第123話・『大賢者は都合の良い道具、見て楽しい虐めて楽しい、その胎は?』

一見すると昔ながらの伝統的な建築方式で造られているように見える古城、夕焼けの森の中に佇むソレは天に聳え立って己の姿を誇示している。


景色から浮いている、これを建築する素材をこの足場の悪い森の中どうやって運んだのだろう?それともこの城が建築された後に森が出来た?どれだけ悩んでも答えは出ない。


石造りでは無くて鉄骨組みの混凝土のようだ、ジロジロと城の周りを歩きながら素材をチェックする、祟木や影不意ちゃんが喜んでいる、ササとクロリアは冷静に情報を与えてくれる、インテリ最高。


おバカな一部はお呼びじゃないぜっ、しかし装飾過多だな、耐候性や耐久性も恐ろしく低そうだ、だけど素材に触れて理解する、魔力で何重にも強化された自然界では有り得ない強度のソレ、ふふ、こいつがこの城の主か?


魔力の波長を掴む、静かで穏やかで波の少ない眠りを誘う波長、俺の一部で言えば影不意ちゃんの波長に近いかな?その味は知っている、素朴ながら知識欲を刺激する実に良い塩梅の味、涎が溢れ出る、品も無く溢れ出る、ダラダラ。


「美味しそうだぜェ、美味そう」


『キョウちゃん、服の裾で拭わないでハンカチで拭こう』


影不意ちゃんの声が脳裏に響く、海辺の波を思わせる静謐な声、その声に従ってハンカチで涎を拭う、それに対して褒めるでも貶すでも無くクスクスと鈴を転がすような愛らしい声で応える影不意ちゃん、心が和む。


肉体には取り込んでいない一部、遠く離れた場所で冒険者として旅をしている影不意ちゃん、しかし心は繋がっている、魂は溶け合っている、こうやって脳内に直接話し掛ける事など容易い、どうやら暇を持て余しているようだ。


協力して?甘えるように問い掛ける、この時だけは少女の愛らしさを存分に活かして自分自身を甘い言葉で狂わせる、灰色狐とかなら一発で毒が回って俺の言いなりになる、愛の下僕として忠実に動く、一部に命令するのが必ずしも良策では無い、お願いも大事だぜ。


だけど影不意ちゃんは無言で頷くだけで変化が見られない、脳に映し出される映像には感情の昂ぶりが見られない、しかし桃色の波長を受信する、ニヤける、誰にも靡かない少女が俺に靡いて忠実な駒になる、それは実に俺を興奮させてくれる。


『いい、よ』


「そうじゃないだろ、ふざけんな」


『………僕を使って下さい』


「そうじゃねぇ、使い方も言え」


『ぼ、僕を上手に使って下さい』


「しらねぇよ、使い方は俺が決める、命令するなバカ」


『ありがとうございます』


灰色狐だったら荒探ししてもう少し楽しめるのに影不意ちゃんは一部としての振る舞いが完璧だ………それでも無理矢理理由を見つけて虐めてやると実に良い反応をする、またミミズにして遊びたいな、今晩ぐらい呼び寄せるか?


召喚をするのは楽しい、世界に罅が入って蹂躙される様は心地が良い、最近のもう一つのマイブームは孕む事と孕ませる事………影不意ちゃんの胎で育つのも楽しそうだ、俺もその眠たそうだけど理知的な瞳が欲しい、あは、あはは。


周囲を歩いて見て理解したがこの城はやはり森が出来た後に建てられたモノらしいぜ、細かく入り組んだ木々をそのままに城壁が建てられている、天然の地形を利用した山城の亜種のようなものか?難攻不落の城を目指しているのか?……この見た目で?


疑問が幾つも浮かぶが魔物の住む城だ、人間の理屈は通用しないだろうと無理矢理納得する、古城の背後には巨大な河川があった、妖精の力で水面を歩きながら感心する、グロリアの気配を感じないって事は俺だけが誘き寄せられたって事か?


