第119話・『チェンジ!タソガレ!スイッチオン!』

グロリアが命じた通りに同胞を殺したらしい、その情報をキョウから受け取りながら歓喜に震える。


ついに計画が歪んだ、小さな罅かもしれない、だけど自分の理想を排除してまで俺を優先した、心が満たされる、優越感と支配欲で心が一杯だ。


そんな甘美な時間を楽しむ吹き飛ばすようにソレは現れた、否、現実的に吹き飛ばされたのだ、宿そのものが崩壊する光景を見詰めながら体に妖精の力を纏わせる。


悪寒を感じた瞬間に宿の中にいたドワーフ達を強制的に空間転移させた、キョウの仕業か?あいつめ、俺ばかりを優先する悪癖を我慢して俺の望む事を実践しやがった、ソレに対して心の底から感謝する。


グロリアが殺した相手の仲間か?それとも別件か?粉砕された建物の破片がスローモーションで流れてゆくのを横目にファルシオンを抜いて地面に降り立つ、反動を抑えきれずに体が後方へと流れてゆく、靴底が熱を帯びて熱い。


「けっ、派手な攻撃だぜ」


「んふふふ、褒めて褒めてぇ、使徒の空間転移はキョウにはまだ扱い切れないからねェ、お任せあれだよォ」


「使徒?そんなことよりも何だコレ、情報を読み取ったけどグロリアの相手は同胞のシスターだろ?これはどう見てもシスターの攻撃じゃねぇぞ」


「別件だろうねェ、嫌なタイミングが重なっちゃったなァ」


「世の中は何時も不条理だぜ」


唾を吐き捨てながら体勢を立て直す、何処のどいつの仕業かわからねぇけど俺から俺を奪う奴は殺されても文句を言えないんだぜ?ターコイズブルーを基調とした街並みが排煙によって包まれる、火事か?


海沿いの街だから火消しの水に困る事はねぇだろ、脅威を感じて街の外に逃げようとする人々を背にして俺は対象に向き直る、土煙の中で何かが蠢いている、グロリアも異変を感じてすぐに駆け付けるだろうが油断は出来ねぇ。


土煙の中からそいつが姿を現す、ガシャガシャ、ブーン、金属音と重低音が入り混じって不快だ、耳を手で押さえながら煙の中から出て来たそいつを注意深く観察する、機械の化け物、無機質なソレが誰かの命令のままに稼働している。


巨大な西洋甲冑の関節部にはコードやら何やらが剥き出しになっている、体色は白銀色に数色の虹状の彩りが細かく施されていて目に眩しい、生物と同じように自立して動く様は無機質な見た目と合わさって嫌悪するべきモノのように思える。


「でけぇ、巨大な西洋甲冑の化け物だ、中身は機械か?」


「アレも魔物になるのかなァ、何だかわからないけどキョウを敵として認識しているようだよォ」


「お前もキョウだろうが、バカ」


「えへへ、そうでした、取り敢えず倒して情報を抜き取ろう、ササの技術なら朝飯前だよォ」


しかし相手は金属の塊だ、生半可な攻撃は通じないだろう、刹那、西洋甲冑で言えばブレスと呼ばれる部位が赤く点滅する、フルフェイス型の兜に用意された視界と呼吸を確保する為の穴だが急速に光がそこに収束してゆく。


光が唐突に一直線に放たれる、指向性や収束性が異常だと認識する暇も無く体が勝手に動く、薙ぎ払われるソレは建物や地面を抉りながら一直線に全ても燃やし尽くす、その貫通性たるや一切の抵抗を感じさせずに全てを貫き通す。


指向性エネルギー兵器、誰の記憶かわからないがそのような単語が浮かび上がる、現在の技術から大きく逸脱したソレは飛翔体を必要とせずに対象に直接エネルギーを投射する事が出来る、その威力は御覧の通りだ、切断された建物が斜めに崩れ落ちる。


