀だなって思うよ』
「その時はその時だぜ、それに餌に相談して苔の広がっていない場所で戦えるかもしれん!」
『そこまでお人良しな魔物なら黙って食べられてくれそうだけどね』
「魔物の母親と娘はもういるからな、次はどうしよう、どんな立場を与えようか、影不意ちゃん考えてよ」
『え』
「影不意ちゃんが決めてな」
『え』
「もし決めれなかったら影不意ちゃんの胎から俺が産まれます」
『罰則にしては生命の軌跡を冒涜し過ぎじゃない?』
そしてその後に了解と呟く影不意ちゃんも相当だぜ、この理知的で冷静な女の子の胎で育つのは実に楽しそうだ、邪笑を浮かべながら気配のする方向へとゆっくり足を進める、お腹は空いている、しかし影不意ちゃんの言葉で心が満たされている。
飢えに飢えている、しかし頭はスッキリしている、グロリアもキョウも信じる……だから俺は俺に出来る事をするぜ!!エルフライダーの本業は捕食だろ?だったら食ってやる、食ってこの優しい一部のような存在に成り果てて貰う、すまねぇな。
ビロードの様な特徴的な姿、髢文字苔(カモジゴケ)が球体に纏わり付いて空中に浮いている、この中から強力な魔力が周囲に流れ込んでいる、この中にいるのか?球体は中々に巨大で威圧感がある、緑色の光を放ちながらゆっくりと自転している。
「苔を操るのか?ここの主はよォ」
『それはまた特化した属性だね』
「苔大好きな俺からしたら実に良い能力だ、戦闘に使えなくても是非とも欲しいぜ!」
『何でもかんでも欲しがるのはキョウちゃんの良い所だね、貪欲なのは向上心の表れだよ』
「強くて可愛い女の子は一部にしてぇ」
『前言撤回、一気に犯罪臭がするようになったね』
「安心しろっ!どんだけ一部が増えようと旋毛の匂いが一番良いのは影不意ちゃんだぜっ!』
『安心する材料が一つも無いんだけど、キョウちゃん、あのね、旋毛は人にとって』
「旋毛は右巻きが好みだぜ!」
『マニアック過ぎてげんなりしてるよ』
宙に浮いた球体に触れる事は出来ない………結界も張られていないので下からゆっくりと見上げる、この中にいるのはわかるんだけどな、どうやって出せば良いんだろ?何度も周囲を周るが答えは出ない、しかし髢文字苔(カモジゴケ)の生え方がまた素晴らしい。
髢文字苔(カモジゴケ)は森の中の倒木や岩の上に自生する苔の一種だ、前述の這苔よりも生命力がさらに強く繁殖力も上だ、年中美しい緑色を保つために緑の少ない冬場は高値で買い取りをされる、鑑賞用として人気の苔だ、こいつは育てた事はねぇなぁ。
多少の乾燥にも耐える苔なので育てるのはそこまで難しく無いらしい、同じ方向に鎌状に曲がった形状が美しい。
「取り敢えず透過して擦り抜けるか」
『妖精の力だ、ユルラゥは本当に優秀だね、性格を除けば』
「そうだな、性格がなぁ、人殺しが大好きな妖精だなんて聞いた事が無いぜ」
『旋毛が大好きな人間も聞いた事が無いよ、しかも右巻きが好きだ何て』
「さあ、飛び込むぜっ!」
影不意ちゃんの旋毛が好きなだけで変態扱いとは酷いぜ?もし影不意ちゃんの胎で育つ時か来たら俺も右巻きの旋毛になりたいぜ。
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