第118話・『奪い続けた最悪の悪女』

恋心を自覚したつもりで自覚していないのはグロリアの方よねェ。


私はキョウの中に浮かびながらグロリアの様子を遠視する、錬金術って凄く便利だよね、最近は私の事を認めたのか多くの一部が力を与えてくれる。


それだけグロリアに対する視線が厳しくなっているって事、私は確かにキョウの望むがままに行動はしないけどキョウの為に行動をしている、その心が一部にもやっと伝わった。


しかしクロリアは靡かない、私の命令を拒否する所の話では無く全てを拒絶している、彼女はキョウの為に生まれた、ある意味ではもう一人の私、主導権を渡すつもりは無いようだ。


んふふ、キョウが幸せになるならどうでも良いんだよ。


「んー、キョウ、何か悪い事を考えてるな」


「んふふ、そぉだよ、暗躍してるからね♪体調はどうかなァ?」


「飯の時間までベッドで横になってろと言われてもな、でも疲れは取れたぜ」


パン焼き場があるちゃんとした宿だ、屠殺場や醸造場もありここで全てが事足りるようになっている、蝋燭は高級品であると同時に危険な代物だ、部屋に備え付けているのも珍しい。


一般的に出身国が同じ亭主の宿には逗留出来る決まりがある………この宿の亭主はドワーフらしく宿泊客もほぼドワーフだ、小さい体躯にムキムキの筋肉にゴワゴワのヒゲ、豪快に笑う姿は中々に気持ちの良い連中だなと思わせる。


この街の設備も素晴らしいよねェ、んふふ、グロリアが呆然とした顔で立ち尽くしているのを遠視しながら思う、それが恋って感情の怖さだよね、合理的に事を運べなくなっちゃう恐ろしい病、裏切り者の人数を聞き出さなくて良かったのかなァ?


猫のようにベッドの上で寝転がっているキョウ、少し安心した表情、私が精神の底に沈んでいる時は何処か無意識に緊張している、グロリアの事は大好きだけど利用されている事は理解しているんだもんねぇ、ホント、可愛いんだから♪


体の主導権も簡単に譲ってくれる、ユルラゥの助言をちゃんと聞いている、あの子はキョウにとって大事な一部なんだねぇ、何となく他の一部が口にしても聞き入れてくれないような気がする……ユルラゥが私を信じろと言ってからキョウは少し変わった。


無防備になった。


「キョウったら、極端なんだからァ、悪い大人に騙されてえっちぃ事をされちゃうよォ」


「俺は男だぜ」


「男でも可愛かったらされちゃうよぉ、そうしたらどぉする?」


「お前に切り替わって相手させる」


「きゃー、やだやだ、おじさんやだー」


「えっ、おじさんは駄目だ、おじさんで想定はしてなかったぜっ!そしておじさんにエロい事をされるのは死んでも嫌だぜ」


「くすん」


「いや、俺も泣きたいわ、どうしておじさんと俺で想定しやがったこのヤロォ」


「わぁ、キョウが怒ったぁ!くすくす、おもしろーい」


「テメェ」


キョウの感情は全て愛しい、全て受け入れる、だけど部下子やアクを喪失した時に向けられたあの感情は処理出来ない、だから記憶を消す事で何とか自我を保っている。


勇魔めぇ、キョウに餌を与えるつもりがグロリアの過度な餌やりにビビっているでしょう?グロリアの計画は私達の体を蝕むが勇魔の計画も歪ませている、本来の計画に無い一部が大勢だもんねェ。


魔王軍の元幹部を三人取り込めたのは嬉しい誤算だよねェ、この三人で使徒一人ぐらいは相手出来るかなぁ?それよりも恐ろしいのはキクタだけどねェ、キョウがこれだけ取り込んでも覚醒する気配が無い。


あの子は特別、特別の中の特別、キョウは覚えていないし思い出す事も無い、一人の少女をエルフへと転生させた、そう、エルフライダーが己の為だけに専用のエルフを生み出したのだ、故にどの一部よりも強力。


これだけカードが揃っているのに安心は出来ない、あの子はキョウの一部でありながらその支配を受け付けていない、今まで何度もあった命の危機、その度に覚醒を命じたのに全て拒否している、いや、深く深く眠っている。


あれの原型になった子も歪(いびつ)だった、キョウには普通の娘に見えたかもねェ、でも同性の私から見たらアレはそうだね、キョウはキクタと再会した時に初めての出会いだと勘違いした、しかし事実は二度目の出会いだと?違うの、違うんだよキョウ。


クロカナを■したのも、アクを■したのも全て、前者はキョウを裏切ったから、後者はキョウと相思相愛になったから、キクタが転生した後に二度も出会っているんだよ?最悪の場面でね。


そしてあの娘は自分の記憶を改善して何も知らない少女の顔をしてキョウに近付いて来たんだよ、エルフライダーの能力を二度も使用した事でキクタはさらに変化した、あの娘は必ずキョウを取り戻しにやって来る、さらなる力を得てさらなる愛情を持って。


規格外の一部は全ての勢力にとってジョーカーと成り得る。


「キョウ?」


「な、何だよ、どうした?」


「ううん、キョウは一部の皆が好き?」


「好きだぜ、どいつもこいつも我儘で喧嘩っ早くて恐ろしい一部だけど好きだぜ」


「どうして」


「何だかずっと一人ぼっちだったような気がする、でも一部は俺だしずっと俺だろ?だから嬉しい」


グロリアも勇魔も自分の愛情の為に世界を歪ませている、だけどキョウの幸せを願っているのも確かだ、だけどキクタは違う。


あの娘は自分の幸せを願っている、その為にキョウを必要としている、ずっとずっとキョウの大切な者を奪い続けて嘲笑って来た、だから私がここにいる、キョウの中にいる。


貴方を倒すのは私だもん。


「そう、キョウからもう何も奪わせないからね」


「あん?何言ってるんだよ、お前も俺だろ?一部より俺だろ?だったら」


「――――――」


「だったらお前が一番奪われたら駄目な存在だぜ、誰にも渡さないぜ」


私も同じなんだよ。


貴方をあいつに奪わせない。

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