「正面突破するか、面倒だし」


『そうだね、壊して入れるならそれが一番だよ』


「………影不意ちゃんって過激だよな、攻撃的と言っても良いぜ」


『力技で物事が解決するならそれが一番だよ、相手に恐怖を植え付ける事でその後の人間関係も効率良く行えるしね』


人間関係を効率良くとかで考えるかね、それであの相棒を選んだわけか?納得しながら足を前に進める、城は一般的には丘陵などに建てられる山城と河川などに沿って建てられる水城がある、この城は両方の資質を持っているので見ていて楽しい。


そして自分自身の身体能力が人間の範囲にいない事を少しだけ自覚しないとなっ!城の周囲を歩いて見てわかったがそもそもここは人の立ち入るような場所では決して無い、正面にはちゃんと門へ続く道があるのにそれに気付かなかった、気付けなかった。


知能が低下しているのか人間性を失っているのか判断し難い、不安になって少し膨らんだ胸を手で握る、どくんどくん、血は循環している、俺は人間だ、エルフライダーって名前の化け物では無い、そうじゃないと強く心に誓う、何度も何度も。


「ここが入り口が、でけぇ!俺の視覚で見れるだろっ!凄いな影不意ちゃん!」


『はしゃぐキョウちゃんは久しぶりかな?僕にはそっちの方が価値があるけどね』


「何でっ!?知識欲を満たすチャンスだぜ!!この勉強大好き少女めっ!」


『少女も恋をしたら勉強よりもそっちを優先するよ』


「俺に恋してるのかっ、自分自身にキモイぜっっ」


『それ女寄りのキョウちゃんには言わない方が良いよ、一日は泣き続けると思う』


「脳内が五月蠅くなりそうだ、アドバイスあんがと」


正面の道は城門に対して右から左へ進む方向に作られている、この城に攻め入ろうとする歩兵は盾で守られていない方の右側を城壁に向けながら歩く事になる、城の基本は守られている事に少し安心しつつ確信する、この城はやはり人間が建てたものだ。


高位の魔物からしたら盾を持っていようが持って無かろうが人間は人間でしか無いはず、少しその道を歩いて確認する、馬車がギリギリ一台通れるくらいの細くて曲がりくねった道、歩兵を疲弊させて集中力を低下させる仕組み、二度目の確信、よしよし。


「魔物が人間の住処を奪ったのか?違うな、古びて放置されていた城を住処にしたのか、だとしたら性格も読める」


『大人しいタイプの魔物だろうね、魔王軍の元幹部も色々だね』


「母親の為に同族を殺す奴もいるし、子供の為に同族を殺す奴もいる、んふふ、おバカさんばかりぃ、ここのおバカさんはどんな風にして壊そうかなァ」


『女寄りのキョウちゃんに汚染されているよ、あの娘は色々と計画を進める為にキョウちゃんの中で寝ているはずなのにね』


「そぉだよぉ、でも二人はお前達と違って本体だもん、だから明確な差は無いんだよぉ、んふふ」


『……………羨ましい』


「んふふ、あー、キョウに毒されたか、どうした?嫉妬しているのか?影不意ちゃんは影不意ちゃんって一部だから諦めな、んふふ、あは、キョウとキョウの間に入るなよぉ、つまりはそーゆーことだぜ」


『二人は一人だもんね』


「おう、さて、ここが入り口か」


跳ね橋を引き上げていない、何でも受け入れるってか?唯一の進入経路を開けっ放しでどれだけ自信満々なんだ、だけど俺にとっては都合が良いな、少し傷んだ橋の上を歩く、ギシギシ、中心の部分は腐っていないようだ。


城門に鎧戸は付いていない、絵物語の中では無いのだと実感する、しかし見上げて納得する、錆び付いて原型を留めていないだけか、上から凄まじい勢いで降りて来る格子の鎧戸は男心を凄く刺激するんだけどな、城内に足を踏み入れる。


「さぁて、ご飯の時間だ、行くぜ影不意ちゃん」


『ピンチになったら召喚してね』


「ピンチじゃなくても召喚するぜ、お前は見た目が綺麗だから鑑賞するだけで気分が和む」


『そう』


そして道具として優秀だぜ?美味しい野菜的な魔物に期待するぜ。


植物属性だからなっ!

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