「ハァハァハァ、魔法か?違うよな、そんなものよりもっとヤバい代物だ」


「照射攻撃を光の粒子で行っているようだねェ、魔法では無いね、それよりももっと無機質でもっと実践的だよォ」


「一直線にしか放てないようだがその速度と貫通性がヤベェ、走り回って避けるしか方法は無い、か」


「変わる?それとも代わる?」


この状況に適した一部に変化するかキョウに任せてしまうか、実際に襲われたのは俺だ、キョウに代わる選択肢はねぇなぁ、それに妹みたいなもう一人の自分に頼るのは恥ずかしいし情けないぜ。


「キョウ、奥に引っ込んでくれるか?妖精の力で周囲を感知して生きている奴がいたら転移させてくれ、俺はこいつに集中する」


「りょーかい、それで、誰で殺るか決めたのォ?」


「おう」


「負けんなよぉー、ふふ、カッコいい姿を期待してるんだからね」


どくん、心臓の鼓動が大きくなり冷汗が噴き出る、流石に他の一部に転じるのとは違って同じ天命職に変化するのはかなりしんどいな、魔王軍の元幹部三人を取り込んだ事で情報所理能力が著しく低下しているようだ、ね、寝て良かったぜ、少しはマシになった!


割れたガラスの破片に変化を終えた自分の姿が映し出される、世には様々な美しさが存在するがこの姿のソレは豪華絢爛とも言えるものだ、着飾る必要も無い程の圧倒的な美貌、そして古代から人間を惑わせた黄金色の髪、それは生命の息吹を黄金に宿し太陽の光を艶やかに反射する。


そして耳に僅かにかかる程度に切り揃えられた髪型は中性的な雰囲気を強くしている。


「よし」


『余を使うか』


生真面目さを感じさせる実直な声、愛らしい女性の声なのだか芯の太さを感じさせる凄まじい気迫を含んだ声、タソガレ・ソルナージュの声は覇者の声であり聖女の声でもある。


人を統べる為に育てられた少女が俺の一部として従順に振る舞っている、脳内に響く覇気に満ちた声が俺のモノだと思うと歓喜で小躍りしたい気持ちになる、ふふ、しねぇけどなぁ。


ガラスの破片に映り込んだ姿を何度も見る、何度も何度も、前髪はサイドから片面に寄せており清廉で清潔なイメージを見る者に与える、本人である俺にすらそのような印象を与えるこの体の完璧さっ!


「姉さんを使ってあいつを倒す、ちゃんと使われろ」


『いいだろう、余の能力ならばあいつの攻撃を凌ぐ事も出来よう』


先程とは違って逃げる事はせずに正面から堂々と立ち向かう、姉さんを取り込む際には灰色狐が手伝ってくれたお陰で無傷で事を済ませる事が出来た、しかし本来の姉さんの能力を考えたらエルフライダーの能力でも太刀打ち出来ない代物だ。


鉄靴、サバトンと呼ばれる足を防護する為の板金製の防具が地面に沈む、こちらの変化を感じ取ってあいつも勝負に出た、正面突破、機械の分際で中々にわかっているじゃねぇーか、兜の中心がまだ点滅する……そんなに連続で発射出来るものなのか?


理不尽さに苛立つ、あの攻撃を連続で発生させるのに必要なエネルギー源は何だ?あれがまかり通れば魔法そのものを否定する事になるぜ!高温超伝導物質によりエネルギーの無駄を減少させているのか??妖精の力と錬金術で化け物の体を透視する。


発振させる際に余ったエネルギーは全身を冷却する為に使っているようだ、あれを放つのに膨大な熱量を自分の体に留めないと駄目なわけだな、ならば攻撃のタイミングにさらに熱量を加えたらどうなる?ふふん、少し希望が見えたぜ。


『ギ―――――――――――――――――ガガッ』


放たれる必殺の一撃、直撃すれば一瞬で体が蒸発してしまう、しかし今の体は姉さんの肉体、神の子供の一人にして星定めの会の最高幹部タソガレ・ソルナージュの肉体なのだっ!戦う事は無かったがその肉体に秘められし能力を解放する。


天命職『無敵前進ノ乙女』……攻撃は全て俺の背後に流れる、前方向からの干渉を全て受け流す無敵の能力、恐ろしい指向性エネルギー兵器もこの能力の前では赤子も同然っ。


そいつの目の前に立って微笑む。


「姉さんの能力、やっとわかったぜ」


『わかりもしないで取り込んだのかっっっ』


怒られた。

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