第120話・『幼馴染からのプレゼントはオリハルコン』
近付けばこっちのもんだ、レクルタンの力を解放して火の属性の妖精を生み出す、炎を纏った少女達は西洋甲冑の鋼鉄の肉体へと沈んでゆく。
鋼鉄の肉体が大きく震えて膨張する、泡立つように表面に凹凸が誕生する、やがて大きな煙を関節部から吐き出して機能を停止する、中々に手強かった。
レクルタンの能力は実用的だ、相手に応じて様々な属性や様々な姿かたちの妖精を生み出せる、相手が生物の場合だとその魂から亡霊を加工して妖精や亡霊を無限に増殖させる事が出来る。
強力無比な能力だが人間の世界では些か常識外れかも?あまり他者に見せるのはまずいかもな、俺の肉体を構成する何割かは高位の魔物のモノだ、狩られるのは御免だぜと苦笑する。
「さて、情報を」
そう言って甲冑に触れようとした瞬間、サラサラと鉄の巨体が砂になって崩れてゆく、しまったと思ったのも束の間、強い潮風に吹かれて一気にその身が崩れてしまう。
何も情報を引き出せないまま呆然とその場に立ち尽くす、オイオイ、襲撃者か誰かわからねぇまま旅を続けろってキツイぜ?せめてヒントになるものでも落ちていないかと周囲を見回す。
しかし現場に残されたのは壊れた建物と燃え盛る炎だけ、溜息を吐き出しつつその場を後にする、宿屋の主人には悪いので錬金術で建物を修復する、妖精の寿命との等価交換、万事はコレで解決する。
「逃げられた事を正直にグロリアに伝えるか?逃げられたつーか何だろな」
釈然としないまま歩き出す、グロリアのいる高台はこっちの方向だったな、背を向けた瞬間に背後に気配を感じる、戦いが始まる前から感じていた微妙な視線、ファルシオンの柄に手を当てて呼吸を整える。
振り向くと同時にファルシオンで薙ぎ払う、金属同士が接触する甲高い音、鼓膜を揺らして視界も大きく震える、姿を確認する暇も無く何者かに腹を蹴られる、刺すような痛みと口から吐き出される空気、苛立ちのまま蹴り返す。
硬い感触、少なくとも生物の感触では無い、生理的な気持ち悪さを感じつつそのまま追い返すように蹴り飛ばす、無茶な体勢のまま反撃したせいか体のあちこちが痛い、しかし第二の刺客を前に寝転ぶわけにもいかねぇしな。
「また鉄の化け物かよ」
『おはよぉ、あれ、まだ戦ってるのォ?』
「さっきの奴は倒した、そしたらまた新しいのに襲われた、参るぜ」
『これまた何とも言えない化け物だねェ』
液体のような金属のような何とも言えない化け物が球体になりながら俺を威嚇するように震えている、先程の魔物がまだ無機質さの中に魔物としての形を残していたのと違って完全に流動する金属の何者でも無い。
水銀のような常温で液体となる金属では無いように思える、これは何だ?そう思った矢先に鋭い槍に変質したそいつの表面がこちらに向かって飛んで来る、意思を感じさせないその攻撃に背筋が震える、何だこいつっ!
頬から血が流れる、それに興奮したわけでは無いだろうが敵は地面をズルルと滑るように肉薄して来る、初速と移動する速度がまったく変わらねぇな、加速の概念がねぇのかよ、初めから恐ろしい速度で移動するそいつが不気味で堪らない。
「うおぉお?!武器が色々出て来やがるっっ、怖っ!」
『避けろー、避けろー、当たると死ぬよォ?』
「うおぉお?!もう一人の自分の応援が思いの他に軽いっ!?」
その性質から見てファルシオンの攻撃は意味が無いだろう、命が宿っていると思えないので妖精の力で支配出来ないか試して見るが弾かれる、そしてその性質を分析して全身が震える、オリハルコンを流動金属状にした化け物。
どのような秘術を用いてこのような魔物を生み出すのか?これは流石に冗談がきついぜ??最強の武具に用いられる勇者の為の至高の金属が魔物となって俺に襲い掛かっている、先程の魔物と今回の魔物、どちらも見た事が無い。
誰が裏で手引きしてやがる?奥歯を噛み締めながら体の中に眠る三人の情報を閲覧する、しかし類似する魔物すら情報に無い、勇魔の魔物かと疑うが特徴が少し違うように思える、勇魔の魔物はもっと幾何学的で意味不明なのだ。
この二体は明確な属性を感じさせる、機械、鉄?
「斬新っっ」
褒め称えながら攻撃を避け続ける、魔力を感じさせない鉄の化け物、あらゆる武器に変化して俺を追撃する、粉砕された建物の破片が足場を悪くしているのにそいつは何の不都合も無いように自由に移動する、液体だもんなっ!
『キョウ、気付いてないけど』
「あん?」
『これ、新しい魔王の眷属だよ』
「―――――――――」
知るかっ!心の中で吐き捨てる、新たな魔王が誕生しようが何だろうが俺に干渉する奴は等しく敵だ、しかし新しい魔王の誕生か、こんな無機質な化け物を生み出す魔王ってどんな奴だよ?ギルドでも確認されていない新種がどうして俺を襲う?
しかし戦って見てわかる、新たな魔王は中々に凶悪で強力な力を持っている、人類もギルドも忙しくなるぜ、苦笑しながらも攻撃を避け続ける、相手に疲れの概念があるか確認している……しかし最初から現在まで攻撃の速度もパターンも変化が無い。
だけどどうしてキョウがそれを知っている?
『んふふ、懐かしい気配だもんねェ、団子三兄弟だった頃が懐かしいねェ、あの頃からキクタはヤバかったけどォ』
「な、何の話だっ」
『これで勇魔に管理されていた頃の魂の三人が揃い踏みしたって事ォ』
「わかんねぇけど、こいつどうするよ!」
『今のキョウの情報は回収出来たからそろそろ帰るんじゃなぁい?』
キョウの言葉が言い終わると同時にそいつの動きが停止する、は?ズブズブズブ、地面に沈むように消えて行く、その異様な光景を見詰めながら尻餅、た、助かった。
な、何だったんだ一体。
「ご――――――――――ぎ―――――――――――」
「あん?」
「おい、お祝い、お祝い申し上げます、共に現世に誕生出来た事を―――」
聞いた事の無い声なのに聞いた事のあるような錯覚、地面に沈んで消えるそいつは少女の声で喋りやがる。
気持ち悪い、ファルシオンを叩き込むと感じたのは固い地面の感触のみ、逃げたか。
「魔王が何で俺にお祝い申し上げるんだよ」
『んふふ、ないしょ♪』
どいつもこいつも、俺は溜息を吐き出した。
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